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女子会1

 

 学園の特別応接室。

 ここは静かでいいわね。

 多忙な予定の中、ほんの一時の憩いをわたくしに齎してくれる。雑多な雰囲気のカフェテリアも良いけれど、静寂も、また良い。


 今は茶器をたくさん用意して、お茶会の実践授業モドキをしているの。有志を募って、マナーのおさらい……という名目で女子会をやっているだけですけどね。ふふっ。出席者はメルツェ様にクラーラ様(ふふっ。あのヘーゼルナッツのご令嬢が、今はすっかり厳格な淑女科のボスですわ)、もちろん、レオニーもいるわ。

 女子会で、当然話題に上らない訳がないのがデビュタント。皆様、お家の事情やそれぞれで王宮で開かれる舞踏会の中から適当に選んでデビュタントを済ませているわ。

 わたくしのデビュタント舞踏会は、今秋の終わりだと決まっている。白いローブデコルテ(バルローベ)も用意済。綺麗なレースと刺繍に彩られたそれは、お母様がデビュタントした時のドレスなんですって! それを今風にアレンジして、わたくし用に生まれ変わらせたの。とても素敵なの。


 でも、やっぱり夢は夢のまま、叶わないのねって改めて思ったわ。




「夢は夢のまま……ですか。恐縮ですが、どのような夢なのか、伺っても良くて?」


 メルツェ様が小首を傾げてわたくしに問います。

 話しちゃおうかしら。人に話した方が心の中で整理がつくって、お義姉様も仰っていたし。

 わたくしはカップをソーサーに戻し、それを机の上に置いた。



「わたくしの幼い頃の夢はね、デビュタントのパートナーにルークお兄様になって頂く事だったの」


「ルークお兄様って、あのベッケンバウワー公子よね? 親戚筋だし、独身だし、お願いすれば叶うのでは?」


 レオニーは不思議そうに首を傾げます。


「いいえ。それは叶わないの。知ってはいたけれど、正式決定として知らされると、それなりにショックだったわ。わたくしのパートナーはね、なんと! お兄様なんですって! 血の繋がった、本当のお兄様、ヘルムバート王太子殿下よ! 光栄に思わなきゃね」


 本来、デビュタントパートナーは、婚約者か、未婚の兄弟か親戚が務めるもの。未婚の、って所がキーポイントよね。


「そうしたら、妃殿下のパートナーは誰が務めるのですか?」


 クラーラ様も不思議そうね。


「その日の王太子妃殿下のパートナーは、弟君のルークお兄様よ」

「え? 何故わざわざそのような事を? 妃殿下のパートナーは王太子殿下だし、ルーク公子は独身なのだから、ローゼのパートナーになっても構わないのでは?」


 レオニーの疑問も当然よね。


「ううん。駄目なの。王女のデビュタントでパートナーなど務めたら、婚約者だって宣伝するようなものじゃない? だから、ダメ」

「駄目なの? 何故? ……ローゼは、あの、こう言ってはあれなのだけど、ルーク公子の事、お好きでしょ? 婚約者になって貰っても、いいのではないの?」

「え? わたくしの気持ち、バレてたの?」

「バレるわよ。だって、あの時、ルーク公子が現れた時のローゼの顔、私見てるもの! すっごく可愛かったんだから!」


 そうなの? ルークお兄様と思いがけずお会い出来て、嬉しかった気持ちが駄々洩れしちゃったのかしら。


「そうですねぇ……わたくしも、アンネローゼ様はベッケンバウワーの公子さまにお熱なのね、と理解しましたわ」


 メルツェ様まで……そんなに判り易かったのかしら。いやだわ、恥ずかしい。

 頬に手を当てると、なんだかホカホカと温かいわ。


「ご本人のお気持ちがそうでも許されない、という事は……貴族間のパワーバランスが関係してますの?」


 メルツェ様のお言葉に、びっくり眼のクラーラ様とレオニー。


「正解ですわ、メルツェ様」


 どうして、婚約者に成れなくて、間違われてもダメなのか?


 我が王家もベッケンバウアー公爵家も、強くなり過ぎたから、よ。

 魔石を発見し、魔鉱石へと変化させ、我が国に莫大な利益を齎した両家。


 この両家が今以上の結び付きを持って強大化しては周りに悪影響を及ぼすのですって。 王家は他の貴族家とのバランスを調整しなければいけないから。一家門にのみ権勢が集中しないように。ただでさえ、ベッケンバウワー公爵家は先代の時に王女が降嫁している。そして現在の王太子殿下へ娘を嫁がせている。

 お兄様がまだ幼く婚約者が決まる前は、王家も突出した財力はなくて、強力な後ろ盾を得る為にもベッケンバウワー公爵家との結び付きが必要だった。

 でも、現在はこれ以上の結び付きは不要。そんなこんなでルークお兄様とわたくしが結婚するような事態は起こらない。絶対に。王家が財力的に巨大化した日から、暗黙のうちに決まった事。


 わたくしは、わたくしの初恋に蓋をしたの。絶対叶わない想いだもの。早く諦めて、この想いが風化するように願ったわ。

 それでもずっと好きだったけど。 今でも、胸の奥に甘い想いは残っているけれど。


「初恋は実らないものだって、何かで読んだわ。私は、初恋すらまだだから、よくわからないけど……」


 レオニー。慰めてくれるのね、ありがとう。

 でもうちの両親も兄夫婦も初恋同士なのよね。政略結婚のくせに! そこが業腹なのよ。自分たちばかりちゃっかり初恋を実らせて、裕福になったからわたくしには諦めろって言うんだもの!

 ……いえ、目の前ではっきりそうだと、言われた事はないけど。ちょっと、ねぇ? ずるいわよね!



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