21話 スロネの足
それから5日が過ぎた。
俺はセルティアの身の周りの世話をしつつ、だらだら毎日を過ごしていた。
スロネとはたった数日の付き合いだが、飯の時間にあいつがいないと、なんだか変な気持ちになった。
いつの間にか、居て当たり前みたいに思ってたようだ。
「そろそろスロネが戻ってくるんじゃないかしら?」
「一週間って言ってたからな、後2日はかかるんじゃねーか」
「ふふ、アルム、あなた寂しいんでしょ?」
「まぁ寂しいっちゃ寂しいのかもな。あいつを見てると、なんとなくだが放っておけないんだよな」
魔王のクセに、あんな見た目をしてるのが悪い…………
緑竜に攻撃された時もそうだが、無性に保護欲を掻き立てる。
そんな必要ないくらいに、とんでもなく強いんだがな。
「気持ちはわかるわ。あの子がきたらクレープでも作ってあげなさい」
「ああ、そうするぜ」
それからさらに2日が経ち、スロネが戻ると言っていた一週間になった。
「来ねーな……」
「来ないわね」
もう時間は夕飯時になっていた。
スロネが戻ってくると思って、いつもよりも贅沢な飯をテーブルに並べて待っているが、中々こない。
「もしかしたら今日は来ないかもしれないわね。せっかくの料理が冷めちゃうから、先に頂いてましょ」
「そうだな」
念のため、スロネの分は取って置き、俺達は夕飯を済ませた。
「アルム、クレープが食べたいわ」
「はいよ、ちょっと待ってろ」
キッチンに向かい、クレープを作って戻ると。
「ほい、おまちどおさま」
「ありがとう」
「ん、私の分は?」
スロネがちょこんと、椅子に座っていた。
相変わらずの無表情に、俺は何だか安心してしまった。
「おかえり、スロネ。ちょっと待ってろ」
「ん、ただいま」
この短いやりとりも久しぶりだな。
再びキッチンに戻り、スロネの分のクレープを持ってくると、スロネは俺の膝の上に座った。
もう慣れたから何も言わないが…………スロネのなかでは、俺の上が定位置なのは確定なのか。
「はい、腕輪」
「おお、ありがとな。今度は壊さねーように気をつけるわ」
スロネから腕輪を受け取り、早速腕に装着する。
亀裂はしっかりと修復されていた。
「あきれたわ………どんだけ魔力込めたのよ、それ」
セルティアが腕輪を見て、肩を竦めた。
俺には前と変わらなく見えるが。
「ん、今までずっと魔力を込めてた。これで聖剣が相手でも問題ない」
ありがたいけど、そう何度も勇者と戦うことなんてないぞ。
それにどっちかと言うと、俺は人間だからあっち側だからな。
まぁ、スロネやセルティアと敵対する気はまったくないが。
「そんなに凄いのか?」
「ええ、よくこれだけの魔力を込めたもんだわ。私でも簡単には突破出来そうにないわよ」
「ん、久しぶりに魔力が尽きそう」
スロネがこてっと、頭を俺の方に傾けてくる。
「悪いな、俺の為にそこまで」
労いの意味も込めて、スロネの頭を撫でてやる。
「ん、アルムには死んで欲しくないから」
それにしても、魔王であるセルティアですら簡単には突破できない防御結界か…………なかなかとんでもない代物だぜ。
夜も更けてきたので寝室に行くと、スロネが俺のベッドの上に座っていた。
今日は泊まってくようだ。
できればセルティアと一緒に寝てほしいが、何を言っても俺のベッドにくるんだろうな…………
「アルム…………こっちにきて」
「ん? どうした?」
なんだか、スロネの顔が赤いような気がする。
どうしたんだ?
「……スロネさん? 何をしようとしてるんですかね…………!?」
俺は嫌な予感で頭がいっぱいになった。
何故なら、スロネが右足の靴下をその場で脱ぎ捨てたのだ。
部屋には甘酸っぱい、何とも言えないような匂いが広がっていく。
うん…………言っちゃ悪いが臭い。
なんだか前にも、こんな事があったような…………
「ん。舐めて、アルム」
マジかぁぁぁぁぁっ!?
セルティアだけの特殊な性癖のようなものだと思ってたが、スロネまで…………
だが、セルティアは心底楽しそうに俺に舐めさせようとしてくるが、スロネは随分と恥ずかしそうだ。
恥ずかしいならやるなよと言いたいが…………
そしてこの匂い、絶対風呂に入ってない。
舐めさせるにしても、最低限のマナーってもんがあるだろ。
せめて身を、いや、足を清めてからこいよ。
風呂に入ったとしても、舐める気は更々ないが…………
もうここまでくると、足を舐めさせる事になにか、特別な理由があると考えた方が自然な気がしてきたわ。
クソ、どうやって切り抜けたもんか…………




