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騒ぎの後の、初めての登園

 

 日曜日のお休みを挟んだ翌週初め。

 あの騒ぎの後での登園は、少しだけ今までと様相が変わったわ。キャサリンが近衛の制服を着てわたくしの前に現れた時、全てを悟りました。もう侍女服姿ではない。わたくしを護衛する為のキャサリン。彼女の姿を見て、まぁ仕方のない事だと納得した。これで、わたくしは『王女として』学園に通う事になるのね。皆から遠巻きにされ、誰からも話しかけられる事などなく……。

 それが、普通。それが、当然のこと。今迄が特例過ぎただけの話。


 諦めきったわたくしが、学園の馬車止めで馬車から降りると、そこには。


「……おはよう、ございます」

「おはようございます、アンネローゼ様」

「おはよう。アンネローゼ姫」


 なんだか、キラキラしたいい笑顔でわたくしを迎えてくれた人がいたのです。それも二人。


 わたくしから向かって右側にメルセデス様。

 そして左側にアスラーン・ミハイ・セルジューク様。


 何故、お二人揃ってお出迎えしてくださるのでしょう?


「本日も、良いお天気ですこと! まるでアンネローゼ様に会えて喜んでいるわたくしの心持ちを反映した様ですわ!」


 そう言いながらわたくしの右手を取るメルセデス様は、なんと制服姿です。そういえば、お約束した通りだけど、まさか本当になさるとは。


「うふふ。お揃い。嬉しいですわ」


 お言葉の端々に喜色が籠っていますね。勿論、表情も、なんというのでしょうか、頬をほんのりと染めて恥ずかし気に言うその姿は、とても愛らしい、ですわ。恥じらう美女は心臓に悪いわね、ドキドキするもの。

 そのままわたくしの手を取って進もうとした所、そのわたくしの右手がついっ……と浚われてしまい。

 その手はセルジューク様の口元へ……。


「アンネローゼ姫。俺との時間を「さぁ! 講義の時間が迫っておりましてよっ」」


 どこからこんな力が? と思うような強引さで、メルセデス様がわたくしの肩を抱いて場を移動します。


「エーデルシュタイン。邪魔をするな」

「わたくしはシャティエルの人間です。他国の者の命令を聞く義務はございません」


 えぇと……。わたくしを挟んで火花を散らさないで頂けると、大変ありがたいのですがね。


「今は、俺が、姫と話をしている」

「いいえ。わたくしとお話をしていらっしゃいましたわ。貴方は割り込んだだけ」


 なに? これ。

 歩きながら、わたくしを間に挟んだ侭、口喧嘩する三年生と、そこに挟まれた一年生の図? どうしてこうなったのかは分からないけれど、今は右手側にセルジューク様が歩き、左手側にメルセデス様が居ます。セルジューク様、そのしっかりと掴んだわたくしの手を、お放し下さいませ。

 メルセデス様はいつの間にかわたくしの左手を取り、右の腰にも後ろから手を回して添えて、ずんずんと歩みを進めています。

 あっという間にわたくしの教室に着いてしまいました。

 なんだか、いつも掛かる時間の半分で着いたような心地なのだけど……。


「アンネローゼ様。御身の安全は必ず、このわたくしがお守り致しますから!」


 とてもいい笑顔でわたくしを教室に押し込んだメルセデス様は。


「さぁ! あなたの次の時間割りは何? 3年の棟に戻りますわよっ!」


 そう言って、セルジューク様の背中を押して行ってしまったわ……。嵐のような勢いでしたね……。


「……その護衛のお役目は私の物なのだが……」


 キャサリンがぽつりと呟いたのが印象的です。わたくし同様、キャシーも突然の出来事に呆然自失していましたわ。悪漢相手なら素早く反応出来るキャシーだけど、伯爵令嬢と他国からの留学生(王族)相手には、勝手が違うようで。顔を見合わせて笑ってしまいましたわ。


 ちょっと気持ちが解れた所で、わたくしを待ち受けていたのは。


「ローゼ! おはよう!」


 明るいレオニーの()()()()()()でした。


「今日のダンスの授業、例の靴、貸してくれる?」


「――おはよう。えぇ。勿論よ」


「ローゼさま! おはようございます!」

「おはようございます、ローゼさま」


 その後も次々と、()()()()()()()挨拶をしてくれるクラスメイトたち。

 いつもの、ように……。


「みなさま、おはようございます」


 なんだか、嬉しくて。とても嬉しくて。

 いつものように挨拶をしてくださる皆様。

 皆様にとっては、先週までのわたくしと、今日のわたくしと、何の変わりもないのでしょう。つまり、今までわたくしの事情をご存じの上で、接して下さったのだと。

 みなさまのご理解とお心配りの元、わたくしは伸び伸びと過ごしていたのだと。

 理解、しました。

 なんて有難い事でしょう! なんてお心根の優しい方たちでしょう!


「レオニー」

「うん。みんな、気が付いていたよ。でも、みんな、ローゼが好きだから。ローゼの思うようにさせたいって気が付かない振り、してたんだ」


 感動して涙が出ました。

 人って、嬉しくても泣けるのですね。それは新しい発見でしたわ。


 嬉しい事は他にもあったのよ。

 なんと、クラスの女子、全員が制服着用していたの!!

 我が専科クラスでもドレス着用の令嬢が居たのだけど、今日の制服着用率は100%でしたわ!

 なんでも寮にメルセデス様が乗り込んできて、自分も制服を着用するから、皆様ご一緒に! と扇動していったとか。

 なんというか……とても活動的な令嬢でしたのね、ちっとも知らなかったわ。他者に影響力のある方だとは思っていたけど。


 けれど、そんな影響も届かない、というか情報入手が遅い方も、この学園に在籍しているのは事実で。




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