22話 風呂
「舐めて……アルム」
黙ったまま考えていると、スロネが足を近づけ、舐めるよう促してくる。
くっ、こんなの舐めてたまるか。
どうやって断るべきなんだ?
こいつには色々世話になった。
勇者の時もそうだが、今日だって腕輪を直してもらったばかりだ。
いや、セルティアにも世話になってるけど、あいつはああいうキャラだしな、雑に扱っても問題ない。
だが、こいつはどうなんだ?
強く拒絶していいのか悩む…………
「あーーっ!! ちょっとスロネ何してんのよっ! アルムは私が雇ってるんだから。そういう事するときは私を通しなさい!」
ナイスだ、セルティア。
良いところにきた。
このまま、話の流れを変えるしかねぇ。
「ん、私はアルムが好き。だから大丈夫」
「もう、そういう問題じゃないのに。――――仕方ないわね」
そう言って、セルティアはスロネの横に座り、あろうことか自らもブーツと靴下を脱ぎ始めた。
今の話の流れで、どうしてこうなるんだよ!?
こいつ、頭おかしいだろ。
「さぁアルム、ご褒美よ。舐めなさい。指の間もくまなくペロペロするのよ?」
本当に楽しそうに笑うな、この女は…………
そして相変わらず臭いし…………
ご褒美どころか、罰ゲームだろ。
「ん、私が先」
先もなにも、どっちも舐めねーからな。
「ふふん、じゃあ選んでもらいましょう。どうせ私を選ぶでしょうけどね」
二人して、臭い足を近づけてくる。
なんでこいつは、こんなにも自信満々なんだろうか?
駄目だ…………二人の匂いが混ざって、頭がクラクラしてきた。
とにかく、この場から離れねーと。
「はーやーくー! いつまで焦らすのよ」
「いや、舐めるわけねーだろ。なんで俺がお前の臭い足を舐めなきゃならんのだ。俺は風呂に行ってくる」
「酷い。女性に対してなんてこと言うのよ、アルムの鬼畜」
「はっ、何とでも言え」
俺は風呂に向かうべく、部屋の外に出た。
なんとか脱出に成功したのはいいんだが、問題がひとつ。
「……どうしたんだ、スロネ? 俺はこれから風呂にいくんだが」
スロネが俺の腰に引っ付いていた。
「ん、私もお風呂入る」
「そうか、じゃあ先に入れよ。俺は後でいいからよ」
「…………一緒に入る」
マジか、もっと面倒臭い事になったわ。
「俺も一応男なんだが、恥ずかしくないのか?」
「ん、別に」
仕方ねー。こうなったらパパッと洗って、すぐにでるか。
俺は渋々、スロネと風呂に入ることになった。
ここの風呂はかなり広めで、10人くらいなら余裕で入れる。
スロネはタオルも巻かずに、入ってきた。
どうやら、恥ずかしくないというのは本当らしい。
裸を見られるのは平気なのに、足を舐めさせようとする時は照れるとか、益々わからん。
俺は妹とよく風呂に入ってたので、特になんとも思わないが。
俺が体を洗ってる間、スロネはジーっと、桶に座りながら俺を見ていた。
「ふぅ、スッキリした」
俺が体を洗い終わったのを確認すると、スロネは桶をもってこっちにテクテクと歩いてきて、俺の前に座った。
「どうした?」
「ん、洗って」
「いやいや、自分で洗えよ」
「自分で洗った事ない。やって」
どこのお嬢様だよ!
と思ったが、魔王なら身の回りの世話をしてくれる人がいてもおかしくないから、自分の城では洗ってもらってたのかもな。
まぁ、百年以上生きてて、自分で洗った事ないってのはおかしいけど。
「はぁ~……仕方ねぇな」
こうなったら徹底的に洗ってやる事にした。
主に足を。
最悪、舐めることになっても問題ないくらいピカピカにしてやんよ。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
「どうだ?」
「ん、気持ち、いい」
俺は洗った。指の間から、爪の間まで完璧に。
うん、これなら舐めても問題ないくらいだ。
舐めないけどな。
「うし、終わりだ。湯船行こうぜ」
「ん」
暫く湯船に浸かった後で寝室に戻ると、セルティアは既に眠っていた。
どうでもいいが、風呂くらい入ってから寝ろよな。
「俺達も寝るか」
「ん、眠い」
今日は何とか乗り切ったが、明日からが思いやられる。
明日も舐めろとか言われたら、どうするかな…………。
セルティアだけでもキツイのに、スロネもとなると、本当に困ったもんだ。




