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契神の神子  作者: ふひと
第2章:悠天の神子
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第34話:閑散たる日本三津

 ――夕刻、伊勢国安濃津


 海人たちは鈴鹿関を無事突破し、ようやく3日目の目的地に到達した。

 そして、眼前に広がるのは――


「う、海だ……!」


 この世界に来て初めての海。

 もちろんペットボトルやポリ袋といったゴミなど一つもない。

 古代の、きれいな砂浜がそこにあった。


「……ぁ」


 海人はある種の感動を覚える。


 ――そうか、海って、本来こういうものなんだよな……


 夕日を背中に浴びながら、彼はそんな感慨に浸った。


「ようやくここまで来たな」

「ええ。明日には山田まで行けそうですね」


 悠天と仁王丸は先へと続く道を眺める。


「にしても」


 仁王丸は、後ろに広がる安濃津の町を見て目を細めた。

 そして、悠天も不思議そうな顔で頷く。


「ああ、やはり人がおらぬな」


「薩摩の坊津(ぼうのつ)、筑前の博多津(はかたつ)と並び称されたこの地が、これほどまでに閑散としているとは……」


 怪訝な表情を浮かべるのは彼女たちだけではない。

 しばしば伊勢側へ()()()に来ていた鈴鹿一党も、同じく不可解な面持ちを浮かべている。


「なんでこんな人少ねぇんだ?五日前はもっといたのに……」


 そこで海人たちが思い出すのは、琵琶湖を渡る舟で出会った老人の話だ。


「それは、陽成院の家人が伊賀に引き上げて、鈴鹿関まで閉鎖したからではないですか?」


「どういうこった?」


「商人連中がみんな安濃津から別のところに動いちゃったってことだよ。だからみんな近江か山田にいんの」


 しかし、海人の答えに鈴鹿は首を傾げる。


「それは……妙だぞ」

「え?」


 ――妙だと……?どういうことだ?


 鈴鹿の答えに海人は困惑する。


 老人の話は、筋が通っていたはず。

 特におかしいところも無かったように思われるのにどうして、と海人は怪訝な表情を浮かべた。


 そんな彼を見て、鈴鹿は「いいか?」と手を振り、


「近江はまだわかる。鈴鹿関が閉まる前なら行けたしな。だが、山田……神宮周辺はよく分からん。なぜあそこに商人どもが集まる?」


「デカい町があるとか?」


「それを言ったら、安濃津も大概デカい町だ。なのに、このザマ。それじゃぁ、山田に人が集まる説明になってねぇ……」


 彼女の言わんとすることは海人にも理解できた。

 だが、それだけならまだいくらでも言い訳がつく。


「今は山田の港がメイン……じゃなかった、主に使われてるとか?」

「なんでそんなことする必要があんだよ?港の規模で言や、比べるまでもねぇよ」


 海人の考えを鈴鹿は即座に一刀両断する。

 ここまで確信を持っておかしいと言われると、海人も流石に訝しみ始める。


 その時、ふと鈴鹿が何かに気付いて勢いよく海人たちの方を振り返った。


「お前ら、そもそも伊勢の情勢をどうやって知った?」


「それは……伊勢に親戚がいるとかいう爺さんから聞いた」

「いつの話だ?」


「一昨日だよ」


 それが何か?という表情の海人。

 だが、鈴鹿は合点がいったというふうに幾度か頷く。


「そうか。やっぱりな」


「?」


 だが、海人たちはまだ吞み込めていない。

 鈴鹿が持った違和感。その正体が何か、分からないままでいる。


 そんな彼らに、鈴鹿はため息をついて「つまりだな……」と身振りをとり、


「お前らここまで二日掛ったんだよな。そんで伊勢までは三日は掛かる」


「それが、何か……ん?」

「気づいたか」


 鈴鹿はニヤリと微笑んだ。


「確かに、おかしい」


「何がです?」


 まだ今一つ理解できていない仁王丸に、海人は人差し指を立てて、


「いいか?関が閉まったのは三日前。そして、関が閉じると恐らく伊勢側からも近江側からも出入りは不可能になった。それなら、爺さんの話は辻褄が合わない」


「……! そうか。ご老体が知りうるのは今から最低でも五日以上前の伊勢、それなら、まだ関は閉まっていない……ですが」


「五日以上前の伊勢は平時と変わらぬ。じゃが、何故か翁は今の状況を知っていた」


 ようやく、皆が老人の話の矛盾点に気付いた。

 だが、問題はその先――


「これは一体どういう……」


 しかし、そんなこと考えるまでもない。


「簡単だ、その爺さんは上皇さんの手下ってことだよ」


「なッ!?」


「そうじゃなきゃ、伊勢の情報なんて分からねぇ、いや、予想出来ねぇ」


 衝撃。そういうほかにない。

 旅を初めて初日で陽成院派に捕捉されていた。いや、捕捉されてまではいなくとも、彼らの情報操作に操られていたということになる。


 海人たちは開いた口がふさがらない。

 だが、鈴鹿が感じた違和感はそこにとどまらなかった。


 時を同じくして悠天も苦し気な表情を浮かべる。


「だが、一番妙なのはそこじゃねぇ」

「ああ」


 鈴鹿と悠天が同じように険しい目をして安濃津の町を眺める。

 そう、一番の問題は――


「なんで、わざわざそんな情報をばら撒いてんだってことだ」

「じゃが、それはここまでわかっておれば見当がつく」


 海人は思考回路を高速で回転させ、その答えを探る。


 ――陽成院派の情報操作、鈴鹿関の封鎖、閑散とした安濃津。


 これらの要素から導かれる結論、それは――


「……つまりは、何らかの理由で人を山田に集めてる?」

「そうだ。それ以外ありえねぇ。お前らまんまと乗せられてんだよ」


 鈴鹿は、海の方を眺めて舌打ちした。


「なんか雲行き怪しくなってきたな……」


 重い空気が立ち込める中、波の音が響く。


 夕日は山の向こうに落ち、夜の帳が下りようとしていた。

お読み下さりありがとうございました。

伊勢神宮までもうあと少し!ここからギア上げていきたいと思います!

それともし宜しければ、評価、ブックマーク等入れてくださると嬉しいです!励みになります!




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