トラブル接近?
学園設立は王太子であるお兄様の一大プロジェクトの一端。
国内の貴族子弟に同じ教育を与え、同時に同年代の人間と顔見知りになり連携を図る為の壮大な計画だと思いますわ。
そして画期的な制度、『制服』という物も導入したの。貴族と言えど貧富の差があるので、学園に入学する全ての生徒に『制服』を支給しました。予め身体データを提出させ、個人に合う制服、夏用冬用それぞれを支給。
王宮で働く侍女や侍従たちと同じシステムではあるけれど、彼らは王宮で働いています。学園の制服は完全ボランティアと言っても過言ではありません。
わたくしもそのデザインにお義姉様と一緒に携わったのです! 機能的でありながら華やかさも併せ持ち、動きやすく壊れ難く汚れが目立たない、なんてなかなかありませんよ? お義姉様が出されるアイデアの数々は流石! としか言いようがなかったわ……。
この制服、割と男子学生は着用して下さってますが、女生徒は半々なのです。制服を着るのは『貧乏人の証』なんですって! 失礼しちゃうわ。生地もデザインも手抜きなんてしなかったわ! 王室御用達の店で扱ってますのに!
それに毎日着る物に悩まないってラク以外の何物でもないと思うのだけど。
朝起きて着替えて、朝食後に自室で勉強する為のお着替えをして、昼餐の為に着替えて、午後のお茶の為に着替えて、自室で寛ぐ為に着替えて、晩餐の為に着替えて……なんて毎日、うんざりよ。学園の制服を着て登校すれば、帰城するまで制服だけで過ごせるのよ! こんな天国あります? しかも制服って、1人でも脱ぎ着出来るのよ!なんて画期的なの!手が震えるほど感動したわよ!
わたくしが観察した所、ドレスで登校する女生徒も曜日毎にドレスを替えてるのよね。月曜日のドレスは青、火曜日のドレスは白って感じ。完璧に毎日違うドレスを着替えている令嬢は居なかったわ。
それなら、お義姉様がデザインした制服を着れば良いのよ! 着心地まで考えられた最高の物なんだからね!
わたくしが入学した今年度で設立から丁度3年目。一学年から三学年まで揃いました。
初めは男子学生用の『専科クラス』と『騎士科クラス』。女子学生用の『淑女科クラス』だけだったのを、王太子妃の強い希望で男女枠を取り下げたそうよ。男女区別無くクラスを選べるようになったお陰で、わたくしは専科クラスを選択出来たの。良かったわ、淑女科なんてつまらなそうなクラスにならなくて。刺繍が必修科目なんですって! 目眩がするわ!
専科でも、基礎の必修科目(刺繍は無いけどダンスはあったわ!)と、それぞれ進路に沿った選択科目。それらを履修して良い成績をとれば王宮勤めも優遇されるとか、騎士科だったら成績いかんによっては騎士団の下士官から入団できるとか。様々な特典らしきものがある中で、わたくしは選択科目に悩んでしまった。
王女って哀しいわね。
国の為に何かしたくても、何が出来るのかよく分からない。
まだ婚約者も決まっていないからどんな進路を選べば良いのか解らないの。
王太子がいらっしゃるから、国を継ぐのは論外。
国内の有力貴族に嫁ぐのなら、その家門を王家に有利に動かすためのパイプ役。その家門の領地を切り盛りする事も視野にいれなければならないわね。
でも国内にわたくしに見合った年頃の貴族子弟っているのかしら。
お兄様世代だと25~6。10以上上なのよねぇ。この世代で機を見るに敏な者は、既婚で子持ち状態だし。甥っ子達に合わせてね。
弟世代だと12~14歳。年下の夫って可能性も無きにしも。むしろこっちが濃厚かも。
それなりの爵位がなければダメだし。
『年頃』に拘らなければ、選択肢は増えるわね。もっともそれは『再婚』とか『後添』とかで····まさか、このわたくしを第二夫人にはしないわよね?
その上、国外に嫁ぐ可能性もゼロではない。むしろ、国外の王族の方が『側妃』として嫁ぐ事になるのかも……。
わたくし、小さい頃に縁談とか無かったのかしら。
お兄様はお小さい頃からお義姉様という許嫁が居たと聞いたわ。わたくしにもそんな存在が居ても可笑しくないのに、実際は居ないのよ。まぁ、多分? 今は競売で値を吊り上げている状態なのだと思うけど。
あーぁ。
結婚なんかしないで、このまま母国で暮らせればいいのに。
いざとなったら国外へ人質の如く嫁がされると思うと虚しさ倍増よね。知らない国へ赴くとしても、そこに愛する人が居るのなら、全然構わないのにね。
覚悟はしてるのよ? 国外へ嫁ぐのなら、必要なのは『愛情』よりも『信頼』。わたくしでもちゃんと理解しているわ。
でも50も上のヒヒ爺だったら流石に抵抗しようかしら。
そんなこんなで悩みながら。
日々行動を共にする女生徒と意気投合したり(制服愛好者で良かったわ)、無難なはずの必修科目に四苦八苦(ダンスってパートナー次第で踊りやすさが変わるのね。知らなかったわ)したりして二週間ほど経った頃。
「お前は本当にどういう了見なんだ!?」
また絡まれてしまいましたわ。
今度はお昼時の第一カフェテリアで。
相手はあの、赤毛の……なんといったかしら。クズナー?
わたくしは学科の同級生と共に席について、今まで履修していた経済学について議論を交わしていたのだけど。
「ケビン! やめろって! ぼく、こんな事してなんて言ってないよっ!」
あら! 今日はお友だちとやらもご一緒なのね!
初めて、見……た……
「だってお前、つい昨日もすっぽかされただろう! 一言びしっと言ってやらなきゃ俺の気が済まないっ!」
「ぼくが好きでしてる事なんだから、ケビンが気にする事じゃないだろう?!」
この会話の前者は、はい、この間の無礼者、ケビン・フォン・クズナーですね。
後者が……えぇ、それなりの美少年、と言っても差し支えない、と思います。シュッとした長細い手足がまだまだ成長途中の少年っぽさを残し、深紅の印象的な瞳と、なにより、その……ふわふわした短い、ピンクブロンドの髪!
お義姉さまっ!!
居たわ! ピンクブロンド!!
まさかの殿方だったけど! お義姉様が仰るとおり、彼が絡まれる原因でしたわ!!!
この方がわたくしを狙う暗殺者で、わたくしと争おうとする好敵手で、わたくしに冤罪をかけて嵌めようとする工作員なのですか?! 美少女じゃなくて、美少年だった!!! びっくりよっ!!!
どうしよう、なにが正解なのか解らない。
その上、この人たちが揉めててわたくしの口を挟む余地がない。
「ぼくが勝手に彼女に手紙を渡していたんだ、だから……」
「だからってノア! お前は何時間待った? 昨日も寮に帰ってきたのは遅くなってから……夕食の時間にも間に合わなかった! 夜間外出扱いでペナルティ食らったじゃないか! そこまでして、待つ必要なんか無い!」
どうしましょう。
話が見えて来ましたわ。
わたくしがお手紙など貰っていない事も。
ピンクブロンド登場!
…美少年でしたが。