第21話 言葉にして伝えるのも悪いもんじゃない
恐らくこの先も忘れることができないだろ、中学2年の冬。
根っこの部分こそ変わっていなかったが、いかんせん経験がなかった。
異性に対して恋愛感情を抱くという初めての経験。
遅い早いが問題じゃない。恋愛に無知だったことが問題だったのだ。初めてだったから仕方ないのだが。
たまたま空けていた自分の席に女子が座っている、それだけで俺に気があるのでは? と勘違いしてしまうぐらいに浅かった。
今のはあくまでたとえ……まあでも、似たようなもんだ。偶然隣になった席の女子が、誰とでも分け隔てなく喋る子で、それをボッチだった俺は『もしや?』と勘違いしてしまった。
一度そうだと思い込んでしまったなら最後、思考がポジティブに全振りされてしまう。抜け出すのは困難、さながらアリ地獄のようにズルズルとはまっていく。
その状況に陥っていながら危機感を覚えることなく、なんなら幸福に包まれているような感覚になっていたのだから救いようがない。
無知は怖い。自覚なき無知ならなおのこと。
当時の俺を一言で表すのなら、〝気持ち悪い〟が的確だろう。
そんな気持ち悪い俺が迎えた結末は、お察しの通り失恋だ。しかもただの失恋じゃない……振られた事実が多くの人間に知れ渡ってしまったのだ。
どうしてそんな事態に発展したかといえば、答えは一つ。俺を振った子が面白おかしく言いふらしたからだ。
俺の初恋は見事なまでにネタにされた。
「ちょ、聞いた? エリカ、花厳に告られたんだって」
「え、チョー可哀そうなんだけど」
「マジ鳥肌もんだよね。キモすぎて私だったら吐いてたよ絶対……しかもさ、エリカ自身、思い当たる節がないって言ってんだよね」
「告白されるのがってこと?」
「そうそう」
「んーあれじゃない? 席が隣になってぇ、ちょっと話してぇ、たったそれだけで好きになっちゃったぁ、みたいな」
「なにそれウケる! 一人で舞い上がっちゃったみたいな?」
「そうそう! まぁどっちにしても――」
「「〝キモい〟よねー」」
後ろ指を指される日々を過ごしていく中で、俺は一つのことを学んだ。
恋愛における失敗はとてつもなくむごいんだと。
だから俺は心に誓ったのだ――もう二度と恋なんてするものか、と。
そんな過去を柊に打ち明けることで、俺自身の揺らいでいた信念が再び固まっていく。
なるほど、誰かに聞かせるのも悪いもんじゃないな。危うく別の道につま先を向けてしまうとこだった。