精霊眼
あまりスチームパンクっぽくないかも(今更
「トカゲと一緒でも何も言わないんだなぁ」
少し大きめの街に来たのでレストランで食事中である。
小さめのテーブルについて女1人と蜥蜴の様な生き物が食事をしている。
「本気でそんなことを言っているのか? 魔法使いだろうが」
「何よ」
「認識疎外だ」
「認識疎外ったって、料理が減ってるのに気がつかないの?」
「…私の姿だけ見えてないなんてチャチな術式だったら、お前は皿相手に独り言を言っている痛い娘だぞ」
「それは困る」
「我々がここで食事をしていると言う事実そのものを正しく認識できなくしているのだ」
「なるほど…、よく分からんけど、凄いね」
「…」
空中に円を描いていたフォークを皿の肉にずぶりと突き刺す。
と同時に、重低音が響き店が揺れる。
店内は混乱している様だが、この建物自体には影響がないので食事を続ける。
店の外から物が壊れる音や悲鳴が聞こえてくる。
「行かんでいいのか?」
蜥蜴の様な姿のくせにフォークとナイフで器用に肉を食べている。
「良いのよ、こう言うところで変に首突っ込むと、怒られるだけなんだから」
頬杖をついてつまらなそうにフォークの先で空中に何か書く様な仕草をする。
「…魔法使いうんぬん以前にマナーとか習わんかったのか?」
表に出る。雨でも降り出しそうな曇り空。石畳の道を馬車や蒸気機関の乗り物が走り回っている。
ところどころ窓が割れたり、配管が壊れて蒸気が吹き出していたりするが、特に怪我人が出た様子はない。
騎士と思われる人たちが調査やらなんやらをしているのが見える。
「見つからない様に道を変えようか」
「なんだ?知り合いか?」
「いやー、この辺に知り合いはいないはずなんだけど、色々ねー」
交差点を曲がると、虚な感じの少女が目に入る。
ぼーっとしていると言うより、目が見えないのかもしれない。
不思議な光を宿す、その大きな瞳は何にも反応していない様だ。
そう思った瞬間、少女の瞳がハッキリとこちらを捉えた。
「ママっ!!」
突然抱きつかれた。
「ちょっとまて、私はこんな大きな娘がいる歳じゃないぞ」
子供の方は一瞬驚いた様子だったが、改めて確認する様に見てから再び安心した顔で抱きついた。
「不味いことになった」
3階建ての建物の屋根の上、立ち並ぶ煙突の影に隠れていた。胸に先ほどの少女を抱いたまま。
蒸気魔導器を装備して風魔法で飛び上がったのだ。
しがみついて離れない少女を回収してもらうために本当の親を探そうと何件か聞いて回ったが、どうやらこの子はこの辺ではわりと有名な孤児の様で、すぐに逃げてしまうこともあって気味悪がられ、厄介者扱いされている様だった。
そして先ほどの騎士たちが探していたのもこの子の様だ。
「子守が嫌なら置いていけば奴らが回収してくれるのではないか?」
「それはもっと嫌」
そして再び何か大きな物が落ちる様な音と衝撃。
目の前に黒い魔物が現れた。
ボイラーの火力を上げて隣の建物に飛び移る。
すでにそちらにも魔物がいるのでそのままの勢いで大通りを飛び越えて反対側の建物の窓に飛び込む。
そのまま階段を駆け下り大通りに出る。
上から強襲。シールドで打ち返す。取り囲もうとした魔物たちをソードで一閃。
脇道に入って三角跳びで壁を登り、そのままの勢いで小道と建物を飛び越える。
「しまった」
広めの公園に出てしまった。隠れるところがない。
奥から騎士たちが走ってくる。
「その娘を渡してもらおうか!」
「ちっ、こんな時に」
騎士の剣をソードで受けると同時に魔法で風を起こし距離を取る。
「まずい、水がない」
シールドの裏に設置されたメーターの一つがレッドゾーンに入っている。
「ここに水を足せば良いの?」
ずっと抱いたまま連れ回していた少女が聞いてきた。
「あ、ああ。そうだ」
すると、周辺から水が現れ渦を巻きながら腰のボイラーに入っていく。
水量を示すメーターがグングン上がっていく。
「この娘、精霊使いだ!!」
精霊使い。それは魔導器や儀式を必要とする魔法使いとは違い、直接精霊を見、使役できる存在である。
「…減った分を足し続けられる?」
「少しの間なら」
「1分も掛からんさ」
ソードとシールドのピストンが激しく動き始める。
組み込まれた歯車とは別に光で出来た歯車が無数に現れてソードとシールドの周りを回り出す。
追いついてきた魔物と、唖然としている騎士たちを一撃の下に吹き飛ばした。
なんとか街の外れまで逃げ延びたが、もうここには居られないだろう。
「さーて、ちょっと面倒なことになっちまった、かな?」
「かな?ではないだろ」
キャラクターに名前をつける気がなかったんだけど、そろそろ厳しいか(オ