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告白騒動

 

「それ以上の接近を禁止する。下がれ」

 と、冷たく言うキャシー。侍女の体裁だけど、近衛モードに入っているわね。気配がピリピリしているもの。


「お話をさせて下さい、お願いします」


 ピンクブロンドはめげないのね。

 もしや、このピリピリを感じていないの? 見た目綺麗なお姉さまだと、いいえ、ただの侍女だと侮っている?

 空気が読めないのは致命的よ? ダメだと思うわ。


「リュメル様。この方は貴方の手の届く方では無いの。悪いことは言わないわ、諦めなさい」


 高圧的なキャシーと違い、メルセデス様は優しく諭す様に話されるのね。同じ学生としての温情…かしら。


「手が届かないって、……何故? こんなに近くに居るのに」


 そんな泣きそうな顔でわたくしを見ないで欲しいわ。不快よ。同情を買おうというのかしらね。

 ……変ね。

 先程のメルセデス様の涙目には、心打たれたというのに。

 今はピンクブロンドの涙目を見ても不愉快に思うだけだわ。


 どちらも美形。違いは性差? わたくし、女性に対しての判定が甘いのかしら。


 ……いいえ。このピンクブロンドには自分の顔面の威力をよく理解して、それを活用している印象を受けるのよ。なんだか、わざとらしい、というか…驕りが見えるというか……。



「お前の身分で釣り合う方では無い」


 冷たく切り捨てるキャシーの声に、ピンクブロンドの口が小さく「釣り合う方では無い?」と繰り返して。分かってくれると良いんだけど、と見守るわたくしを、彼はキッと見返した。あ。なんでか分からないけど、彼が無駄に闘志を燃やしたのが分かったわ。


「せめて! 手紙の返事を頂けませんか?」


 門前払いは嫌、という事かしら? わたくしとの交流が何でもいいから欲しいと?

 ピンクブロンドの背後にいる騎士科クラスの男子学生たち(いつの間にか接近していたわね)が固唾を呑んで見守っている気配を感じるわ。

 ……嫌ね。“あれ? 告白受けてくれないの? なんで?”って聞こえてきそうよ。


「無理だ。お前の手紙はあの方に届く前に検閲され不適切だと判断された。あの方はお前の手紙自体、目にしてない。目にしていない物に返事など出来ない」


 不適切だと判断された『何か』があったのね。でなければ、手紙があった事実だけは、わたくしの元に来るはずだもの。

 何があったのかしら……知るのが怖いわね。


「検閲? 他の人が読んだんですか! 酷い! 僕はちゃんと“親展”と書いたのに! 表書きに“親展”と書いてあれば、本人以外が読まないのは常識ですよ!!」


 ……なるほど、想定の出発点が違うわね。

 彼は貴族というより、商人としての常識で動いているわ。もともとお家が商会だからでしょうけど。

 わたくし達は王族としての常識で動いている。王家の人間への書簡が検閲もなく届くなどあり得ない。それが公爵家など特別な家門ならいざ知らず、一介の男爵家からの書簡が、例え“親展”などと記されようと素通り出来ないのは自明の理。

 ……解釈がすれ違う訳ね。


「そちらの常識は通じない。駄目なものはダメだ。諦めろ」


 溜息混じりのキャシーの言葉は冷たいようだけど、他に言い方も無いわよねぇ。駄目なモノはダメだし、諦めて貰う他、方法が無いわ。

 まったく。こんな大事にしたくなかったのに!



「そんな! ローゼ様! ……ローゼ様ご自身は、どう思っていらっしゃるのですか? 僕のこと、憎からず思ってはいませんか?」


 うわぁ

 今、ゾワゾワっと鳥肌が立ったわ。

 何か、得体の知れない気持ち悪さが背筋を這い上って来たわ。何よこれ?

 気持ち悪い。


 ピンクブロンドが片膝立てて跪いた。右手を胸に当て、騎士が忠誠を誓う姿勢をとる。


「ローゼさまっ。ずっとお慕いしてました。どうか、哀れな僕にお情けを!」



 はぁ?

 もしかして、この子、わたくしに好意を寄越せと言っている? のよね?


 せっかくキャシー達が引き下がれと言っているのに、わたくしに直接声をかけて“お情けをくれ”?

 それって、こちらには不敬罪を適用するな見逃せ、と要求しているようにしか聞こえないわよ?

 いや、わたくしとしては、そんな大事にはしたくなかったのが本音だけど、ここまで大っぴらにしたら、なんらかの処分が必要になるじゃない!



「ねぇ、クルト。あれ、君の教え子に当たるんだろう? 止めないと君、免職ものだよ?」

「え? 誰だ……うぇっ?! る、ルーク様?!」



 すっかり傍観者としてピンクブロンドの告白劇を見物していた騎士隊長に声をかけたのは、わたくしの敬愛するサラお義姉様の弟君。

 ベッケンバウワー公爵家の次男、ルーク・フォン・ベッケンバウワー様。


「やぁ! アンネローゼ! 久しぶりだね、元気だった? 制服姿を初めて見たけど、まるで君が着る為に作られたようなデザインだね」


「当たり前です! わたくしが着たくて作ったのですもの!」


 朗らかにわたくしに声をかけて下さるルークお兄様。

 黒い髪に、わたくしの大好きなサラお義姉様と同じ翡翠の瞳。大好きな…。

 ん?

 そのルークお兄様が、どうして学園にいらっしゃるの? 確か、大学部で研究に励んでいらっしゃるとばかり思っていたのに。大学部はこの学園の隣の塔にあるとはいえ、かなり距離があるわよね?


「えぇ?! アンネローゼって……えぇぇぇ?!!! あぁっ!! キャサリン様っ!?」


 クルト隊長、とやらは、やっとわたくしの顔に注目したらしいわね。彼もわたくしを『制服を着ている』から下級貴族の娘だと認識していたのでしょうね。

 そして侍女服を着ているキャサリンにも。


 気が付くの、遅すぎるわよ。

 そんな風に注意力散漫だと、お仕事に悪い影響がでるんじゃないかしら。




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