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4話 東の魔王

 


「さぁ、喜んで舐めなさい。ペロペロと犬のように」


 いつもの寝室での、いつも通りの光景。

 いい加減飽きないのかね、こいつは……


「うっわ、臭っっっっっっっっっっさ!! 毎晩毎晩、勘弁してくれよ! こんなの舐めたら死ぬわ!」


「失礼ね、死ぬわけないでしょ! それと、そんなに溜めて言うことないでしょ! 無理矢理舐めさせるわよ?」


 この女は、何でこんなにも足を舐めさせようとするのか……マジでわからん。


「一万歩譲って、せめて舐めさせる前に風呂に入るとかあるだろ? 何でいつもムレッムレの臭い足を出してくんだよっ!」


「それはあなたの、嫌そうにしてる顔が好きだからよ!」


 このS女がっ!!

 ふざけやがって!!


「とにかく、俺は絶対に舐めないからな!」


「ま、今日の所はいいわ! でもいつか必ず舐めさせてみせるわ! それもあなたの方から舐めさせて下さいってね」


 こいつ……意地でも舐めさせようとしてやがる。

 そんな未来は永劫にこないわ!


「それと、明日は私の友達が来るから、宜しくね!」


 友達だって? こいつ、知り合いなんて居たのかよ。

 こいつの友達ってことは魔族だよな? 不味いんじゃね?


「人間の俺がいたらヤバイんじゃねーか? 急に魔法とか、ぶっ放してこねーだろうな?」


「………………多分大丈夫よ」


「なんだよ、今の間は? 本当に大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫だってば! じゃ私はお風呂入ってくるから」


 行っちまった…………


 嫌な予感しかしないけど、大丈夫か俺?








 次の日の朝、不安で寝付けなくて寝不足。

 なんて事はなく、ぐっすりと熟睡できていつも通りの朝を迎えた。


「ほらよ、朝飯」


「ありがと」


「珍しいな、お前が起こされる前に起きてるなんてよ」


 珍しいどころか、初めてかもしれない。

 今までは俺が起こすまで、絶対起きてこなかったからな。

 試しに放っておいたら、次の日の朝まで寝てたこともあった。


「言ったでしょ? 友達が来るって」


「お前に友達がいたなんてビックリだぜ。ボッチで寂しい魔王なのかと思ってたわ」


「ふん、あまり私を見くびらないでよね! 今日来る友達の他に、後三人いるわ!」


 ドヤァっと、指を三本立てて威張ってるが…………少なくねーか?

 合計四人しか友達居ないってことだよね?

 何か可哀想になってきたわ。


「そっか! セルティアは友達が沢山いて凄いな!」


 俺はできるだけ、優しい笑顔をセルティアへ向けた。


「あなた、絶対馬鹿にしてるでしょ?」


「想像に任せるぜ」


「あなたねぇっ――――」




「随分と仲がいい。そいつ人間でしょ?」


「うわっ!」


 俺とセルティアがいつものようにいがみ合ってると、なんの前触れもなく突然、ピンク色の髪をした、魔族の少女が現れた。

 少女といっても、魔族は見た目と年齢が比例しないことが多いので、実際の年齢はわからないが。


 恐らく瞬間移動の魔法を使ったのだろう。

 それだけでタダ者じゃない事がわかる。


「あら、来たのねスロネ。久しぶりね、元気してた?」


「まぁ、ぼちぼち元気。それにしてもあなた、何でここに人間がいるの?」


 魔族特有の赤い瞳で、こちらをギロリと睨み付けてくる。

 まぁ、普通はそうなるわな。

 魔族と人間が仲良くしてる事自体おかしいのだ。


「こいつの名前はアルム! 私が雇ってるのよ。いいでしょ?」


「別に羨ましくなんかない。所詮人間…………そのうち裏切られる」


「大丈夫よ! こうみえて意外と上手くやってるのよ、私達。ね、アルム?」


 俺の手を引っ張り、自分の元へと引き寄せるセルティア。


「まぁ、給料ももらってるしな、その分は働くさ」


「素直じゃないわねぇ」


 人間と魔族って考えると、かなり仲良くやってると思う。

 こんだけ仲良くなると、今更魔族を敵視できそうにない。

 でも勘違いしちゃいけない、セルティアがおかしいだけなのだ、他の魔族は人間を目の敵にしてるし。


「ところであんた、飯は食ったのか? 食べるなら作るけど?」


 一応客なので、なにも出さないのは失礼だろう。


「そうだ、アルム。クレープ作ってよクレープ! 昨日材料買ったでしょ?」


「クレープ?」


 少女が興味を示した。


「私も昨日初めて食べたんだけどね、すっごい甘くて美味しいの! とにかく、食べてみて!」


「……そこまでいうなら」


 魔族って甘いもの好きなのか?

 スロネって奴も口からヨダレが垂れてる……


「はいよ、ちょっと待ってろ」


 はっきり言って、クレープなんて簡単に作れる。

 でも店で買うのと、自分で作るのとじゃあ、何か違うんだよな。

 味は変わらないと思うんだけど……雰囲気の問題か?

 とにかく、ちゃちゃっと作るか。







「はいよ、おまちどおさん」


 スロネとセルティアの前に、一つずつクレープを出す。


「はぁ~これこれ、この香りよ! なんていい匂いなのかしら」


 カプッとセルティアが一口食べる。


「あぁ幸せだわ! スロネも食べてみなさい」


「いただきます」


 小さな口で、一口齧る。


「…………」


 気に入ってくれたのか、その後も無言でモグモグと食べ進める。


 結構な勢いで食べていたので、あっという間に完食してしまった。

 なくなったクレープを悲しそうに見つめてるスロネ。


「おかわりいるか?」


「…………いる!」


 空のお皿を此方に渡してくる。


「あ~、ズルい、私も!」


「わかったから、口のクリームを拭けって。ホレ」


 ナフキンでセルティアの口を拭ってやる。

 俺はこいつのお母さんかよ……


「う~、ありがと」


 ふと、スロネからの視線を感じた。

 なんだ、この目は?

 気のせいかもしれないが、俺達を羨ましそうに見てる気がした。





「ほれ、おかわり」


「きゃー、待ってました! いくらでも食べれるわ」


 二人ともおかわりの分も、あっという間に完食してしまった。


「どうだ、旨かったか?」


 スロネに感想を聞いてみる。


「……美味しかった。人間、名前は?」


 こいつ、さっきの聞いてなかったのかよ……


「アルムだ」


「アルムか。うん覚えた。私の事はスロネと呼んでいい。人間は好きじゃないけど、アルムはいい奴」


「そっか、嫌われなくてよかったぜ」


 その後は、セルティアとスロネが仲良くガールズトークをしていた。

 俺はたまにフラれてくる話を、適当に返してやり過ごした。




「今日は帰る。また来るから」


「わかったわ、またね」


 スロネの体を光が包んでく。

 帰りも瞬間移動で帰るようだ。

 本当に便利だな……


「アルム。またクレープよろしく」


「はいよ! いつでもこいよ」


 コクリと頷いた後で、魔法が発動して、スロネは帰っていった。



「あなたスロネに気に入られたわよ。よかったわね」


「そうか? 終止無表情だったが」


「ああいう性格なのよ。あの子がスロネって呼び方を許すって事は、気に入られたってことよ」


「へぇ、スロネってあだ名か何かなのか?」


「あら? 言ってなかったかしら? 本当の名前は『スロネルフィス』――――東の魔王よ」


「…………あ"?」




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