3-23 底辺探索者の逆転成り上がり 古代遺跡から最高のメイドロイドを手に入れて
古代遺跡から遺物を収集する探索者たち。
グラントもまた駆け出し探索者の一人として日々探索を続けていた。
だが、生活は貧しく、先の見通せない日々。
ある日、グラントが遺跡から高性能アンドロイドを見つけた事で人生は激変していく。
凄腕探索者として上り詰め、一躍有名・稼ぎ頭に。探索者としての頂点を目指し、そして未だ見たことのない超古代文明の全容を見るために、グラントは戦い、探し続ける!
その日もグラントは、遺跡に潜っていた。
グラントは新人の探索者だ。
薄暗い崩落した通路にランタンを掲げて、スコップを片手に砂利を掘っては避けていく。
淀んだ空気に土埃が舞い上がり、グランドの顔を汚す。
口と鼻を布で覆ってなお息苦しかったが、すでに慣れてしまった。
崩落した遺跡には、同業の冒険者たちもやってこない。
だからもしお宝が出たら、奪い合うことにはならず独占できる。
そもそも労力に対価が見合わないと、日参しているグラントをバカにする冒険者も多いぐらいだ。
グラントは今年十八歳になる冒険者の男だ。
だがその体格は、冒険者として秀でた方ではない。
毎日の発掘作業で体は鍛えられていたが、栄養不足の体は、顔立ちが綺麗に整っていることもあって、ともすれば女に間違えられることもあった。
口さがない冒険者たちには、男娼になったほうがいくらでも稼げるんじゃないかなどと言われることもあった。
黒々とした髪と茶色がかった瞳。
肌は白く、日にあたっても日焼けしない白い肌も、中性的な魅力を高めていた。
だが、外見とは裏腹に、グラントには燃えたぎる闘志があった。
「いつか見返してやる! 今に見てろ!」
武術を教わる機会もなく、無理や無茶ができるほどの蛮勇さを持ち合わせてもいなかった。
そんなグラントにとって、安全に遺跡を探索できることは、なによりも重要な項目だった。
一時の感情に突き動かされて、危険を冒すわけにはいかなかった。
一度限りの命だ。
ハイリスクハイリターンを狙うのも間違いではないが、グラントはリスクは最小限に留めたい性格だった。
崩落した土砂の中からは、ちょこちょこと遺物が掘り出せた。
同業者と拾った遺物を争うこともなく、安いながらも確実に稼ぎが得られる。
その稼ぎを生活に充てて、やがて大きな宝を見つけるのだ。
崩落した遺跡の奥には、まだ手つかずの宝が眠っているはずだった。
なにも根拠のない夢物語ではなかった。
不思議と完全に土に埋まった場所からは、状態の良い遺物が残っていることが多いのだ。
空気に含まれる微生物が遺物を分解……などという小難しい理屈を聞いたような気もするが、忘れてしまった。
グラントにとってみれば、宝が手に入る確率が高いなら、今は理屈はどうでも良かった。
研究や勉強は、それができる余裕のある人間がすればいい。
稼げない冒険者は、まず稼ぐことが何より大事だ。
最低限度の生活を抜けられない限り、そんな余裕はなかった。
「稼ぎたいなあ……。良い遺物が見つかってくれよお、頼むよ」
願いを込めてスコップで掘る。
ガラガラと音を立てて瓦礫が崩れる。
崩落した遺跡の奥に、何らかの倉庫や居住空間があれば、一獲千金を狙える可能性は高い。
そして、通路の先には大抵何らかの空間が広がっている。
廊下だけの建物などあるわけがない。
倉庫なら最高だ。マンションやアパートメントでも良い。
きっと宝があるはずだ。
一度大きな額になる遺物を手にいれたらどうしようか。
装備を整えて、もっと上等な武器や防具を身に着けて、情報収集機器も買って、より良い遺物を狙おうか。
それとも美味い飯をたらふく食べてみようか。
身形をもっと整えて、オシャレしてみようか。
拠点を良い場所に移動するのもありだろう。
仲間を募るのも良い。
これまでずっとガマンしてきた未来が、一気に具体的に思い浮かぶ。
輝かしい未来を信じて、今日もグラントはスコップを持つ体に力を入れて、刃先を土に差し込んでいた。
「おっ!?」
スコップから伝わってくる感触がこれまでと違った。
当たりが軽く、奥に何らかの空洞がある。
もしかして、ついに到達したか……?
グラントが力を込めて瓦礫を掘り返すと、ガラッと音を立てて周りの瓦礫が崩れた。
細い通路の奥深くには、広い空間が広がっている。
「やったぞ! ついに貫通した!」
グラントの声が遺跡にわんわんと反響した。
ハッ、と息を吐いて、声を潜める。
こんな外れ遺跡に自分以外の誰かが来ているとは思えない。
だが、万が一撤去が完了したことがばれたら、人の宝を掠め取ろうとするハイエナどもが寄ってこないとも限らない。
「あいつらに一欠片だって譲ってやるもんか。これは僕の、僕だけの場所だ」
ようやくだった。
安全で宝の見込みがある遺跡を探して一年。
さらに崩落の先に空間があると確信して毎日一人で掘り続けて、すでに半年が過ぎていた。
あるかどうか分からない宝を求めて一年半もかけた。
待望の瞬間だった。
あいつらは僕を馬鹿にするだけで、一時たりとも手伝ってくれなかった。
美味しいところだけかっさげられてたまるか!
「さあ、お宝はどこかな?」
スコップをランタンに持ちかえ、暗闇を照らす。
一層淀んだ空気が溜まっていて、すぐに入るのは危険そうだが、ぼんやりと光に照らされて中の様子が伺えた。
だが、目に映った光景は、グラントの望みとは遠かった。
「…………嘘、だろ」
グラントの声が沈んだ。
目に入る範囲では、腐った棚や原形を保っていない何かなど、遺物と呼べるようなものは一つもなかった。
うっすらと天井から光が差しこんでいるのが分かった。
どこかから小さな穴が開いていて、完全な密閉状態ではなく、空気が出入りしていたのだ。
そのせいで大切な遺物が風化してしまっている。
これまでの労力が全部無駄になってしまったのか……。
徒労、無駄。
僕がバカだったのか。
夢を見過ぎてたのか……。
あいつらが賢かったのか?
いやだ、認めたくない……。
そんな言葉が頭を駆け巡ると、とたんに体が重く感じて、グラントはその場でしゃがみこんでしまった。
ぐわんぐわんと視界が揺れている。どこかで耳鳴りの高い音がきぃぃんと鳴り響いていた。
どうして、こんなことに……。
危険でも冒険者としてもっと動けば良かった。
時間を無駄にしてしまった。
そんな後悔が頭を駆け巡った。
全身から力が失われたようで、指一本動かすのも億劫になる。
だが、ふと思い直す。
「いやいや、ちょっと待てよ……? まだ無事な遺物だってあるかもしれない。入り口を見ただけで、奥まで何もないと決めつけるのは早い」
諦めるには早すぎる。
薄暗闇の中、まだランタンの光の届かない場所は多くある。
希望の欠片に萎えた足を奮い立たせて、表情を険しくさせ、拳を握る。
グラントは覚悟を決めて、暗闇へと足を踏みこんだ。
ガラガラと小さな石塊が崩れる。
中はとても静かだった。
グラントの呼吸だけが響く。
埃の熱く積もった部屋の中はよく滑る。
ランタンの明かりで慎重に足元を確かめながら、同時に部屋の遺物を確かめる。
「あった! ……良かった。無事なのもある」
腐食に強い一部の金属製品や、焼き物の類は流れた月日の長さにも耐えて、形を遺していた。
これなら今後の活動資金を蓄えることもできるかもしれない。
良質な装備を整えて、もっと形の残った遺跡を探索することも可能だろう。
ホッと胸を撫でおろしたグラントは、視界の隅に箱があることに気付いた。
「なんだろう。ずいぶんしっかりと収められてるな」
大きな箱だ。
表面は埃を被って何が書かれているか分かりづらい。
慎重に汚れを払って、文字を見つめる。
遺物を取り扱う者にとって、昔の言葉を知ることはとても重要だ。
現代の言葉の語彙を増やすよりも、古代文字に詳しい冒険者も少なくない。
グラントは文字を口に出して読み上げた。
「ランドル、社……ヒューマノイド。……ヒューマノイド!?」
古代都市に現存したという、自律機械。
もし動けば、一体でも莫大な富をもたらしてくれるという『財宝』だ。
「やった! やったぞ! 見つかった! 遺物だ! 最高の宝だ!!」
どこかの組織に売っても良いし、ヒューマノイドがもたらしてくれる知識を利用して、自分が富を築いても良い。
使い道はそれこそ無数にある!
――無事な状態で手に入れば。
箱の外見はとても立派で、長い年月が経っているにもかかわらず、大きな劣化は見られない。
高度な文明の技術て保護機能が働いていたのだろう。
箱は分厚い金属製で、蝶番によってロックされていた。
絶対に開錠してやる。
グラントの目が一攫千金に燃えていた。





