謎解きモドキ
オレンジ頭の大柄な殿方の、びっくりしたお顔はなかなか可愛らしいと思うわ。
「本当なのね! 凄いっ! では現国王陛下にもその素質はあるの? 何か不思議な力は使えて? 秘密でないなら教えてくれないかしら?」
「ちょ、ちょっと待って下さい、姫君! いや、本当なんて僕は言ってませんよ!」
「えーー? だってさっき “は い” って言ったじゃない」
「は、い? と疑問形にしたつもりですっ! 肯定していませんっ! いきなり、何を訊くんですか、貴女は!」
「だって貴方、テュルクからの留学生でしょ? その上、王家所縁の人材でしょ? 王子様の護衛? かしら? わたくしに興味津々? でもわたくしも彼の国は興味深いと思っていたの。学園にいる今がチャンスですものね、是非一度お話したいと、貴方のご主人様にお伝えしてね?」
「……僕は、何も話していないのに、何故……」
ふふっ。呆然としていらっしゃる所を見ると、わたくしの推察は当たっていたという事ね。
ちょっとだけ観察力と知識があれば判る事なのだけど、ここで種明かしをしてしまうのは詰まらないわよね。
いい女になるのを目指す為には、謎を作るのも大切ってお義姉様が仰ってたわ。『秘密が女を女にする』だったかしらね。
「貴方のお名前を伺ってもよくて?」
「僕はカシム。カシム・チェレビ・マクブルと言います。以後、お見知りおきを」
慌てた様子で直立したカシム様。本当にお背が高いのね。これもチュルク国の民の特性の一つなのだけど、ご本人にその自覚はなさそうだわ。
「ありがとう。わたくしはアンネローゼよ。よろしくね。今日は予定が立て込んでるから、失礼するわ。また後日、お会いしましょう、ご機嫌よう。
では、メルセデス様、ご一緒に参りましょうか」
メルセデス様と連れ立って講義室を後にする。
カシム様がわたくし達の後をつけて来るかも、なんてちょっとだけ思ったけど、それはそれよね。キャシーが対処してくれるだろうし。
◇
特別応接室は静かでいいわね。
家具は王族をお迎えしてもいいような物を取り揃えたわ。いつお義姉様が見学されても対応できるようでないとね! ……自覚あるけれど、わたくしの行動基準はお義姉様なのよねぇ。わたくしといい、お兄様といい、サラお義姉様に依存し過ぎかも。自分で紅茶を淹れる事が出来るのもそうだし。お義姉様とのお茶会で習ったの。お義姉様を喜ばせたくて、一生懸命覚えたものだわ。
用意させた茶器を用いてお茶を淹れる。メルセデス様にもお出ししたわ。お味はどうかしら?
「彼はお察しの通り、テュルクからの留学生です。わたくしと同じ3年生ですわ。アンネローゼ様、なぜそれがお判りに? しかも王家所縁の人間とまで……」
一服したメルセデス様からの第一声。あらあら。彼女の好奇心を先に満足させなければならないかしら?
「種明かししたら詰まらない話でしてよ? 彼が、制服を着ていた事が大きいの」
「制服?」
「はい。実は、国内の貴族と留学生とでは制服の作りが若干違うのです。ジャケットの袖口に施された刺繍の柄、とか。わたくし、制服のデザイン決定現場に立ち会ったので確かですよ。彼が着ていたのは初期型。しかも黄色のネクタイに施した刺繍が、テュルク国の留学生向けに作られたモノですわね」
「ネクタイの刺繍は……同色の糸で余り目立たなかったアレを、ご覧になったのですか。あの僅かな時間に……では、王家所縁の人間というのは……?」
「彼の国の王族は長髪が特徴だから、です」
「え?マクブル様は短髪でしてよ?」
「ふふっ。あの方、鬘を被っていらっしゃいましたよ。頭の形がちょっとだけ不自然だったし。ご本人の地毛、もしくは親族の方のそれで作られた物でしょうね。ジャケットの袖口に長い髪が一本、ついてましたわ。あの明るいオレンジ色の髪は今日初めて見た色でしたしねぇ」
「王族、だと判ったのに “王子の護衛” だと思われた理由は?」
「あの特徴あるイヤーカフとピアスですわね。主人からの下賜品にピアスを多く用いると、どこかで読みましたわ。 “王族” が臣下になる相手で他国の学園に留学するのなら……相手は王子であると考えるのは妥当でしょう? ちなみに “王女”ではないですね。テュルクからの留学生は男子2名と聞いてますもの。……ふふっ聞いてしまうと、余りにも単純でたいした事ないでしょう?」
「いいえ。感服いたしましたわ、殿下」
メルセデス様ったら、いい笑顔。
「殿下呼びはやめて下さいな。……わたくしが王女だと判った理由を伺っても?」
そう訊いたら、メルセデス様の笑顔が更にいい物になったわ。
「それこそ、単純な理由ですわ。我が家は熱狂的な国王派でございます。応接室には国王陛下ご成婚時に出回った陛下と妃殿下の姿絵が額縁に入れて堂々飾られておりますのよ。そして貴女様は、瞳の色を除けば、王妃殿下に生き写しですもの」
あぁー。それは、逃げも隠れも言い逃れも出来ないわね。お母様がこの国に嫁いで来たのって17の時って聞いたことありますもの。では今日のお昼休みで気が付いた生徒も多いと思っていいのね……。あぁヨハン、賢明なる我が弟よ、賭けは貴方の勝ちになりそうよ。
「もうお一方の留学生のお名前、教えてくださる?」
気を取り直して、話題を変えましょう。
「アスラーン・ミハイ・セルジューク。アンネローゼ様の言が正しければ、彼は王子殿下、なのですね……この2年、知らなかったわ……。彼は去年の剣術大会の優勝者です」
「あら。じゃあ、その彼も “アイドル” さまなの?」
「恐らく、一番人気だと思われますわ。ただ、本人が素っ気ない態度しかとらないのと、留学生という事で、慕われるというより…敬遠されているといったご様子でしょうか」
「遠巻きにされてる一位さまと、単細胞な二位さま……愛くるしい三位さま。ふぅん……」
ん? そのアイドルさま達、遅いわね。あの二人は来ないのかしら? キャシーを使いに出したから迷子になっているとは思い難いのだけど。
と、そこへノックが3回と、わたくしの名を呼ぶキャシーの声。入室を許可すると。
キャシーが慌てた様子でドアを開けて。
「あの二人が揉めています! 決闘すると言って」
は い ??
『Secret is a Woman Woman』