5話 魔剣
「あ"? マジかよ? あれ魔王だったの?」
こいつ、そういう大事な事は早く言えや!
「そうよ。私も会うのは久しぶりだったの。変わってなくて安心したわ」
「前もって言っとけよ、馬鹿!」
「でも言ってたとしても、あなたは態度を変えたりしないでしょ?」
「……まぁな」
「なら同じことよ! あなたの、誰に対しても普通に接する性格、私は気に入ってるの」
いやいや、でもさすがに魔王がくるなら一言いっといてくれよな。
下手したら俺、殺されてもおかしくなかっただろ……
「はいはい、ありがとよ」
「はいは一回よ!」
「はいはい」
「……」
「冗談だって、そんな怒るなよ」
「まったく、あなたはもう少し雇い主を敬ってもいいと思うわ」
「じゃあ敬ってやるから、足を舐めさせようとするのやめてくんね?」
「ふふふ、それは駄目よ! 私の楽しみをとらないで」
本当いい趣味してるわ、今日の夜も大変そうだな……
それにしても、クレープを出してやっただけで気に入られるとは。
魔王様チョロすぎだろ……
「明日はギルドに行きましょうよ? 魔物討伐も面白そうだし、あなた弱すぎるから修行にもなるでしょ? 私が稽古つけてあげるわ」
久しぶりに体を動かすのもいいかもな。
けど今更強くなっても意味ないんだよな……
もう魔王を倒す気なんて、まったくないし。
「いいけど、いざとなったら助けろよ? 俺はお前が思ってるより弱いからな」
「そんな事知ってるわ。安心して、いきなりドラゴンを倒せ何て言わないわ。 少しずつ相手の強さを上げてきましょ!」
「まぁ、それなら付き合ってやるよ!」
「もう、生意気なんだから」
次の日の朝、朝食を作ろうとキッチンへと向かう。
昨日の夜も大変だった……あれ、いつまで続くんだろ…………?
「んあ?」
いつも飯を食ってるテーブルを通り過ぎようとして、誰かが座ってる事に気付いた。
「おはよ、アルム。私の分も作って」
東の魔王、スロネルフィスだった。
何でここにいるんだ、こいつ?
忘れ物でもしたのか?
「それは別にいいんだが、今日は何しにきたんだ?」
「ん、遊びにきた」
「そうか……ちょっと待ってろ」
パパッと三人分の朝食を作り、テーブルへと運ぶ。
「ほいよ! 俺はあの寝坊助を起こしてくるから、先に食べてていいぞ」
「……待ってる」
「そうか」
俺は寝室のドアを勢いよく開け、セルティアを起こす。
「おい起きろ、朝飯出来たぞ! それに友達が遊びにきてるぞ」
「ん~……友達?」
「ああ、朝起きたらスロネがテーブルに座ってた。俺もビックリしたわ」
「あの子が2日連続で来るなんて…………あなた、相当気に入られたみたいね」
気に入られたって言われても、本当にクレープ作っただけなんだがな。
それ以外は何もした記憶がない。
「そんな珍しいのか?」
「ええ、私も昨日会ったのが100年ぶりくらいだったもの」
マジか、魔族の時間感覚おかしいだろ。
てかこいつ何歳だよ……
若く見えるけど、中身糞ババアじゃねーか。
「とりあえず、顔洗ってこい! スロネが待ってる」
「は~い」
「珍しいわねスロネ、あなたが続けて来るなんて」
「別にセルティアに会いにきた訳じゃない。今日はアルムと遊びにきた」
遊びにきたって言ってたけど、俺とかよ!?
どうすんだよ、魔王が喜びそうな遊びとか知らねーぞ……
「あら残念だったわね、今日は私とアルムでギルドに行くのよ。アルムの修行も兼ねてね」
なんでこいつは、こんなにも勝ち誇ったように言うんだろうか……
「なら私も行く」
「いいの? 人間が沢山いるわよ?」
「大丈夫。変身は完璧」
右手を自らの顔にかざすと、セルティアの時と同じように、額の角が消えてく。
「俺は別にいいけど、お前ら大人しくしてろよ」
魔王が二人とか……その気になれば王都が堕ちるわ。
「わかってるわよ、それとはい、これ」
セルティアが左手を空間の裂け目に突っ込み、剣を一本取り出し、こちらに投げてきた。
「何だ? いまの? 空間が歪んでるように見えたが?」
恐らく魔法の一種だろうが、見たことも聞いたこともない。
「何って、収納魔法よ! ここに荷物とか、気に入った物をしまっておけるのよ。便利でしょ?」
「そんな魔法があるのか…………で、この剣は?」
剣に詳しくはないが、かなり高そうということはわかる。
「それは魔剣『ステュクス』よ」
「魔剣だと?」
魔剣とは、剣自体が魔力を蓄える事が出来る、珍しい剣だ。
その多くが、とんでもない力を秘めている。
稀少価値が高く、一つの大国に一振りあればいいくらいの、超レアアイテムだ。
「あなた、魔力が少ないでしょ? その魔剣には私の魔力が籠めてあるの。それを使えばあなたの少ない魔力を補えるわ。中々に強力な魔剣だし、あなたにあげるわ」
マジか……こんな簡単に魔剣を手に入れてしまっていいのか?
「こんなレアなの貰ってもいいのか?」
「ええ、私には必要ないもの。もう魔力は十分補充してあるから、普通に使ってれば10年くらいは持つと思うわ」
「ありがとう、遠慮なく、貰っておくぜ」
「むぅ……」
「どうした、スロネ?」
俺とセルティアをみて、スロネが頬を膨らませている。
「……ん! これあげる」
そう言って、スロネも先ほどのセルティアと同じように収納魔法を使い、これまた高そうな腕輪を取り出し、こちらに渡してきた。
「くれるのか?」
「そう言ってる」
何の腕輪かはわからんが、くれるというのなら貰っておくか。
「ありがとよ、スロネ」
「……!!」
やべ、つい頭を撫でちまった……
こんな姿しちゃいるが、こいつは最低でも百年以上は生きてる魔王だ。
妹と重なっちまったぜ……
迂闊だった……
「悪い、スロネが妹と重なって、つい」
急いで手を離す。
「……」
スロネはあいかわらずの無表情だが…………怒らせちまったか?
「……もっと撫でていい。私が許す」
まぁ撫でろと言うなら撫でるが……
「はいよ」
怒らせた訳じゃなくて良かったぜ。