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第27話 お散歩1

 片瀬はハンカチと俺を交互に見つめ、ただただ困惑している様子。なんならハンカチを渡される意味を理解していないまである。


「ほら、手も服もまだ汚れてるから。綺麗さっぱりとまではいかなくても、多少はマシになるだろ」


「――で、でも、それは悪いよ。花厳君のハンカチが汚れちゃうし……」


「ハンカチは汚れてなんぼだろ。一度も汚れたことがない綺麗なままのハンカチなんてハンカチじゃあない。職務放棄もいいとこだ…………えっと、だからつまり、遠慮なく使ってくれ」


「…………ふふ、なにそれ」


 片瀬の気の抜けたような笑いが、空気を弛緩しかんさせる。


「ありがとう、花厳君」


「……どういたしまして」


 ハンカチを受け取った片瀬のあどけない笑顔は、太陽を直視しているかのように眩しすぎて、思わず俺は目を逸らしてしまう。


 ああ、タロウ……お前は本当に可愛いヤツだな。


 いつの間にか俺の元まできていたタロウを目のやり場にすることで、心を落ち着かせる。


「タロウ、花厳君にすっかり懐いちゃってるね」


「みたいだな」


「うん。でも、初めての人にここまで懐くのは珍しいかも」


「そうなのか?」


「うん」


 ほほぅ……コイツめ、中々見る目があるじゃないか。


 自分だけ特別。それは男子の気分を上々させる自意識であり、舞い上がってしまう根拠になり得る。もちろん俺も例外じゃない。今だって嬉しさのあまりタロウを必要以上に撫で回してしまっている。


 仰っていることがわかりません、さっぱりですわ。そういう方は是非、ネットで中二病と検索してみてくれ。そこにはきっと、自分だけが特別という思い込みが度を超えてしまった人のエピソードが多く記されているはずだから。そしてきっと、自分にも思い当たるであろう例が一つや二つ、見つかるはずだから。


 とは言え、だ。現在進行形で中二病を患っている人や、中二病だったという過去形の人を揶揄やゆしたりはしない、できない。


 何故なら俺も昔、その痛すぎる病を患っていた患者の一人だったから。いや、もしかしたら今もそうなのかもしれない。こればかりは他人の評価によって決定されるものだから、自分では判断のつけようがないが……自分が痛いヤツだという自覚はある。


 中二病……いや、もっと可愛げのない高二病ってやつかもわからん。


 なるほど、つまり俺はボッチになるべくしてなったということか。望んでボッチになったというのが俺のスタンスなわけだが、というか本心なわけだが、仮に望んでなかったとしてもボッチの地位は揺らがなかったと。


 おいおいマジかよ、自分を証明しちゃったよ、俺……自己分析ってこんなに切ないものなのね。


「――花厳君」


 ちょっとした自己嫌悪に陥っている俺を、片瀬が呼ぶ。振り返ると、リードの持ち手をこっちに差し出していた。


「ちょっと、持っててくれるかな?」


「あいよ」


 汚れを拭くのに邪魔になるのだろうと察し、俺は二つ返事で受け取った。


「ハンカチ、洗濯して返すね」


「え? ああ、そうか。悪いな」


「全然、それくらい当たり前だよ」


 そう言った片瀬だったが、何故か一向に手を動かさないでいる。


「なに固まってんだ?」


「……あ、あのさ……花厳君、この後、予定あったりする?」


「いや、別になにもないけど」


「じゃ、じゃあさ……こ、この後一緒に――お、お散歩とか! ど、どう?」


 なにかとんでもないことを言ってくるんじゃ……と構えていたが、どうやら杞憂きゆうだったようで。片瀬からのお誘いは実に気楽なものだった。


 そのあまりの気楽さに、俺は安堵するように笑みを浮かべる。


 そんな俺を見て、彼女はあたふたしだす。


「め、迷惑だったら全然断ってもいいから! 無理はしないで!」


「別に迷惑とかじゃないよ。ただ、お散歩ってのがな、ちょっとおかしくって」


「へ、変だったかな?」


「いや、変じゃない。いいよ、どうせ暇だし」


 俺が答えると、片瀬は表情をほころばせて「あ、ありがとう!」と返してきた。


 主にならうようにタロウも「ワンッ!」とえた。

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