18話 聖剣解放
バイーンッ! バイーンッ!
ブーストで身体能力を大幅に上げたロギエトが、怒濤の勢いで俺を攻める。
確かに速さは上がってるんだろうが、先程の聖剣を使っていた時よりは明らかに遅い。
あの時の動きが見えた俺からしたら、今のこいつのスピードは驚異にはならない。
というより、どんなに速くてもこの防御結界がある限り無駄だがな。
「クソッ、クソッ!! ありえないっ! ブーストで強化した僕の攻撃が通らないなんてっ、いったい何なんだ、この見えない壁のようなものはっ!?」
どんなに攻撃をしても、防御結界はビクともしない。
「ロギエト、これは恐らく魔力で造られた、防御結界です。ただ…………」
魔法使いのセルナが、人差し指と親指をくっつけて輪を作り、その輪を通して俺を凝視している。
「なんだっ? 勿体ぶらないで教えてくれ」
「……結界に籠められた魔力の強さが、尋常じゃありません。これ程強力な魔力は見たことがないです。いくら私のブーストがかかってると言っても、これじゃ意味が無さそうです」
さすがスロネだ。
あんな可愛らしい容姿をしてても、やっぱり魔王だな。
「クッ……」
セルナに言われて、遂にロギエトは攻撃の手を止め、後ろへと飛び退いた。
「ハハッ、もう終わりか? やっぱり最弱っていうのは本当だったんだな」
いいぞ、もっと悔しがれ。
あの時の俺の気持ちを考えれば、これくらいじゃ気がすまない。
黙って去ろうとしたが、あっちから仕掛けてくるなら、とことんやってやるぜ。
「駄目だ。もう我慢の限界だ…………。
――――ファンデルよ、その力を解き放て!」
俺に攻撃が通らない事実に我慢ならなかったのか、ロギエトは遂に聖剣を抜いた。
マジかよ…………俺みたいな一般人に聖剣を抜くか普通。
「ちょっとちょっと、結構マジになってない? ロギエト」
「うん。だいぶ本気だね」
名前はわからないが、勇者パーティの残り二人が、ロギエトを見ながら話している。
「ロギエトッ! いくらなんでも聖剣を使うなんてやり過ぎよ!?」
「大丈夫さ、少し痛い目をみせるだけだからね」
サリエルの制止を振り切り、聖剣を光らせながら俺に特攻してくるロギエト。
聖剣は魔族に対して、圧倒的な力を誇る剣だ。
いくら魔王の魔力が籠められてる防御結界とはいっても、あれを馬鹿正直に受けるのは危険だ。
俺は魔剣ステュクスを抜き、ロギエトの聖剣ファンデルを正面から受ける事にする。
ガキィンッッ!
聖剣と魔剣とがぶつかり合い、嫌な音が響く。
「くっ……!」
「さっきまでの威勢はどうしたんだい? 手がプルプルしてるじゃないか」
つばぜり合いになり、俺はだいぶ押され気味だ。
俺がステュクスを使いこなせてないというのもあるが、元々の地力の差の方が大きいだろう。
最弱とはいえ、こいつは勇者。
今まで、ずっと魔族と戦い続けてきたのだ、弱い筈はない。
何とか堪えてるが、そろそろ圧しきられそうだ。
「ふ、中々粘るじゃないかっ! ――――――セルナ、ソーラ、ファティア。僕に全員で『ブースト』をかけてくれ!! 一気に決める」
嘘だろ? ただでさえ押され気味なのに、全員でブーストだと?
狡すぎだろ、それは。
「もう、早く終わらせなさいよ」
「仕方ない」
「了解しました」
サリエル以外の勇者パーティメンバーは、迷うことなくブーストをロギエトに向け、発動させた。
「ちょっと、相手は一人なのよ? やめなさいっ」
サリエルは必死に止めようとするが、既にブーストは発動している。
ロギエトの体が更に眩しく光始める。
それと同時に、力もぐんぐん上がっていく。
糞が、もうこれ以上……耐えられねー
「クッ……」
俺は遂に耐えきれなくなり、ステュクスを弾かれてしまった。
「僕を馬鹿にした罰だ。腕の一本くらいは覚悟してもらうよ」
無防備の俺に向けて、聖剣を上段から振り下ろす。
これは非常にまずい。
聖剣の力に加えて、ブースト×3とか、流石に防御結界が持つかどうか……
ガガガガガガガッッ!!
防御結界が、今まで聞いたことのない音を響かせた。
かろうじて耐えてはいるが、ゴリゴリと結界が削られていってるのがわかる。
もう聖剣がすぐそこまで迫ってきていた。
バリンッッッッ!!
硝子が割れるような音が近くで聞こえた。
どうやら、防御結界が破られたようだ。
俺は、数瞬後に確実に訪れるであろう痛みに備えて、強く目を瞑った。
おかしい、数秒は経っているが、一向に痛みはこなかった。
何でだ? あの勢いならば、俺は間違いなく斬られていた筈だが。
確認のため、ゆっくりと目を開けると。
「なっ!? スロネ?」
「…………」
驚くべきことに、スロネが片手で聖剣の刃を掴んで、止めていた。
「なんだ、君は? 僕の聖剣を止めた!?」
ロギエトも、突然現れたスロネに戸惑っている。
「皆してアルムを虐めて……………………絶対に赦さない」
ミシミシと言う音が響き、何事かと思っていると、どうやらスロネが掴んでいる聖剣から聞こえてきてる。
音はだんだん、大きくなっていき、遂には。
パキンッ!
人類の希望、世界に七本しかない聖剣が折れた。