9話 腕輪
「アルム、後ろからも来てるわよ!」
「く、わかってるって」
ワイバーンを倒した後で、俺は狼の魔物に囲まれていた。
犬よりも一回り大きく、牙が異常なまでに伸びた魔物だ。
名前はわからない、初めて見るやつだった。
あれから『第5魔界』で魔剣の制御を目的として、色んな奴と戦った。
ゴブリンにスライム、そしてこの狼。
木が襲ってきた時は驚いたが……
魔剣を半円を描くように振る。
それだけで、俺を追い詰めていた狼の魔物は命を落としていく。
使ってるうちにわかったが、この魔剣『ステュクス』は、セルティアの魔力が籠められてるだけあって、俺の魔力をほぼ消費しない。
発動させるきっかけとして、初めだけ魔力を通すだけで、魔剣に蓄えてある魔力が、体に流れ込んでくるのだ。
この魔剣を持ってる限り、魔力切れを起こすことはないと思う。
これだけの強力な魔力があれば、魔法も覚えられるかもしれない。
そして、この魔剣と同じくらい驚いたのがスロネに貰った腕輪だ。
試しに、ゴブリンの攻撃を食らってみたのだが、俺の体に触れる前に見えない壁のようなものに弾かれ、俺に攻撃が届く事はなかった。
この見えない壁が、スロネの魔力が籠められた防御結界なのだろう。
ゴブリンだけじゃ心配なので、狼の魔物にも試してみたんだが、同じだった。
スロネに、どれくらいの攻撃に耐えられるのか聞いてみたが。
「ん、竜のブレスくらいなら弾く」
とか言ってたわ。
こんな事を聞いてしまうと、攻撃を避ける気がしなくなるが、俺は油断せずになるべく避けるようにしてる。
攻撃に当たることを前提として戦ってると、いざという時に動けないかもしれない。
世の中には、この腕輪の結界が利かない敵もいるかもしれないからな。
「はぁ、それにしてもよ……無敵過ぎるだろ、これ」
俺は、目の前に転がる魔物の死骸をみて、思わず一人言を漏らしていた。
一年前までは、喉から手が出る程欲しかった力。
魔王を倒し、サリエルを後悔させてやろうと、努力したが手に入らなかった力。
その力を、一瞬で手に入れてしまった。
ま、それが魔王から貰った武器で手に入ったってのも皮肉な話だがな。
そもそも、俺はもう強くなる必要なんてないんだが。
今さら、魔王を倒そうなんて思っちゃいねーし、サリエルの事も…………
駄目だ、思いだしたらイライラしてきたわ。
今は考えるのは止めとくか。
「うんうん、結構使い方がわかってきたじゃない。今度はもうちょっとレベルを上げてもいいかもね」
嬉しそうに一人で頷くセルティア。
「レベルを上げる?」
「ええ、次は『第4魔界』ね。でも、今日は一旦帰りましょうか。お腹が空いたわ」
「ん、アルムのご飯食べたい」
腹が空いたという魔王達の意見で、今日は帰ることになった。
次は『第4魔界』か。
せめてもう少しここで慣らしておきたかったが。
ま、何とかなるか。
俺は魔剣と腕輪へ視線を向ける。
調子に乗る気はないが、これがある限り、余程の敵がこなければ負ける気がしないわ…………