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出会い?

『相互理解は難しい』の12年後、あの時幼女だったアンネローゼが主人公です

 

「君は彼の気持ちを(もてあそ)んで、どういうつもりなんだ⁈ この悪女が!」


 突然、怒鳴られたの。

 見知らぬ男子生徒から。

 それが余りにも突然で反応できなかったの。

 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?


 学園の廊下で前からズンズンと進んで来たこの方は、私の前に立ち塞がった。そして先程の暴言。

 背の高さはちょっと見上げるくらい。

 明るいクルクルした短くて赤い髪とギラギラ光る黒い瞳。ソバカスがチャームポイントかしら? そして表情は、怒り。なんだか偉そうに両腕を組んで、わたくしの進路を塞いでいる男子学生。


 右に避けようとすると右に。左に避けようとすると左に。

 はい、確実にわたくしがターゲットなのね。折角護衛(キャサリン)を撒いて1人になったというのに、ツイテないわね。


「あなた、誰?」


 仕方ないから話してかけてみた。

 そうしたら、大袈裟に驚いた顔をして


「俺を知らないのか? ちょっとは有名だと思ってたんだがな!」


 組んでた両腕を外し、やれやれと言うように手のひらを上にして肩を竦めた。

 まるで知らないわたくしが悪いみたい。


「去年の剣術大会準優勝のケビン・フォン・クスナーだ! 1年生で準優勝だったんだぞ!」


 この人、莫迦(ばか)だ。

 去年の剣術大会ですって。

 わたくしは、()()()()()()()()()なので知りませんよ、そんなの。

 というか、この人こそ、わたくしを知らないのかしら? ちょっとは有名だと思っていたのだけど。でも、わたくしをターゲットに話しかけて来たわよね?

 どういうこと?


「それで? なんのご用?」

 重ねて問えば


「お前は俺の友達の真心を踏み躙ったんだってな! どうして呼び出しに応じない? どれだけあいつが待ったと思ってる?」


 んん?


「なんのお話?」


 もう、全く、なんの事やら。真心を踏み躙る? 呼び出し? 誰が待ったって? 心当たりがまるで無く、首を捻らざるを得ない。


「お前はどこまで厚顔無恥なんだ! これだから女はダメだ!!」


 わたくしの反応の薄さに、この無礼者は怒りを更に募らせたようで。

 厚顔無恥? 厚かましくて恥知らずって意味よね?


 まぁ、確かに。


 内心が直ぐ相手に判るような簡単な(チョロい)態度を取るな、という教育を受けているから『厚顔』はある意味正しいかも?


 恥の概念は知ってるけど、一般市民とはかけ離れてる事も理解してるわ。

 それをこの無礼者に言われたくはないケド。


 通りすがりに見知らぬ男に絡まれてるからこそ、(わたくし)はダメって言いたいのかしら?

 絡んでる本人に言われるとは思ってもいなかったわね。この人『女』全般を一括りにダメ出しする男尊女卑思想をお持ちなのね。


 でも。


 これが、これこそが本当の社会見学なのですね、お義姉様!! この為の学園! この為の同年代の貴族を寄せ集めてする生活!


 いつもの日常生活で、ここまでわたくしに対して無礼な振る舞いをする人間に、お目にかかった事などありません。生まれて初めてです! 稀有な存在に出会いました! なんだかワクワクと心弾む思いがしますわ!


 マジマジとこの無礼者を見つめると、「な、なんだよ……」と、居心地悪そうにします。


「俺の友達、とやらは何処に?」


 先程、そう言っていたのに。彼1人でわたくしの所に来たのは何故?


「何故、その真心とやらを踏み躙られた本人ではなく、あなたが怒っているの?」


 わたくしの質問に、この無礼者はムッとした不満顔でわたくしを睨みつけた。


「俺はアイツの友だちだからだ! 文句のひとつも言えない大人しいアイツの代わりに俺が言ってやってるんだ!!」


 なによ、それ。


「友だちって、そんな事までするの? 自分のことは自分でやらせなさいよ。親じゃあるまいに。」


 親だってしないと思うけど。


「なんだと⁈ あぁ言えばこう言う! やっぱり女は屁理屈を捏ねて道理が通らないな!」


 屁理屈? 道理?

 あなた、言葉の意味、解って使ってる?


「さっきから道理が通らない事言ってるのは、間違いなくあなたよ? 後で絶対、確実に後悔して死ぬ方がマシと思うわ。先程からのたび重なる無礼は、不問に付してあげるからそこをお退きなさい。わたくしはお花摘みに行きたいのよ!」


 そう言ったら、さすがの無礼者も、赤い顔して道を空けたわ。でもわたくしが通り過ぎたら後ろから「次は絶対来るんだぞ! 覚えてろよ!」という声が聞こえた。


 本当に、なんなの? あれ。

 せっかく『不問に付す』と言ってあげたのに。


 わたくしは、目指していた御手洗に優雅さを失わないギリギリの速さで制服のスカートを翻し、なんとか辿り着いた。


 この学園はいいわね。

 最新設備が整っているから、御手洗も綺麗なの。水洗トイレって素敵。もっとも水洗トイレ自体はわたくしの宮にもあるのよ? でもここは、上下水道設備から何から全て一から設計された我が国初の学園都市なの! この学園がある都市全体が美しくデザインされて、人々が快適に生活出来るようになっている。これも全部お義姉様のアイデアから生まれた産物なんだから、お義姉様の素晴らしさは枚挙に(いとま)がないわ。


 用を済ませて御手洗を出ると、案の定。メイド服を着たキャサリンが扉の前に居たわ。


「どうして護衛(自分)を撒くのですか? アンネローゼ様」


 あら怖い顔。スッキリした一重の黒目が不機嫌な心情を物語っているわ。


「うーん。趣味?」


 そう言うとキャサリンは、これみよがしに大袈裟に溜息を吐いた。


「殿下! いつもそう仰いますが……」


「はい、そこまで。ここで“殿下”呼びは止めてって言ってるでしょ?」


「……アンネローゼ様、なんの為に自分が身をやつしてアンネローゼ様に付いているとお思いですか?」


「王族が居るってあからさまにしない為よ。いつもありがとうね♪ 近衛の制服も凛々しくて好きだけど、侍女のお仕着せも似合ってるわよ? 出来る侍女って感じね! キャシー、素敵よっ」


「……」


「それにね、先程面白い(やから)に出会ったわ。お義姉様の言う『学園生活の醍醐味』にやっと遭遇したの!」


「はい? まさかっ!!」


「ふふっ。喧嘩売られちゃったわぁ。あぁいう手合はキャシーが居たら絶対遭遇出来ないものねぇ。“覚えてろよっ”って捨て台詞まで貰ったわよ! ふふっ」


「アンネローゼ、さまぁ……」


「うふふ、本当に楽しいわねぇ……」




アンネローゼはシスコンでブラコン。

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