使徒
宗教とか真面目にしてる人は読まない方が良いかもです。すんません。
結局、少女を連れて逃亡したり、地元の料理を堪能したりしつつ旅を続けていた。
「目的地は王都ではないのか?」
蜥蜴っぽい生き物が尋ねる。
「この状態で王都に行けると思う?」
「まあそうだな」
もはや何度目か分からないが魔物たちに追いかけられて建物の屋根の上を走っていた。
一行は王都を迂回するように周りの街を渡り歩いているのだ。
「仕方がない、私が手を貸すから一旦二手に別れよう」
「何をするの?」
蜥蜴っぽい生き物が半透明になったかと思ったら少女と同化した。
『やはり精霊とのリンクができるだけあって、良く馴染むな』
「え? 取り憑いたの?」
『人聞きの悪い言い方をするな。ちょっと力を貸してやっているだけだ。これなら戦闘は無理だが、お前よりも機動力があるくらいだからそうそう捕まらんぞ』
「分かった。その子の事、お願いね」
少女を下ろすと、タイミングを見計ってそれぞれ別々の方向へと逃走した。
なんとか追手の魔物を倒したり振り切ったりしたかと思ったが、目の前に得体の知れないものが立ちはだかった。
あからさまに怪しい白スーツの男だ。
「おやおや、精霊の痕跡を追ってきたと言うのにハズレでしたか」
「なんだって言うんだ、いったい」
異様な気配に萎縮しつつ、間合いを開ける。
どうにも嫌な予感しかしない。
「まあ、良いです、先にあなたから死んでもらいましょう」
そう言うと男の手がソードのように伸びた。
「つ、強い」
男は剣術だけでも相当強いが何より魔法が効かなかった。
攻撃も入らないし、向こうの攻撃は防げない。
嫌な予感がしてとっさに避けていなかったら装備ごと真っ二つにされていただろう。
「これでも神の使徒なのでね。精霊使いの出来損ない程度に遅れはとりませんよ」
誰が出来損ないだ
と言うか、神の使徒だと
余計なことに気を取られたのがまずかった。
崩れた石畳に足を取られて転倒してしまう。
「ではさようなら」
男の突き出した剣と言うか腕が迫る。
だがそれが届くことはなかった。
間に割り込んだ少女の腹に突き刺さって進路を変えたのだ。
「なっ」
『すまん、私では抑えきれなかった』
「くそっ」
慌てて立ち上がろうとして気づく。
少女が何かぶつぶつ言っている。
「…なったりしない」
「飛んで火にいる夏の虫とはこの事ですかね。手間が省けてありがたい」
男が勝ち誇っているが少女は呟き続ける。
「人の手は…なったりしない」
「な、なんだこの力は」
何が起こっているのか見ているだけでは分からない。
「人の手は剣になったりしない」
少女が叫ぶと同時に男の腕が弾け飛び、光の粉になって飛び散る。
少女の傷も、いや、服の穴すらなくなっている。
「ぬわあ、キッキサマー」
男が何かしようとしているが完全に封じられているようで、ふらふらと下がって転倒してしまう。
『なんだ? この娘、強力な信仰心で天使の存在そのものを否定したのか?』
何か強力な力で地面に貼り付けになっている男の胸の上に立ち、何か唱え始める。そして。
「神の使徒を名乗るモノよ、爾があるべき場所に返るが良い」
地面から光が立ち上る。
「いやああああああ!!、それだけは、それはやめ、いやだー!!!!!!!」
「懺悔なら神の御元で直にするんだな」
「エーイ」
立てた親指の腹を額に当て、それを胸に、そして、左肩に
「メーン」
その言葉と同時に首を切るジェスチャーをする。
光に包まれて何も見えなくなり、やがて、地面に十字の影を残して男が消滅していた。
「ママっ」
元に戻った少女が抱きついてくる。
「いや、だからママじゃねーってば」
どうすんだ、これ(オ