アンネローゼ・フォン・ローリンゲン2
そういえば、お義姉様が昔、学園についてわたくしに色々と教えてくださったわね。
『学園には、様々な人が通う事になるでしょう。国内の全ての貴族子弟が集まるのですもの。どんな人が貴女に近づくか解らない。それが醍醐味ではあるけれど、考えれば考えるほど、私は怖くなるの』
なんとも真剣な表情でわたくしに向き合うお義姉さま。
『お義姉さま……大丈夫ですよ、わたくしには専属の護衛がちゃんと付いていますもの』
笑顔で安心させようとしても、
『でも授業中とか、一人でお手洗いに行く時とか、ありますでしょう?』
まぁ、確かに護衛が離れる時間もあるでしょう。けれど、
『……それは、暗殺者の心配をしろと仰ってます?』
学園内を暗殺者天国にはしないと思うのですが。
物騒ですわ。警備体制はどうなっているのかしら。
『あぁ、可愛いローゼ。貴女のそのキラキラした金髪もアイスブルーの瞳も大層な美少女っぷりも、全部まるで悪役令嬢の持つ資質のよう! しかも王女さまって! これはもう、確定なんじゃないの? いやだ、私の軽い一言のせいで、学園が建設されてしまったばかりにローゼちゃんが……!!』
何故、頭を抱えてしまうのかしら? そもそも、『可愛い』という単語はお義姉様の為にある単語で、わたくしに当て嵌るものではないのだけど。
わたくしは『可愛い』というより『綺麗』に該当するらしいわ、お父様が仰るには。お母様にそっくりで美しいのですって。
で?
あくやくれいじょう? 確定?
時々、お義姉様はわたくしには解らない話をなさるのよね。
『ローゼちゃん、特に気を付けなければならないのは、ピンクブロンドの美少女よ! それも低位貴族の! その者が貴女の地位を脅かそうとするわ!』
抱えていた頭をキっ! と上げて涙目で訴えてくるお義姉様。
『ピンクブロンドの暗殺者がいるのですね?』
随分派手な暗殺者ね。まぁ、身形などなんとでもなるからいいのかしら。低位貴族でどうやってわたくしの地位を脅かすのか判らないけど。
『貴女の婚約者を奪い取るつもりだから、気を付けて! あ、もしかしたらヨハンくんを篭絡して貴女から反目させるかも!』
なんだか、妄想じみてきたわ……。
『お義姉さま! しっかりなさって!
まず、わたくしに、婚約者はいません。だから奪い取られるものがありません。
次に、弟のヨハンはまだ12歳です。学園は16歳から3年間なので、わたくしとヨハンは一緒に学舎に赴く事はありません。』
『あら? ほんとう、そういえばそうね。ローゼちゃんに婚約者は居なかったわ』
涙目のお義姉様が冷静になってくれたようで、ちょっとホッとしたわ。
『でなければ、貴女に戦いを挑んでくるのかもしれないわ』
まだ続くのですね。
『戦い、ですか』
暗殺者天国の上に、決闘上等の学園になるのですね。
判りません。
『何かにつけて貴女に張り合って、競い合おうとするかも!』
学業的な戦いでしたか。成績の順位争いの事なら対応可ですね。
『それとも、か弱い振りをして、貴女に冤罪を擦り付けるかもしれないわっ』
『冤罪を擦り付ける?』
冤罪、ねぇ……。わたくしに横領の疑いがかかるのかしら。それとも某国のレジスタンスを焚きつけてそれをわたくしの名前で支援するのかも。国際問題になるのは憚られるわね。
『あぁっ! やっぱり心配だわっ! 学園なんて行ってはダメ! 引き籠るのが一番良い解決方法よっ嵐が通り過ぎるのを待つのっ!』
心配性のお義姉様に抱き着かれて、ちょっとわたくし、嬉しくなっちゃった。
でも、ごめんなさいね、お義姉様。わたくし、やっぱり学園へ行きたいの。だって、学園に行けば色んな人がいるのでしょう? 都会の子も僻地の子も、公爵家の子も男爵家の子も、皆来るのでしょう? 今迄わたくしが会った事ある同年代の人間は両手で数えられる位なの。
それはたぶん、お母様がお兄様の次にわたくしを生むまでに時間がかかったせいなんだろうけど。
お兄様の世代はだいぶ貴族の子どもって多かったのですって。それは国王陛下が結婚して、その子どもの側近もしくは伴侶になれるように、周りの貴族たちも同時期に結婚するから。出産ラッシュって言うらしいわ。
でもお兄様の次にわたくしが生まれる迄10年時間があった。
わたくしは、もうすっかり諦めた時にできた子どもだったらしい。
だから王宮にすんなり上がれるような近しい公、侯爵家で同年代の子どもっていないの。弟のヨハンとは同年代の子がいるのだけど。
お義姉様の弟のルーク兄さま(わたくしが勝手にルーク兄さまって呼んでるの。カッコいいのよ、わたくしの初恋なのっ)も今年21歳で学園に通うような年ではない。
だからわたくし学園でお友だちが欲しいの出来れば親友って呼べるような!
学園でいろんな人に会って、お友だちを作って。……そして出来れば、愛する人を見つけられたら。
なんて、ちょっとだけ思ってみたり。
でも。
友だち、ねぇ。
今日のあの無礼者はなんだったのかしら。
わたくしに何かしら物申したい人間がいる、というのは確かなようね。
その友だち(自称)が、わたくしに直訴してきた。直訴というには余りにも無礼千万だったけど。
『友だち』って、何か文句があった時に、代理人となって王女に直談判するような間柄なの?
せめて不満を持つ本人が同席しないかしら?
何故、代理人を矢面に立たせるような真似をするのかしら。
わたくしはあの無礼者、ケビン・フォン・クスナーと言ったかしら、あれより、彼の言う友だち、とやらの方が気に入らないわ。
なんだか姑息?
卑怯者? な気がするもの。
さてさて。
明日以降が楽しみね。
お義姉さまは地球からの転生者なので、余計な知識が盛り沢山