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3-21 駄菓子屋主人のエテルナちゃん

 単一種族がひとつの国を作る世界。自分たちの種族以外は奴隷か敵。それがこの世界の常識である。

 そんな世界で、唯一、多種多様な種族が集う国ケイオス。

 そのケイオス国に君臨する、二人の女王。

 建国の女王。

 百年以上もケイオス国を治めるエルフの光の女王エターナル・クイーン。

 光の女王の多種族をまとめる内政力、他国と交渉する外交力により、ケイオス国は概ね平和を保っていた。

 そして、もう一人の女王。

 誰もその顔を知らない、夜に君臨する女王。

 光から隠れ、闇に潜む無法者達でさえ怯える、闇の女王。

 そんな、光と闇の女王が支配するケイオス国の片隅に、子ども達の聖地である駄菓子屋アルカディアがある。

 色々な種族の子ども達が、生き生きと遊ぶアルカディア。

 虎獣人の男の子が、その駄菓子屋アルカディアの女主人のエテルナに、友人の猫獣人の女の子が行方不明になったと、悩みを打ち明けたのだった。

 多種多様な種族が集う国ケイオスの首都。

 その街外れにあるレンガ造りの建物の一室で、二本足のトカゲに似た種族であるリザードマンの男達が、酒を飲みながら地下の様子を話し合っていた。

 そんな中で、ひときわ太ったボスに、手下が報告をしていた。

「地下の連中はどうだ」

「薬漬け済みですから、いつでも出荷可能です。しかし、あんなガキどもに買い手がつくんですか?」

 地下の牢屋には、誘拐されて麻薬を打たれた色々な種族の子ども達が監禁されている。

「ガキを好きな金持ちの変態さまが、買ってくれるんだよ。しかし、この街は宝の山だな。いろんな種類のガキがいて、助かるんだよ。これが他の国なら、あっちこっちの国に行かなきゃいけないからな」

「ゴブリンだろうが、獣人だろうが、色々な種族のあぶれ者が集まってきますからね。おかげで、俺たちみたいなのでも簡単に生きていけますからね」

「フリーの奴隷どもが無防備にその辺にいるんだから、美味しい限りだな」

 ボスがいやらしい笑みを浮かべた時、玄関から手下の怒鳴り声が聞こえた。

「何だ、てめえらは! ここがどこか分かってやがるのか」

 手下のリザードマン達が、ハンドアックスを構えて叫んだ。

 裏稼業の男達は、突然の襲撃者に殺気立った。

 襲撃者は二メートル近い身長から生える六本腕には各々剣を持っていた。真っ黒な布で隠された顔から、瞳だけが冷たく男達を見つめていた。襲撃者は、全てを凍てつかせるような低い声で言う。

「ここで麻薬を取り扱っているな」

「薬を買いに来た……って、訳じゃないな。どこの鉄砲玉だ? てめえら、やっちまえ」

 ボスの号令で、十数人のリザードマンが襲いかかる。

 数の暴力に安心しているリザードマン達の首が、いきなり六個落ちた。六本の長い腕がそれぞれまるで別の生き物のように動いて、一瞬にして正確に首をはねたのだった。

 襲撃者をぐるりと取り囲んでいた。

 死角にいた者もいたにもかかわらず、正確に首が飛んだ。

 リザードマンの皮膚の鱗は、生半可な刃物では通らない。自分たちがそうだからこそ、重さの凶器であるハンドアックスを好んで使う。

 それをただの剣で、あっさりと切り落とした。それも六人同時に。

 ただ者では無い。

 リザードマン達は遠巻きから、ハンドアックスを投げる。残った十人が同時に。

 いくら達人であろうが、その手は六本だ。受けきれるはずが無い。

「糸は張り終わった」

 十本の殺意を持った武器は、男に届く前に空中で止まる。まるでそこに見えない柔らかな壁で受けたように。そしてハンドアックスは投げられた速度のまま、投げた男の元に跳ね戻った。

 時間にして五分もかからない攻防は真っ赤に染め上げた部屋に、太ったリザードマンを一人だけ残した。腰を抜かしたボスリザードマンは、真っ黒な服に身を包んだ六本腕の男に、短剣を向けながら叫ぶ。

「貴様の狙いは何だ。薬が欲しければやる。何だったら、儂と手を組んで薬を捌かないか?」

「それは、我が主の命に反する。お前達はやり過ぎた。麻薬がこの街に広がりすぎ、主の子達に悪影響が及び始めた」

「主だと? お前ほどの手練れの主とは誰だ?」

 ボスであるリザードマンは、男の隙を伺いなら尋ねた。

 しかし、男は一切の隙なく答えた。

「我が主の名は、ダクネス・クイーン」

「ダクネス・クイーンだと……うそだ、あんなものは、ただの御伽話だ。裏社会の絶対女王だと、そんな者がいれば、なんでこれまで姿を現さなかった!」

 法の目をかいくぐり、警備隊が手出しできない闇の住人を人知れず裁くと言われるダクネス・クイーン。裏社会協会でも彼女にだけは、目を付けられてはならないと言われていた。

 しかし、それは裏社会なりの秩序を保つための作り話だと信じていた。

「悪いが、御伽噺じゃないんだよ。この国は、はみ出し、差別をされた者たち日陰者の国だ。多少のことは目をつむってやるが、子ども達にだけは手を出させない。今後のためにも薬の仕入れ先を吐いて貰うよ」

 地下に続く入り口から聞こえて来た声の主は、黒いアイマスクで顔を隠した背の低い女性だった。美しく縫い上げられた金色の長い髪から見える特徴的な長い耳。その後ろには軟禁されていた子どもを連れた、魔法使い帽子を深く被り、眼鏡をかけた女性が控えていた。

「あ、あんたが闇の女王(ダクネス・クイーン)だと……ふん、俺達の仕入れ先を聞いてどうする。ガキどもをおいて出て行くなら、許してやる。さっさと出て行け。俺のバックはお前らごときが手を出せる存在じゃないんだよ」

 どれほど強力な後ろ盾がいるのか、ボスリザードマンは余裕な表情を浮かべた。

「お前の後ろ盾のことなんて知ったことか! ナイト、やれ!」

「貴様、女王と同じエルフだから言って、いい気になる……」

 その言葉が終わる前に六本腕の男から放たれた糸は、ボスの手足を縛り上げ、地面に転がす。先ほどのハンドアックスもこの糸により跳ね返されたのだろう。細く、しなやかで強靱なその糸は、ボスが暴れれば暴れるほど深く締め上げていくのだった。

 そんな無様姿を見下ろしながら、クイーンは訊ねた。

「それで、麻薬を流しているのは、シルウァーヌス国か?」

「な、なぜそれを」

 シルウァーヌスは植物系の者達で構成された、森の国の名前である。

「やはり、あいつら、まだこんなことを……まあ、いい、子ども達は助けだした。後は昼の女王の仕事だな。帰るぞ、ナイト、ビショップ」

 クイーンはナイトと、ビショップと呼ばれた魔法使い帽子の女性とともに、捕らえられた子ども達を連れて出て行った。

 そして、まるで示し合わせたようにその直後、警備隊がなだれ込む。

 そこには血の海の中で縛り上げられたボスと、麻薬取り引きの証拠が残されていた。

 翌日の朝一番から、シルウァーヌスの荷物は、厳しく検査されることになった。

 シルウァーヌス国から強い抗議があったのだが、エターナル・クイーンはきっぱりとその抗議をはね除け、それ以降の麻薬の違法流入は防がれることになった。


 そんな闇にうごめく者がいるケイオス国の王都の片隅に、子供達の憩いの場、駄菓子屋アルカディアがある。

 アルカディアには、今日も数多くの子供達が集まっていた。店内には、飴玉や水飴のほか、クッキーやスコーン、せんべいなどの焼き菓子。チョコレートやキャラメルなど数々のお菓子が並べられている。お菓子だけでなく、木で出来たおもちゃなども置かれている子ども達の聖地。

「エテルナちゃん、飴ちょうだい」

 緑の肌に小さなツノのあるゴブリンの女の子が、黄色いあめ玉を一つ手に駄菓子屋の女主人の目の前にやってきた。

 店のカウンターで自分の腕を枕にするように、ぐでっとしている女主人エテルナは、肩が見えるほどダボダボのTシャツを着て、だらしない格好をしている。ボサボサの長い金色の髪は、子供達が三つ編みをしたり、ポニーテールにしてみたり、格好のおもちゃになっていた。そして、その髪からエルフ特有の長い耳を覗かせていた。人族で言えば十才くらいの身長、メリハリのないボディ、幼い顔つきは子供達から、エテルナちゃんと呼ばれるのも仕方が無い容姿である。

「はいはい、一個十マルな。食べながら、騒ぐんじゃないよ。喉に詰まらせるから。あと、エテルナ母さん、な!」

「分かった! エテルナちゃん」

 ゴブリンの女の子は元気に答えると、飴玉をポイッと口に入れて、コボルトの女の子と遊び始めた。

 そんな様子を、嬉しそうにエテルナは眺めていた。

「エテルナちゃん、あれ取って」

 小人族であるハーフリングの男の子が、棚の上の方にある怪獣の人形を指さして、エテルナを呼んだ。

 それを見ても、エテルナはテーブルから動こうとしなかった。

「そんな高いところ、あたしが届くわけがないだろう。おーい、ベルグ。アレを取ってやってくれ」

「はーい、ちょっと待ってくださいね」

 店の奥から、背の高い男がやってきた。エプロンを着けている身体は胴長で、顔の大きさと比べるとアンバランスな身体を持つその青年は、棚から怪獣の人形を取ると、ハーフリングの男の子に渡した。

「ありがとう。ベルグ兄ちゃん」

「はい、どうも。高い所にある物や重い物は店長に言ってもしょうが無いから、これからは僕に言ってね」

 店の力仕事担当のベルグは、普段は店の奥で倉庫の片付けや商品出しを行っている。それは、その大きな身体で子供達を怖がらせないように、なるべく店にも出てこないようにしているのだ。

 そんなことをしていると、店の奥から篭一杯のクッキーを持ったメイド姿の女性が現れた。

「クッキーが焼けましたわよ~」

 長い黒髪をハーフアップにして眼鏡をかけた彼女は、垂れ目の優しそうな顔で、子供達に話しかけていた。

 そんな彼女に子供達が群がり、焼きたてのほのかに暖かなクッキーを取っていった。そのクッキーは子供達の手よりも大きく、熊やウサギなど色々な形をしていた。

「おい、アイシャ、それは売り物だろう。ただで配るんじゃないぞ」

「はい、店長。食べた子はちゃんと店長にお金を払ってね。一個、五マルよ」

 この駄菓子屋は主人のエテルナと、三人の従業員によって成り立っており、いつも子供達でにぎわっている。

「エテルナちゃん」

 そんな楽しそうな子供達の中、虎獣人の男の子アレクサンダーが悲しそうな声で、エテルナに話しかけた。

「どうした、アレク」

「サラちゃんが、いなくなった」

 サラとはアレクサンダーといつも一緒にいる猫獣人の女の子である。

「いなくなったって? 家にいないのか?」

「家にはおじさんがいたけど、サラちゃんは連れて行かれたって」

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