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第13話 意外と悪くない

 いつもは多くの自転車が並んでいる駐輪場だが、雨のせいもあり、ひらけたスペースがチラホラとあった。


「ここなら大丈夫かな」


 そう言って両国は一台の自転車にまたがった。


 屋根があるおかげで濡れずに済むとは言え、昼休みにこんな場所にくる物好きなヤツはそうそういない。たとえ晴れていたとしても人気はないだろう。


 まあでも実際物好きなヤツが〝一人隠れているんだけども〟……あれは一旦置いとくとして――。


 俺は両国に視線を向ける。


 なに、盗んだチャリンコで走りだそうとしてんの? んで他校に乗り込んで校舎の窓ガラスを片っ端から割っていこうと考えてんの? それはやめておいた方がいいんでない? 若気の至りにも限度ってもんがあるし……あと単純にカッコ悪いから。


 見たところ鍵はかかっているから大丈夫だろうけど……まさか俺の目の前でぶっ壊したりしないよな?


「……ん? ああ、これ僕のだから。そんな怖い顔しないで、花厳君」


 いぶかしむ俺に気付いたのか、両国は困った笑みを浮かべながら一つの鍵を取り出した。


 それを鍵穴に差し込み回すとあら不思議、良い音立てて解除されたではありませんか。


「すまん」


「気にしないで」


 そこで会話は終わり。再び一定のリズムを刻む雨音が大きくなる。


 さて、どうしたものか。非行に走るんじゃないとしたら、いよいよ連れてこられた理由がわからない。


 手ぶらであることからして、一緒にランチを楽しもうってわけでもないだろう。というかこんな場所でお昼とかこっちから願い下げだ。


 …………こんな場所で弁当箱片手に突っ立ってる俺って一体…………。


「……それで、俺になんの用?」


「ああ、うん……話したいことがあってさ」


 ほほう、話したいこととな。きっと誰の耳にも入れたくない内容なのだろう。でなければわざわざ人気のないこの場所を選んだりはしない。


 だがしかし、人気がないだけで〝人〟はいる。俺達以外にもう一人いる。その存在を両国に伝えて置くべきか否か……。


「話したいこと、ていうより――確認したいこと、かな」


 どうするべきか悩んでいる間に両国が続きを口にし、まあいいかと俺は聞く姿勢をとる。


「花厳君って――片瀬さんと付き合ってるの?」


「…………は?」


 開いた口が塞がらない……いや、塞ぐ気にもなれなかった。


 俺と片瀬が付き合ってるかだって? なに言ってんだコイツ、んなもん訊くまでもなく明白だろ。


 二の句が継げないでいる俺をどう捉えたのか、両国はもう一度同じ質問を繰り返した。


 すかさず俺は否定を口にする。


「んなわけないだろ。なに、揶揄からかってんの?」


「いや、そういうつもりじゃなかったんだけど……ごめん。前、二人が一緒にいるところに鉢合った時、そうなのかと思って、ずっと気になってたんだよ」


「あの時は柊もいた。それは両国も知ってるだろ」


「そうだけど…………うん、そうだったね、忘れてた」


 とても失念しているようには見えなっかが、それでも両国は吹っ切れた顔してそう言った。


 そしておもむろに自転車から降り、俺の正面に立つ。いつものヘラヘラしている両国ではない。真剣な顔つきでこっちを見据えている。


 やがて両国は意を決するように口を開き、


「僕ね――片瀬さんのことが好きなんだよ」


 そう思いの丈を発した。


「――――ッ」


 物好きなもう一人が雨の中を駆け去る。隠れるのも下手だったし、黙っていても騒々しい。


 ぴちゃぴちゃと踏み鳴らす音は確かにここまで届いていて、だからこそ気にする素振りすら見せない両国に違和感を覚えた。


「……お前、もしかしてわざとやったのか?」


「ん? なんのこと?」


 すっとぼけているのか、はたまた本当に気付いていないのか……両国じゃない俺には推測することしかでいない。


 ただ、両国に抱いた違和感は拭えそうにない。


「わり、やっぱなんでもね」


「そう? ……なんか変な感じになっちゃったからもう一度――」


「いや、いい。お前の気持ちはわかった。なんで俺にそれを伝えてきたのかは理解できないがな」


「理解できない?」


「……理解できないじゃないな、理解に苦しむ、が正しい。心配しなくても俺と片瀬は恋仲じゃない。それどころか友達と呼べるかも怪しいしな……だからまあ、アタックするなりなんなりご勝手に」


「そうか…………ごめんね、時間を取らせちゃって」


「気にすんな」


「…………それにしても」


 両国の視線が俺の右手へと向けられる。


「物好きだね。こんな場所でお昼なんて」


「いやお前が連れてきたんだろーが」


「はははッ、冗談だよ――――それじゃ」


 軽く手を挙げ、小走りで校舎へと戻っていった両国。駐輪場には俺以外もう誰もいない。


 静けさに包まれたこの場所で、奏でられるのはトタン屋根に弾かれる雨粒の音。


 ……意外と悪くないかも。

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