19話 決着
なんと、スロネに掴まれていた聖剣が、あっさりと折れてしまった。
「ぼ、ぼ、僕の聖剣がぁぁっ!! ありえないっ、こんなこと、あるわけがないっ!」
ロギエトは半狂乱になりながら、折れた刃の部分と自分の握ってる柄の部分を交互に見ていた。
「よかった、無事だったみたいね。まったく、私の断りなく勝手な事しちゃ駄目よ? あなたは私が雇ってるんだから」
「セルティア……」
いつまでも戻らない俺を心配して、様子を見にきたんだろう。
「後少し私達が遅れてたら危なかったじゃないの。あまり心配かけないでくれるかしら」
「ああ、助かったよ。ありがとな」
ここは素直にお礼を言っとく。
実際、スロネが聖剣を止めてくれなかったら、殺されはしなかったかもしれないが、重症は免れなかった。
「なっ、ロギエトの聖剣が折られたっ!?」
「何なんですか、あの娘?」
「とりあえず、普通じゃないことだけは確か。私達も行ったほうが良さそう」
勇者パーティの面々が、スロネとロギエトの間に割って入ってきた。
サリエルだけは、その場で動けないでいた。
「あなたはこっちに来なさい」
俺はセルティアの手を借りながら何とか立ち上がり、その場から少し離れた所へと移動する。
「おい、スロネは一人で大丈夫なのか?」
「ふふ、私達は魔界を統べる魔王の一角よ? 安心していいわ。スロネが負けるなんて事、絶対にありえないから」
「大丈夫? ロギエト!?」
ソーラと呼ばれていた女が剣をスロネに向けながら、ロギエトに話しかける。
「加勢する」
もう一人も、同じように剣を構える。
こいつはファティアとか呼ばれていた女だ。
「あぁぁ、聖剣が折れるなんて、信じられません」
そしてセルナも杖を構えながら、警戒している。
「クソッ! 見た目に騙されるな。この女は普通じゃない。俺達、「太陽の雫」全員でかかるんだ」
やっと現実を受け止め、すぐさま腰にあるもう一本の剣を抜き、戦闘体勢に入るロギエト。
聖剣を折られ、流石に焦ってるように見える。
「……その程度の力しか持ってないのに、どうにかなると思ってるの?」
さっきから黙ったままのスロネが口を開いた。
「行くわよ! ファティア!」
「了解」
先に仕掛けたソーラとファティア。
二人は勇者パーティに入れるだけあって、凄まじい剣速でスロネに斬りかかった。
「邪魔」
「「キャッッッ」」
スロネは少し苛立たし気にボソリと呟くと、右手を軽く横に振った。
それは、近付いてきた虫を払うかのような、そんな動作だった。
恐らく風の魔法だと思うが、二人はそれだけで、一瞬で姿が見えなくなるくらい遠くに吹っ飛んでいった。
「ソーナ、ファティアっ!! く、化物がっ、 俺達もいくぞセルナ! 援護を頼む」
吹き飛んだ仲間を横目に、ロギエトが叫んだ。
だが、セルナは魔法を発動させる気配がない。
ガタガタと、その場で震えている。
「どうしたんだセルナ!? 早くブーストを!」
「む、無理です、あんなの勝てるわけないです……な、なんなんですか、この魔力は…………」
その間にも、スロネはロギエトの元へと歩いている。
「……僕は聖剣に認められし勇者なんだっ、嘗めるなぁぁぁぁぁぁっっ!!」
セルナからの援護を諦めたロギエトは、一人でスロネに向かって剣を振る。
「――――なっ!?」
が、その刃は届くことなく、スロネの手によって折られてしまった。
聖剣すら折ったのだ、普通の剣なんて折られて当たり前か。
「まだだぁっ!」
諦め悪く、折れた剣を捨て、素手でスロネに殴りかかる。
「……もう終わり」
「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ぼ、僕の腕がぁぁっっ!?」
ロギエトの腕が在らぬ方向へと、ボキボキと、ゆっくり曲がっていく。
なんの魔法かはわからないが、スロネが何かやってることは間違いないだろう。
「ァァアアアアアアアアアアッッ、痛い、痛い痛い痛いっ!! 腕がっ、腕がァァァ」
見てるこっちが痛くなるくらい、ロギエトの腕はグチャグチャに折れ曲がっていく。
尻餅をつき、スロネに怯えながら、後ずさる。
そのロギエトに、無言のまま近付いていくスロネ。
「ヒッ、く、来るな来るなぁぁっ!!」
とどめを刺しそうな勢いだ。
「はい、ここまでよスロネ」
さっきまで俺の隣にいたセルティアだが、いつの間にか居なくなっていて、スロネを止めた。
「……でもこいつはアルムを。……赦せない」
「まぁまぁ、確かにこいつは赦せないけど、アルムが無事だったんだからいいじゃない。それに聖剣も折れたし、この腕じゃもう剣を握る事も出来ないでしょ」
「でも…………」
「俺ならお前のお陰で無事だから、もう行こうぜ」
俺も近付いていき、スロネを止める。
別にこいつが、死のうがどうでもいいが、スロネの手を汚す事もないだろう。
「アルム、無事で良かった」
「ちょ、落ち着けって」
抱きついてくるスロネ。
「じゃ、行きましょうか」
そろそろ王都の奴らも集まってくる頃だ、幕引きにはちょうどいいか。
「クソがッッ、このままで済むと思うなよっ!!」
俺達三人を、鬼のような形相で睨み付けてくるロギエト。
こんな状態になってまで……大した奴だわ。
「俺達はもう行くわ。早く腕が治るといいな、勇者様。
あ、もう聖剣もなくなったし勇者じゃねーか、ハハハッ」
俺が倒した訳じゃないが、スロネのお陰でだいぶスッキリした。
できればこいつの腕は一生治らないで欲しい。
「待って、アルム!」
今度こそ帰ろうと、歩き出した時、サリエルが俺を呼び止めた。
「…………何だ?」
もうこの期に及んで話す事もないだろうに。
お前は俺を捨てて、こいつを選んだんだ。
「その、本当にごめんなさい。あなたと婚約までしてたのに、私は…………」
申し訳なさそうにするサリエル。
その言葉に嘘はない。
昔からの付き合いだ、それくらいはわかる。
「もう終わった事だ、気にしてない」
そう、もう終わった事だ。
一年前、手紙を見た時は気が狂いそうなほど嫉妬したが、こいつの人生だ。
他の男を好きになってしまったのなら、仕方ない。
ボロボロの勇者をみて、スッキリしたからか、今はそう思える。
「……元気でな」
「待って、まだ話したい事が――――」
今度は立ち止まらなかった。
もうこれでサヨナラだ。