3話 王都ラズール
「わぁ、凄い賑わってるわね」
初めて人間の国に入って、目を輝かせながら周りを見渡している。
俺も初めて王都にきた時は、同じようにはしゃいでたな。
これから俺の物語が始まるぜ!!
くらいの勢いはあったんだかな……
現実ってやつは厳しいぜ。
「かなりデカい都市だからな。でも世界には、ここより大きな都市も沢山あるらしいぜ?」
「それは凄いわね、いつか一緒に行きましょうね」
「お前の瞬間移動なら一瞬だし、それも面白いかもな」
もう俺には、魔王を先に倒して、俺を捨てたサリエルを後悔させてやる。
なんて気持ちは消え失せていた。
勇者やサリエルがムカつく事には代わりないが。
でも流石に2年近く顔を見てないと、気持ちもだんだん落ち着いてくるもんだ。
それに俺は、今の暮らしも結構気に入ってる。
ボッチの魔王の世話をしながら、たまにこうやって出かけるのも悪くない。
「で? 今日は何処に連れてってくれるのかしら?」
「そうだな、まずはお前にこのラズールの名物、クレープを食わせてやろう」
「くれーぷ? 何それ、美味しいの?」
「ああ、薄く焼いた小麦の生地の中に、生クリームやフルーツが入ってる食べ物さ! 女は甘いものに目がないだろ?」
「ふーん? じゃ早くその、くれーぷとやらを食べさせなさい。言っておくけど、私は甘いものにはうるさいわよ」
相変わらず偉そうにしてるが、口からはじゅるりとヨダレが垂れてる。
「へいへい、ちょっとここで待ってろ」
俺は近くの屋台で、二つクレープを買ってから、セルティアの元へと戻った。
「遅いわよ、こんな初めてきた国で、私を一人にしないでちょうだい」
どんだけだよ。
それに、いざとなったら瞬間移動で帰ればいいだろ。
「わかったわかった、ほれクレープ。あっちに座って食べようぜ?」
「……ありがとう」
セルティアはクンクンと、甘い香りを堪能した後で、恐る恐る一口かじった。
「……美味しい。何よこれ? こんな美味しい食べ物がこの世界にあったなんて……」
大袈裟なやつだな。
だが気持ちはわかる。
俺もラズールにきたばかりの頃は、こればっか食べてた。
だが、さすがに毎日同じものを食べてると飽きてしまって、最近は食べてなかったが。
久しぶりに食べると上手いな!
「あなたが食べてるの、私のと違うじゃない」
自分のクレープを食べ終わったセルティアが、俺のクレープに目をつけた。
「ああ、俺のはチョコクリームだからな、お前のは普通の生クリームだ。これは好みの問題だな」
「へぇ~、一口ちょうだい」
「あ、ちょ、おまっ!」
俺が許可を出す前にかぶりついてきやがった……
金ならあるんだから買えばいいだろ。
「ん~、こっちも美味しいけど、私は最初の方が好きだわ」
「もう一つ買ってきてやろうか?」
「遠慮しとくわ! 美味しいからってそればかり食べてると、感動が薄れてくものよ」
それは間違いないわ。
「お姉ちゃーん、取ってー」
ちょうどクレープを食べ終わった辺りで、セルティアの足元へコロコロとボールが転がってきた。
遠くから、子供が叫んでいる。
「いくわよー! それ!」
「ありがとう!」
ボールを投げた後で、再びベンチに座る。
「お前って、本当に魔王なの?」
「どういう意味かしら?」
「いや、俺達人間は、魔族は悪い奴と教えられて育ってるからさ。お前を見てるとどうも調子が狂うっていうか。お前は人間が嫌いじゃないのか?」
「嫌いだったら、あなたを雇ったりしないでしょ? 私は人間が好きよ! たとえ、人間が魔族を嫌っててもね」
嫌われてるってわかってても好きとか、益々わからん。
「本当、変わってるなお前」
「あなたも大概だけどね」
「は? 何でだよ?」
「だってあなた、魔族は悪い奴と教えられて育ったのに、魔王である私の事、嫌いじゃないでしょ?」
フフンと、自信満々でこちらを見るセルティア。
なんだかなぁ、確かに嫌いじゃないが…………素直に頷くのもしゃくだな。
「はっ、俺は命が惜しくて、嫌々働いてるんだよ。冗談は足を洗ってから言え」
「生意気ね。今日の夜は覚悟しておきなさい!」
うわ、これ絶対今日も足を舐めさせようとしてくるじゃん……
いい加減やめてほしいわ
その後は、王都をぶらぶらと宛もなくうろついてから、瞬間移動で帰宅した。
「今日は楽しかったわね、クレープも美味しかったし!」
夜ご飯を食べながら、今日の事を興奮気味に話すセルティア。
「でもクレープ以外なにも考えてなかったなんて、少し怠慢よ? お陰でクレープの後は、ブラついてただけじゃない。まぁ楽しかったからいいけど」
「しょうがないだろ? 俺だってあそこに遊びに行ってた訳じゃねーんだから。ほとんどはギルドで依頼ばっかり受けてたんだ」
クレープを食べ終わって気づいたが、俺はクレープ以外に王都のいいところなんて知らなかった。
エスコートなんて出来る筈がないわな。
「じゃあ次は、一緒にギルドに行って、依頼を受けるのも面白そうね?」
「別にいいが、知っての通り俺は弱いぞ? そこら辺の魔物にすら勝てない自信がある!」
「はぁ~、それでよく魔王に斬りかかったもんだわ…………でも安心して、私が居れば危険はないわ」
そりゃ、魔王からしたら大抵の敵はゴミみたいなもんだろ。
「はいはい、頼りにしてますよ、魔王様」
「むぅ、何かムカつくわね、その言い方!」
そんな話をしながら、夜ご飯を終えた。