7話 魔界
水晶が割れた音が響き、周囲の視線がこちらへと集まる。
クソ、こいつら、あんだけ手加減しろって言ったのに…………
「魔力水晶が粉々になるなんて…………」
ほら、レナも引いてるよ……どうすんのよこれ?
「……凄い!!」
「あ?」
「凄いわよ、アルム!! この二人、ひょっとしたらかなりの逸材かもよ」
自分の事のように喜んでるレナ。
あれ? なんか想像してたのと違うわ……
「水晶が割れるってよくある事なのか?」
「たまーにあるのよ! 魔力が強すぎて、水晶が耐えられなくなる事がね。この二人は、最低でもB級以上からのスタートになると思うわ! これって凄いことなのよ?」
なんだ、割れることもあるのかよ……慌てて損したわ。
てかB級スタートって……俺は今でもD級なんだが…………
いや、魔王だから当然っちゃあ、当然なんだが。
何か気に食わん……
「で? 新規登録はこれで終わりだっけ?」
「うーん、今ギルドにある水晶じゃ正確なランクがわからないの、また後日、ワンランク上の水晶で測定するから。とりあえずは、この仮登録カードを渡しとくわ」
「わかった、じゃあ今日はこの依頼を頼む」
俺は前もって選んでおいた、スライム討伐の依頼を渡す。
「はい、スライムね。了解したわ。気をつけてね」
再び森へ向かうべく、ギルドを後にする。
「お前ら、もっと加減しろよ! 水晶粉々にしてどうすんだよ!!」
「何言ってるのよ、手加減どころか、まだ魔力を出してすらいなかったわよ!! あの水晶壊れてるんじゃない?」
いや、お前が壊したんだよ!
「ん、私も触っただけ。多分、普段から漏れ出てる魔力で壊れたと推測」
普段から漏れてる魔力で、水晶壊すとか……こいつら化物だろ……
「まぁ、過ぎた事は仕方ねー。次の測定の時は慎重に頼むぞ」
「はいはい」
「ん。」
貰った冒険者カード(仮)を、嬉しそうに持ちながら返事をする。
本当にわかってんのかこいつら……
「で、さっきスライム討伐って言ってた気がするんだけど、私の聞き間違いかしら?」
「いや、スライムで合ってるが?」
「あんな雑魚、いくら倒しても強くなんてなれないわよ? 冗談よね?」
いちいちムカつく女だぜ…………
「残念ながら、俺はD級でな。そこまで強い魔物の依頼は受けられねーんだよ! それにスライムを嘗めんな! 俺は三回ぐらい殺されかけたぜ?」
まだギルドに登録して間もない頃、スライムをひたすら剣の鍛練の為に斬りまくってたんだが、あいつら、いつの間にか合体して巨大化しやがった。
俺はなすすべなく押し潰された。
あの時、たまたま近くの冒険者が助けてくれたからよかったものの、もし近くに誰もいなかったらと思うと、ゾッとするぜ…………
「あははっ、スライムに殺されかけるとか、笑わせないでよ。あー、お腹苦しい、あはは!」
「…………アルム弱い」
セルティアはいつもの事だからいいが、スロネが必死に笑いを堪えてるのがツラいわ…………
「はぁ~、笑ったわ。でもそれは私に会う前の話でしょ? 今は『ステュクス』もあるし、スロネの腕輪もあるんだから、もう少し強い魔物を倒しに行きましょうよ」
「別にいいが、依頼と違う魔物を倒しても金になんねーんだよな……」
「お金なんていらないわよ、今は強くなる事に集中しましょ!」
「わかったよ」
素直に頷く。
俺も正直、この魔剣を使ってみたい気持ちはあるからな。
「ん~、でもここら辺にはちょうどいい相手がいないわね」
額に手を当てながら、唸るセルティア。
「何してんだ?」
「魔物の気配を調べてたのよ。しょうがない、移動しましょうか! スロネ、あそこに行くわよ!」
「ん、了解」
「あそこって何処だよ?」
こいつら、俺にもわかるように言えよ。
「着いてからのお楽しみよ! じゃ、出発」
俺はまたスロネにくっついて、瞬間移動した。
やはり気持ち悪くならない。
なんかもう、セルティアと瞬間移動するの嫌だな……
ずっとスロネがいいわ。
「ん、着いた」
スロネの声で、目を開くと。
「あ"? んだここは?」
森? っぽい所なんだが、普通の森とは明らかに違っていた。
だって、普通の森って、木が生き物の様に動いたり、紫色の霧が出てたりしないだろ?
それに、時折視界に入る生き物も、見たことない奴ばかりだ。
どう考えても異常だ。
「いや~久しぶりね、ここにくるのも」
「懐かしい」
「だから、何処なんだよ? ここは?」
こいつらが懐かしいとか言ってる時点で、何となく察しはつくが……
「ここは『第5魔界』よ! ここなら魔物の強さもそこそこだし、いいと思ったの!」
やっぱりか…………