24話 人類最高戦力
ジリジリと此方の出方を見つつも、確実に距離を詰めてくる兵達。
俺はこんな状況でも、まだステュクスを抜かずに考えていた。
どうすれば穏便に済ます事ができるかを。
が、こんな短時間でいい案なんて思い浮かぶ筈もなく、いよいよ剣を構えた兵士の間合いに入ってしまった。
「セルティア、スロネ! 一旦城に戻るぞ」
後ろを振り返り、瞬時にスロネの肩に手を置く。
人が多い場所での瞬間移動魔法は、出来れば使ってほしくなかったが仕方ない。
今の俺なら戦っても負けはしないだろうが、相手に怪我を負わせると後々さらに面倒臭くなる可能性が高い。
「ちょっとアルム!? そこはスロネじゃなくて、私を頼りなさいよ!」
「頼んだ、スロネ!」
「ん、了解」
「まさかの無視っ!?」
兵達が異変に気付いたのか、俺達を逃がすまいと剣を振り上げた時だった。
「剣を収めなさい」
ギルドの扉が静かに開き、女の声が響いた。
ったく、今度は誰だよ?
その声が聞こえるのと同時に、兵達が剣を鞘に戻したので、俺も一先ずスロネの肩から手を離して様子を窺う事にした。
「これはどういう事でしょうか、ザラス?」
「ヒ、ヒルア様っ!? 何故ここに?」
「私が何処にいようとも、私の自由です。それよりも問いに答えなさい。こんなに大人数で剣を構えて、一体何をしてるんでしょうか?」
さっきまで高圧的で偉そうな態度をとっていたオッサンが、自分よりもかなり年下であろう女に対して、明らかに下手に出ている。
もしかして、こいつの上司とか?
「コイツが例の、勇者を殺害しようとしたアルムという男です。抵抗しようとしたので、周囲に被害が出る前に捕らえようとしてた所です」
抵抗なんてしてねーだろ、しれっと嘘をつくな糞オヤジが。
「ふむ。それは本当でしょうか?」
青い瞳で俺を見る女。
改めて見ると、かなり整った顔立ちをしている。
あのオッサンの反応からして、かなり上の立場の人間だと思う。
見た目は俺と同い年くらいなのに、スゲーな。
「私達は抵抗なんてしてないわよ。そこのオヤジがアルムの話を聞かないで、無理矢理連れてこうとしたのよ」
「……ん」
俺が答えるより早く、セルティアとスロネが俺の前に出てきた。
どうしたんだこいつら?
さっきまでは黙ってたのに。
心なしか、このヒルアと呼ばれた女を警戒してるようにも見える。
「あなた達は………………なる程」
ジッとセルティアとスロネを見つめる女。
「……聖剣を折ったというのも、あながち嘘とは言い切れなさそうですね」
どういう意味だ? まさか魔族って気付かれたのか?
いや、それはないか。
もしそうなら、こんなに落ち着いてるわけない。
「何よ、人の事ジロジロ見て。感じ悪いわよ?」
「すいません。私の悪い癖なんです。強そうな人を見ると、自然と見てしまうんです。お気を悪くしたならすいませんでした」
セルティア達は普段魔力を限界まで抑えてるって言ってたが、わかる奴にはわかるんだな。
もしかしたら、こいつも強いのかもしれない。
「俺達はそろそろ帰りたいんだが?」
「その事何ですが、一度話だけでも聞かせてもらえませんか? 話を聞くだけです。悪いようにはしません。このヒルア・ヴァンデルの名に誓います」
「…………」
ヒルアって名前を聞いた時から、どっかで聞いたことあるなって思ってたんだが………………ヒルア・ヴァンデルと聞いて、思い出した。
北の魔王と互角に戦いを繰り広げたという、人類の最高戦力の一人。
彼女の凄い所は、勇者ではないことだ。
つまり、聖剣の力を持たない身で、魔王とやり合った化物みたいな人間だ。
「……? どうかしましたか?」
まさか、ヒルア・ヴァンデルがこんな綺麗な女の人だったとはな。
「いや、何でもない。だが、条件って訳じゃないが話をするのはあんたにしてくれ。あのオッサンは話にならない」
「了解しました。――――――ザラス、あなた達は戻りなさい。話は私が聞きます」
オッサンと兵達が帰った後で、俺達はヒルアと共にギルドの外に出た。




