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3-20 ゴミの王vs透明人間

登場人物

たちばな葉柄晩滓はがらばんがす

コンビニでバイトする男子高校生。高身長で筋肉質。数種類の格闘技を体得している。

太刻ふとどきもん

橘と一緒にコンビニでバイトする女子高生。今は普通の女子高生だが観察力や洞察力がある。

・ゴミの王

ゴミ屋敷に暮らす自由な50代半ばの男。拾った物を改造して注文された怪しげなものを作って売って暮らしている。


あらすじ

助けられたお礼をしにゴミの王の家を橘ともんが訪ねた。その時、もんは繁華街で人通りに裂け目ができていた話をする。もんがその地点に向かって歩くと、どうしてもその地点を通過してしまうという。ゴミの王はそこに「認識阻害タイプ」の透明人間がいたのではないかと言うのだ。


 実在するちょっとマイナーなクセのある商品が多数出て来ます。もし、よろしかったら検索してみて下さい。

「ここなの? 橘君」

「そうだよ」


 もんが思わず確認してしまったのは、その家がいわゆるゴミ屋敷だからであった。いや、ゴミ屋敷だと前もって言われていたのだが、想像以上のゴミ屋敷っぷりにビビったというかひいた。


「お~、悪りぃ悪りぃ。待たせちまったか?」


 そこに、半分ほど白髪の混じった短髪の男が杖を突きながら早足にやって来た。


「いえ、今来たところです」

もんが丁寧に言う。

「まったく、杖なんか必要ねーだろうに」

橘がいうと、

「杖なんて武器を公然と持ち歩ける年寄りの特権を使わねぇ手はねぇだろう?」

男、すなわち、ゴミの王は答えた。




 ゴミの王のこの時の出で立ちについて少々説明させて頂く。


 突いている杖は、普通の杖と少々異なり、持ち手の部分が細めの2等辺三角形のようになっている。フリップスティックと呼ばれる商品で、簡単な操作で1本足の椅子として使うことが可能な商品だ。実は、ゴミの王、自らの手による“小細工”が施されているが、それは追い追い語られる。

 腕時計はLILYGO T-WATCH-2020という自分で自由にプログラミング可能なスマートウォッチである。これにも自ら組んだプログラムを入れてがっつりカスタマイズしてある。もちろんAppleWatchだってアプリを組んでカスタマイズ可能だが、メジャー過ぎるのがゴミの王のお気に召さなかったようだ。

 また、UberEatsが背負っているリュックを薄くしたようなものを背負っているが、これはPranktonのSTUMPというリュックで、中にはインスタコードという楽器が入っている。STUMPは中に頑丈なアルミフレームが入っていて、そのまま座ることができる。また、インスタコードは基本的に左手が指1本でコードを抑えられる伴奏向きの電子楽器である。ゴミの王は、この歳で、街角でSTUMPに座りインスタコードを奏でながら弾き語りをするストリートミュージシャンでもあった。




「でも、こんなにゴミを集めてどうするんですか?」

もんが尋ねると、

「これはゴミじゃねーんだよ!」

どこかのニュース番組で聞いたようなセリフをゴミの王が言った。

「この壊れた炊飯器もですか?」

もんが足元のものを指差して言うと、

「それは炊飯器じゃなくてピッコロ大魔王を封印するための器だ」

ゴミの王はシレっと言った。

「しかし、天津飯はなんで本物で練習してしまったんだ? 壊れて当然だ」

ゴミの王は、なおもブツブツ言っている。

「あれ? PS5?」

橘がふいに言った。

「こんなもん捨てるやつ居るんだ」

それを聞いたゴミの王は、

「あ、そりゃゴミだ」

というと無造作に引っ掴んでデカいスーツケースに入れると素早く留め金を閉めた。

 数秒後、ボヒンと鈍い音を立ててスーツケースが飛び跳ねると壊れた。


「……爺さん、今の何?」

橘が聞くと、

「ま、よーするに、あのPS5は俺を狙った爆弾で、このスーツケースは爆弾処理用に改造してあったってぇ訳だ」

ゴミの王は事もなげに答えた。

「壊れちゃいましたね。スーツケース」

もんが言うと、

「壊れるように作ったからな」

「壊れるように作った?」

ゴミの王の言葉を橘が聞き返す。

「ヘルメットみたいに、この手のものは1度使ったら2度と使えん。しかし、2度と使えんと説明されても、パッと見使えそうだと素人は使っちまいがちだ。だからあえて派手に壊れるように作ってる」




 一行はゴミの王の客間に入った。

 庭に負けず家の中も見事なゴミ屋敷であった。

 橘ともんが通された客間でさえ大小様々なゴミがうず高く積まれ、座るように言われたソファーは傾いていた。

 橘はもんが自分より上になるように座った。そうすれば必然的に、もんの華奢ではあるが柔らかな身体が自分に密着せざるを得ないことを計算した上でのことである。


「ありがとうございました」

最初に口を開いたのは、女子高生のもんだった。

「うまくいったのか?」

それを受けてゴミの王。

「はい、効果覿面でした」

はきはきと橘。


 実は、橘ともんがバイトしているコンビニの広い駐車場で、深夜にローラーブレードやスケボーを乗り回す連中が出没して困っていた。そこで、橘がゴミの王に相談したところ、ゴミの王は、


「おまえの店、ペットボトルの蓋、集めてたな? そいつを奴らが周回軌道を描けないように撒け」


と指示した。


 ローラーブレードやスケボーの車輪は小さい。ペットボトルの蓋でも十分な障害物となる。

 後は、そんなことをして暴力沙汰にでもならないか、ということが問題となるが、高身長で体格もいい橘がムッとした顔をしているだけで、連中は大人しく引き揚げて行った。


「本当にありがとうございました」

もんが重ねて礼を言った。

「いや、いいよ」

とゴミの王。

「で……、それだけじゃねーんだろ?」

ゴミの王は待ちきれないと言った風で聞く。

「察しがいいというか、話が早いというか」

橘が呆れ気味に言った。

「実は、本当に変な話で……、お話ししようか迷ったんですけど……」

もんが口ごもったが。

「いーよ、大丈夫だよ。爺さんその手の話、好きだから」

橘が背中を押した。

「俺、爺ぃになりかかっちゃいるけけど、まだ爺ぃにはなっちゃいないよ?」

ゴミの王が言う。


「実は、この前の日曜日、マロニエ通りでなんですけど……」

もんが話し始めた。

 マロニエ通りというのは、このあたりでは一番賑やかな街でも特に人通りが多い通りだ。

「日曜日なら混んでただろ」

ゴミの王が言うと、

「ええ、いつもに増して混んでたんです。それが、ちょっと遠くから見たら変なものっていうか、不思議なものが見えて……」

「不思議なもの?」

「人がある1点を避けて通っているみたいで、人混みに穴が開いてたんです」

「ほぅ……」

そう言うとゴミの王は少し考えて、

「しかし、理由なんていくらでも考えられるだろう? 汚いものが落ちていた。穴が開いていた。酔っ払いが寝ていた。とかな」

と言った。

「ええ、で、私、理由を確かめようと思って、その地点に向かってみたんです」

もんが言った。

「へぇ、で、何だった?」

「それが……」

「それが?」

「気が付くと、その地点を通り過ぎてました!」

「どういうことだ?」

わけが分からずゴミの王が聞く。

「ですから、どうして人が避けて通るのか確かめようと思っていたはずなのに、気が付くとその地点を通り過ぎていたんです」

「無意識にか?」

「はい」

「何度試しても?」

「はい、何度も試したんですけど」

もんの眼は真剣そのものだ。


 ゴミの王は、しばらく目を閉じて考えていたが、やがて眼を開き、橘を見て、それから、もんの眼を真っ直ぐに見て言った。

「そいつぁ、そこに、透明人間がいたのかも知れねぇなぁ」

「はぁ? 透明人間なんて避けられるどころか逆にぶつかられまくるだろ?」

抗議の声を上げたのは橘だ。

「まぁ、聞けや」

ゴミの王は橘を手で制した。

「俺が考える透明人間には3つのタイプがある」


 ゴミの王は1本の指を立てた。

「第1は『透過タイプ』。文字通り透明であることにより見えないタイプ。最も古くから考えられている透明人間だな。まぁ、このタイプは『光を透過してしまっているから目が見えていないはずだ』っていう指摘があるが、空中に人間の網膜サイズの受光体が浮かんでいてもあまり問題ない気がするし、ましてや、その受光体が光の透過率70%で30%だけ受光していた場合、そうそう気付けるものではないと思う」


 次にゴミの王は2本の指を立てた。

「第2は『光学迷彩タイプ』。自分を透かして見えるはずの背景を自分が着ている服などに表示して隠れるタイプ。実際に米軍が開発しているという話もある。ハリーポッターの『いたずらマント』も恐らくこのタイプであろう。この方法で完全に透明になるのは難しいのかも知れんが、戦闘においては『かなり見えづらい』だけでも相当有利になる」


 そして、ゴミの王は3本の指を立てた。

「第3は『認識阻害タイプ』。眼ではそこにいるのが見えていても、脳がそれを認めるのを拒否するようにして、存在を気付かれないタイプ。光学的には全く透明ではないのだが、他のタイプの透明人間よりも優れた透明人間と言えるだろう。他のタイプだと『透明で存在に気付かれないためにぶつかれる』などの危険が付きまとうが、このタイプなら眼では見ているので無意識下で避けさせることができる」


「……ちょっと待ってくれ」

ゴミの王の話が終わって、しばしの静寂の後、橘が手を挙げて聞いた。

「それだと、遠目とはいえ、もんが人混みの穴に気付けたのって……」

「うむ、誰でも気付けたわけではないと思う」

ゴミの王が断言した。

「確かに俺好みの面白そうな話だなぁ」


 ゴミの王の眼が少年のように輝いていた。

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