女子会2
「ところで、メルセデス様。いつも疑問に思っていたのですけど、この際聞いてしまいますわ。メルセデス様は、何故にそこまで王女殿下に尽くしますの?」
話題を変える為でしょう、クラーラ様がメルツェ様に尋ねます。
そういえば、メルツェ様は初めて会ったその日から、わたくしの第一侍女みたいな雰囲気ですわね。王女宮にちゃんといますけどね。学園での侍女はメルツェ様が担っているよう。主にわたくしに悪い虫がつかないように見張ってる……ような。
メルツェ様はわたくしたちひとりひとりの顔を見て、にっこり笑いました。
「不思議でした? 理由は簡単でしてよ。アンネローゼ様の存在が、我が家の救世主だからです」
存在が救世主? わたくしが?
「年若い皆様、ご存知かしら? 恐れ多くも国王陛下の女性人気爆上がりのエピソードを。わたくし、母から寝物語によく聞きましたわ。
王太子殿下がご生誕あそばされてから3年、次の御子が生まれない、と議会で槍玉に挙げられたそうなの。王統を継ぐ王子が1人だけでは不安だから、と陛下に側室を勧める声があちらこちらから挙がって。
でもね、陛下は何処の家のご令嬢を勧められても、首を縦に振らなかったのですって。『私はソフィアが良い』そう仰られて。陛下の純愛エピソードよ。素敵でしょう?」
わたくしは恥ずかしいわ。あの両親は昔からお互いしか見えていないんだもの。
「でも国の上層部はそう思わなかったみたい。
側室がダメなら、愛妾でもいいとなって。誰か、陛下の傍に侍って子を設ける事が出来ないか。そう画策し、愛妾候補の夫人を人選した中に、わたくしの母も居たの。愛妾というのはね、生娘でなくともいいの。陛下の傍に侍る為に、寧ろ何処かの貴族家の夫人の方が望ましいの。後腐れがないもの。陛下を誘惑して子種を戴ければ、それで。特に当時の母はわたくしを生んだばかりだから、子どもが生める事は証明されているし。
でも我が家の両親は、子の私が言うのもはばかられる程仲良し夫婦なの。父は母を溺愛しているから、王宮に母を差し出すつもりは無くて。でも議会からは妻を王宮に寄越せと矢の催促で。当時の我が家は政治的に中立だったから、余計に都合がいいと判断されたみたいで。
その上、祖父の思惑もあったらしくて。当時はまだ祖父が伯爵家当主で、父の発言権は低かった。王宮の政治の一端に加わりたい祖父と、それよりも母を大事にしたい父との間で、我が家も意見が二分され、ほとほと困っていた所に王妃様のご懐妊の報が届いたそうなの。お陰で、第二子のご生誕まで愛妾の話は延期になり、可愛らしい王女殿下生誕の報で立ち消えになり。
陛下の妃殿下への溺愛ぶりに、誰もが側室や愛妾の話を持ちかけなくなった頃、王太子殿下の魔石発見の報が轟いて、流石、次代の王よと宮殿はお祭り騒ぎになった頃、次に第3子懐妊の報が届き、と良い事づくしで。我が家も胸を撫で下ろした、という次第なの。
母が言うにはね、あの頃は皆がギスギスした雰囲気だったと。暗く、重苦しい空気を振り払ったのは、王女殿下生誕の報だった。姫殿下は幸運の女神様のご寵愛の元、ご生誕あそばしたのだと。お陰様で我が家は私の後にも弟妹が生まれ、仲良く過ごしております。王宮に召し上げられていたら、今のような幸せは無かったと思います。
全て、アンネローゼ様がこの世にお生まれになって下さったお陰なのです。母がわたくしに、事あるごとに言い聞かせたのは、もし万が一王女殿下の身に何かあるのなら、そしてわたくしが姫殿下のお傍に仕える事が許されるのなら、貴女は王女殿下をお守りするのですよ、と。そう聞かされて育ちましたの。我が家の幸せは王女殿下のお陰なのだから、と」
話し終わって、にっこりと良い笑顔のメルツェ様。
とんでもない買いかぶりが来ましたよ。
成程、わたくしの盾になると仰った理由は解りましたわ。
けれど、その幸せは、わたくしのお陰ではなく、メルツェ様のお父様が死守した物ですよ! わたくしはただのキッカケに過ぎませんよ。
それにしても、わたくしが生まれるまでの10年の間に、そんな政争があったのですね。知らなかったわ。メルツェ様はエーデルシュタイン家は熱狂的な国王派だと仰ってましたものねぇ。そんな裏話があったなんて。中立だったのを国王派にしたのは、同じ愛妻家という事も理由かもしれませんし。
だからと言って、ご自分のご息女にそんな教育をしなくても……と思わなくもないけれど。
「メルセデス様は、ご卒業されたら王宮に出仕なさいますの?」
レオニーがキラキラした瞳で尋ねます。
「わたくし、文官として勤めたいと願っていますわ。アンネローゼさまがいずこの国に嫁がれても、その国に大使として派遣されるよう、頑張りますわっ!」
メルツェ様は、なかなかの大志を抱いていらっしゃる。
結婚はまったく考えていないよう。どうなさるのかしらね。
どうなっても優秀なメルツェ様の事ですもの。先が楽しみですねぇ。
「私はソフィアがいい」
なかなか男子が生まれず、側室を勧められた時に昭和天皇が「わたしはナガコがいい」という返答をされたのだとか。そのエピソードを参考にさせて頂きました。
その後お生まれになったのが現在の上皇陛下。