レオニーナ・フォン・シャルトッテ4(クラスメイト視点)
私が専科クラスの結束の固さに感動している間に、どうやら3年生のお姉さまが仲裁に入ったらしい。
ドレス姿も麗しい、輝く金髪の縦ロールが派手な伯爵令嬢だ。
確か、今現在の在学生の中で一番の高位貴族、エーデルシュタイン伯爵令嬢のはずだ。
3年生の登場に、赤毛とピンク頭も大人しくなった。
このまま伯爵令嬢の仲裁の元、お開きになるのかと思っていたら、
「知らないなんて嘘よ、だってそこのメイドが受け取ってたわ! そのメイドは貴女の専属なんでしょう?! 無理して専属メイドなんて雇って! 制服組のくせにっ! 主人に預かり物すら渡せない、その程度の無能なメイドしか雇えない貧乏貴族が生意気なのよっ!」
キンキンと耳障りな高い声で上がった糾弾。
淑女科のドレス組の中でもあからさまにローゼに敵意を向けているクラーラ・フォン・クライン。たしか伯爵令嬢だ。
「無能なメイド?」
「貧乏貴族?」
「生意気?」
「「「生意気はどっちだ?」」」
「リュメルさまからのお手紙なんて…ずるいわっ!その上、待ちぼうけさせるなんて! 酷いにもほどがあるわっ!」
「えぇ? あれの手紙、欲しいんだ…ドン引きぃ…」
「ずるいって……」
「勝手に待ってんだから本人は幸せなんだよ」
「変質者だからな」
我々は既にピンク頭を変質者認定しているので辛辣だ。
「そのメイドがちゃんと仕事をしてないのか! さっきも俺の邪魔をしおって! お前、メイドのくせに態度がデカ過ぎる! 躾し直さないとダメだ!」
さっきから常に威嚇するような大声を上げる赤毛がそう言って、手を振り上げた途端、
「おやめなさいっ!」
華奢なはずのローゼの叱咤の声が、はっきりとカフェテリア中に響き渡った。
「誰の許しを得てわたくしの部下を躾けようと言うの? 貴方にその権利は無くてよ? 無礼な。下がりなさいっ」
これが。
これが、本物の貴族の頂点、王族の威厳。
びりびりと肌に直接浸透するかのような圧を孕んだ言葉は、まさに下知。先程からの赤毛の無礼な振る舞いに対して、この一喝は胸のすくような思いを私に与えると同時に、自分から身分バラしてるよ? どうするの、ローゼ? と心配にもなった。
ローゼ本人もそれに気が付いたのか、気まずそうに振り返る。
あんなに威厳たっぷりな叱咤も出来るのに。
今は怒られるのが解ってしっぽを股に怯える仔犬のよう。
まったく、ローゼは可愛いったらないわ!!
その後、立ち上がって奴らに対処し始めたローゼの後ろで、我々は対策を練る。
あのピンク頭、計12通の手紙を渡していたのだとか!
入学してまだ3週間。日曜日は授業がないから、単純計算で18日で12通、書いて渡しに来ていたことになる。しかも一昨日は日に4通持って来ていた事が判明した!
手紙を書く頻度が徐々にペースアップしていたのだ。
「マジ変質者じゃん……怖い……」
「キモ……」
「あの赤毛の先輩も、友だちの愚行を止めればいいのに……」
「ローゼさまに文句言うなんて筋違いも甚だしいわ!」
「不遜の極みって……生意気よ! メイド如きにそんな事言わせて、どうするつもりなの?」
クラーラ・フォン・クラインのキンキンした叫び声は割り込むように脳に響く。なんて迷惑な声だ。
「リュメル様はこの学園のアイドルなのよ! そのリュメル様のお誘いを不遜、だなんて許せないわ!」
「アイドル?」
とは、ローゼの呟き。
クラーラ嬢の驕り高ぶったキンキン声は続く。
「貴女、知らないの? よっぽどの田舎から出てきたのね! 可哀そうだから教えてあげるわっ! リュメル様とクスナー様はこの学園では知らぬ者などいない人気者なのっ。みんなのアイドルなのっ。女生徒全員、彼らとお付き合いしたいと思っているのよ!」
「いや、私は思っていない」
「当然だな」
「変質者はお断りよ」
「俺が女でも嫌です、お疲れさまでした」
その後、クラーラ嬢が一年ダブリだとバレた。どうりで、淑女科クラスで幅を利かせてた訳だ。先輩が同学年にいるって事だものね。淑女科クラスもご愁傷様です。
でも、まぁ、大人しくしてたらバレなかったのに……。
「自業自得だよ」
「同情の余地なし」
「ドレス組だからって、威張り過ぎよ」
「あの女、またローゼさまに喧嘩売りに来そうね……」
我々の恒例、目と目で会話。
「「「「なんで、気が付かないんだ? バカじゃないのか?」」」」
「バカだから、留年したんだろう」
「「「「なるほど!」」」」
「たしか……学園規則では留年は1年度につき、1回です。2度のダブリは退学扱いになります」
「このまま気が付かないで退学になりそうだな」
「余りにも不遜で不敬。本人知らないとはいえ、恐ろしい」
「お家取り潰しになる?」
「なっても可笑しくない罵詈雑言の嵐だったぞ?」
「……お家が不憫」
「うん……でもそういう教育をして、あんな娘を育てちまった責任ってものがあるだろう?」
「あぁ。私がローゼを見る度に、“こんな女性に育てて下さって、ありがとう! 陛下万歳!”って思う気持ちと同じ奴ね」
「うん、うん。ベクトルの向きは真逆だがな」
その後、我々は変質者と留年生に対抗すべく結束を固め、ローゼを守ろうと誓い合ったのでした。
放課後にまた新たな騒ぎが起こるとも知らずに……。