20話 励まし
「それにしてもムカつく奴だったわね! 何が勇者よ」
「ん! セルティアが止めなかったら、殺してた」
瞬間移動で城に戻ってきて、いきなり勇者の悪口を言い始める二人。
本当は『第4魔界』に行く予定だったんだが、スロネに貰った防御結界の腕輪が壊れてしまったので、今日は諦めて城へと戻ってきた。
あれがなければ、人体に有害な魔界の霧は防げない。
勇者に防御結界を破壊された時は気付かなかったが、腕輪には大きな亀裂が入っていた。
「それにアルム、元婚約者ってどういう事よ? 私は聞いてないんだけど?」
セルティアが少しだけ不機嫌そうに、俺を見てくる。
「どういう事って言われてもな……言葉通りの意味だが」
そういえば、こいつには話してなかったな。
「まぁ簡単に説明すると、俺はあの勇者に婚約者を奪われて、フラれたってわけだ。お前に斬りかかったのは、勇者よりも早く魔王を倒してやろうっていう、俺のくだらない対抗心みたいなもんだったんだよ」
別に話す必要はないが、それじゃセルティアが納得しなそうだったので、軽く話しておく事にした。
「ま、結局は俺にそんな力あるわけもなく、お前にあっさりと負けたけどな」
話しながら自笑する。
負けたとか以前に、勝負になってなかったか。
俺はセルティアに斬りかかって、剣が折れただけだ。
セルティア自身は何もしていない。
「あなたはまだ、その元婚約者が好きなの?」
「いや、もう何とも思ってないさ」
今まで俺は、自分の気持ちがわからなくなってた。
口ではサリエルを悪く言っていても、実際に会ったらどうなるか、自分でも想像できなかった。
でも今日、サリエルを実際に見て、思ったより何も感じなかった。
強がりとかではなく、本当にどうでもいいと思った。
勇者を好きになったのなら、仲良くやればいいと。
「そう、ならいいわ。でも辛かったら言うのよ? 私はあなたの雇い主なんだから。ちょっとくらいは優しくなるかもよ?」
セルティアなりに励ましてくれてるのか、いつもの様なふざけた感じはしなかった。
「ありがとよ。でも本当に大丈夫だ。もう吹っ切れた」
「……アルム、しゃがんで」
スロネが服の裾を引っ張ってきたので、言うとおりにしゃがむと。
「…………急にどうしたんだ、スロネ?」
スロネは小さな体で、俺の顔をぎゅっと抱き締めてきた。
「ん、裏切られる気持ちは、痛いほどにわかる…………だから」
俺に昔の自分を重ねたのか、腕にはいつもより力がこもってる気がした。
親に捨てられたスロネと、婚約者に捨てられた俺とじゃ、重みが違うとは思うが。
まぁ、捨てられるのはツラいよな。
「……!」
「ありがとな、スロネ」
俺もスロネの小さな体に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。
「で? これからどうするんだ?」
少し湿っぽい雰囲気になってしまったが、もう終わった事だ。
気持ちを切り替えて、今後の話をする。
「ん~、そうねぇ。腕輪が壊れちゃったから『第4魔界』は暫くいけないし。…………スロネ、腕輪はどのくらいで直りそう?」
「ん、魔界の霧を防ぐだけなら、すぐにでも治る」
そんな簡単に直るのか、良かった。
せっかくスロネに貰ったのに、速攻で壊しちまったから、申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだよな。
「でも、次は絶対壊れないのを作るから、少し時間が必要」
「どれくらいかかりそう?」
「ん、一週間くらい」
「わかったわ。それじゃ、一週間後にまた魔界に出発ね」
「ん。アルム、腕輪貸して」
「はいよ、悪かったな、壊しちまって」
スロネに、亀裂の入ってしまった腕輪を手渡す。
「気にしてない。悪いのは全部勇者」
勇者か……今頃聖剣が折れた事にたいして、『聖剣教会』が大騒ぎしてるだろうな。
俺の知った事じゃねーがな。
そもそも、一般人にたいして聖剣を向ける事は禁止されてる筈だが…………
それも含めて、あいつには重い罰が下るといいな。
「じゃ、完成したら持ってくる」
腕輪を受け取ってすぐ、スロネは瞬間移動で帰っていった。
「俺達はどうする?」
「スロネが戻るまでは、のんびり過ごしましょう。特にする事もないし」
のんびりか…………とりあえず、洗濯物でも片付けるか。




