27話 ロロディア
セルティアの要望通り、飯を作ってテーブルに並べる。
前までは俺とこいつの二人分だけだったが、最近はスロネの分も作るのが当たり前になってきてる。
一人分増えた所で全然負担にはならないが、気になることがあった。
「なぁスロネ。最近ここで飯食ったりそのまま泊まってったりしてるが、ちゃんと自分の家のやつに伝えてからきてるのか?」
「…………………………ちゃんと伝えてる」
いつもよりも言葉が出るまでに間があった気がしたが……
「本当か?」
「……本当。でも何で?」
「別にたいした理由はないけどな。お前が帰ってくると思って飯とか用意してたとしたら、少し可哀想だと思ってな」
まぁ魔王にこんなこと言っても仕方ねーか。
人間社会で例えるなら王様みたいなもんだろうし。
人間の王もそんなことは気にしない。
「……アルムだったら悲しい?」
「う~ん、悲しいっていうかヘコむな」
はりきってご飯の用意をしたのに、妹が帰ってこなかった時なんて、だいぶショックを受けたしなぁ……
「あたしも気になってたのよね。あなた、ちゃんとロロディアに言ってからきてるのよね?」
セルティアの口から出たのは、初めて聞く名前だった。
話の流れからして、スロネの家の使用人とかだと思うが。
「………………ん」
「本当頼むわよ? また城で暴れられちゃ堪らないわよ 。まぁ片付けとかはアルムがいるからいいけど」
魔王の城で暴れるって、どんな使用人だよ!?
首だろそいつ……
「そんなヤバい奴なのか?」
「根は優しい、いい子なんだろうけどね。スロネが絡むと中々面倒臭くなるのよ。この前きた時なんて、私がスロネを誘拐したとか言い出してね。…………あの時は城が半壊したわ」
話だけ聞くと、マジでヤバい奴だな…………
というより、魔王が二人もいるんだから被害が出る前に止めろや。
「ハハ…………出来れば関わりたくねーな」
なんて言いながら、食いかけの飯に手をつけようとした時だ。
「…………!」
「あ~あ…………」
セルティアとスロネ、二人が同時に窓の外へと視線を向けた。
そしてその直後。
窓ガラスを突き破り、何者かが城へと侵入してきた。
「スロネ様ッッ!!!!!!」
華麗に着地を決めたそいつは、俺の膝の上に座って飯を食ってるスロネを見つけると、血走った目をしながらこちらに向かってきた。
スロネを"様"呼びして、メイド服を着てるのを見るに、もしかしてこいつが今さっき話してたロロディアとかいう奴か?
てか、あれ? なんか俺のこと睨んでね!?
「貴様ッッ、よくも私のスロネ様を…………この世から消えて失くなるがいい!!」
右腕にドス黒い炎を纏い、憤怒の表情を浮かべながら、ズカズカ近付いてくる。
何がなんだかよくわからんが、絶対勘違いしてるよなこいつ……
てかそのドス黒い拳をどうするつもりなんですか……
「死ぃねぇッッッ!!!!」
くっ、やっぱりそうなるよな。
俺はすぐさま立ち上がり、魔剣ステュクスで拳を受けた。
勢いよく立ったので、膝の上にいたスロネが床に転がってったが、今はそんなこと気にしてる暇はない。
「待て待て、落ち着け。お前はきっと何か勘違いしてる」
「ちぃ、魔剣ですか!! しかし、私の拳を魔剣ごときで止められるなどと思わないことですっ!!」
いやいや、話を聞けや。
ステュクスの腹の部分で一度受け止めた拳だが、右腕に纏う炎が更に膨れ上がり、再びステュクスを押し返してくる。
「クッッソ…………」
なんちゅう力だ…………勇者の聖剣より威力あんじゃね、これ。
このままだとステュクスごと吹き飛ばされる。
「はいは~い、そこまでよロロディア」
セルティアか、助かっ――――――
「いいえ、駄目ですセルティア様!! こいつはスロネ様を……」
――――ってないか…………
「そのスロネなら、テーブルの下に転がってるわよ?」
「なっっ、ス、スロネ様っ!? なぜそのような所に!? 貴様の仕業かぁっ!!」
ほとんどお前の仕業だ。
「一旦落ち着けって言ってんだろ、俺は何もしちゃいねーって」
転がるスロネを見て同様したスキをつき、一気に押し返す。
とりあえず、少しだけ距離をとることに成功した。
俺はスロネの両脇を掴み持ち上げ、この怒り狂うメイドの前に差し出す。
「ほら、スロネならこの通り無事だ」
「貴様ッッ、スロネ様をそんなヌイグルミみたいに持つとは――――万死に値する!!」
まいったな、マジで話が通じないわこいつ……
「ほらスロネ、お前からもなんか言ってくれよ」
「…………私のこと落とした」
スロネが横目でジトっと俺を見る。
いやいやいや、あの状況じゃ仕方ないだろ。
てか魔王なんだから、それくらい痛くも痒くもねーだろ。
「悪かったって。今度クレープ作ってやるから許してくれ」
「……またお風呂一緒に入る?」
「ああ、いくらでも入ってやるから。まずはそいつを止めてくれ」
今はそんなこと聞く場面じゃないだろ……
「い、い、一緒にお風呂だとッ!? 貴様ぁッ………………その穢れた魂ごと、地獄に叩き落としてくれる!!!!」
もうやだ。なんなんだよこいつ……単純に恐すぎなんだが。
「ん、ロロディア。アルムを虐めるの、駄目」
「し、しかしスロネ様っ――――」
「……これ以上やったら、嫌いになる……かも」
「そんな……スロネ様が私よりもそいつを庇うだなんて………………そうか、これは夢ですね。なんという悪夢……でしょう…………か」
怒りの表情から一転、何もかもが終わったかのような絶望の表情へと変化した後で、バタリと、背中から地面に倒れたメイド。
目を瞑ったままピクリとも動かない。
「おい、これ大丈夫なのか?」
「あ~ぁ、…………まったく、散らかしてくれちゃって。この子は私がベッドに運んどくから、アルムとスロネは片付けをお願いね」
メイドを抱き抱え、セルティアは寝室へと行ってしまった。
ガラスや物が散乱した部屋に残された俺とスロネ。
まぁ聞きたいことは沢山あるが、今は――――
「とりあえず片付けるか」
「……ん」




