17話 ブースト
「アルム、聞いて。私、手紙だけじゃ悪いと思って、あの後村に帰ったのよ。あなたにちゃんと謝る為に……でもあなたは居なかった、おじさんに聞いても何処にいるか教えてもらえなかったし…………」
一応親父にはラズールに向かうと言って出てきたが、サリエルには教えなかったようだ。
ナイスだ親父。
それに、すぐに村を出て正解だったな。
あの時の俺は、サリエルに会ったら何を言っていたかわからない。
勇者にキレて、殴りかかっていたかもしれない。
そして返り討ちにあったことだろう。
「そうか。俺に悪いと思う気持ちがあるんだったら、二度と俺に関わらないでくれ」
これでいい。
もうこいつらの事を考えるのはごめんだ。
「おいおい、二年ぶりに再会した、元婚約者にその言いぐさはないんじゃないか?」
さっきからなんなんだこいつは……いちいち会話に入ってくるんじゃねー。
それじゃなにか? 元婚約者とその相手を前にして、心からの祝福をしろとでも言うのか? 残念だが俺はそこまで大人じゃないんだ。
てめぇ等の顔なんて一生見たくもねーんだわ。
「お前には関係ないだろ」
「関係なくはないだろ? サリエルは僕を好きになってしまったから、君をフッたんだ。僕も君には一度直接会って謝りたかったんだよ」
本当に悪いと思ってるんなら、普通そんな舐めた態度をとらねーだろ。
どこまで俺をコケにしたいんだ。
「ロギエト! そんな言い方はやめてちょうだい」
「ふん、事実を言っただけだろ?」
「言い方ってものがあるでしょ? 無神経よ」
俺の前で言い合いを始める二人。
これ以上ここに居たら、ストレスで死にそうだ。
「あー、落ち着けよおまえら。俺はもうこいつの事を何とも思っちゃいないからさ、二人で宜しくやってくれ。俺に謝る必要もない。俺はもう行くから」
俺はセルティア達の元へと歩き出す。
もう、こいつらと会うこともないだろう。
「ちょっと、待ちなさいよアルム!」
「放っておけサリエル。僕達は魔王を討伐するという使命があるんだ。あんなのに構ってる暇はない」
魔王を討伐ねぇ、セルティア達を間近で見てる俺からしたら、いくら聖剣を持ってるといっても、こいつに勝てるとは思えないが。
「――――ハハッ」
そんな事を考えていたら、ふいに笑いが漏れてしまった。
「どうした? 何か可笑しい事でも言ったか?」
すぐにロギエトが反応した。
言われっぱなしもシャクだ、最後に嫌味の一つでも言ってから戻るか。
「いや、お前なんかが魔王を倒せるのかと思ってな。さっきの動きを見てたが、あんなんでどうやって勝つのか教えてもらいたいわ」
俺は仕返しと言わんばかりに、小馬鹿にしたように言ってやった。
「……喧嘩売ってるのかい? 負け犬風情が」
「あ"? 負け犬?」
「そう負け犬だ。婚約者を奪われてなお、その相手に文句を言うこともできない、惨めな惨めな負け犬さ」
「ふ、よく言うぜ。お前こそ噂になってるぜ? 七人いる勇者のなかじゃてめぇが一番弱いってな」
これは紛れもない事実だ。
他の勇者パーティは魔王の幹部を何体か討伐してるが、こいつの『太陽の雫』だけは、なんの戦果も挙げていない。
「どうやら痛い思いをしなければわからないらしい…………なっ!!!」
こいつもその事を気にしてるのか、明らかに目の色を変えて、いきなり回し蹴りを放ってきた。
魔剣を貰ってまだ数日しか経っていないが、俺もだいぶ強くなったようだ。
勇者の蹴りが遅く見える。
避けるのは簡単だが、それじゃつまらない。
俺にはスロネの腕輪がある。
こいつの攻撃ならば、聖剣を出してこない限り食らうこともないだろう。
なので、あえて避けない選択肢を選んだ。
バイーンッッ!
「なにっ?」
ロギエトの蹴りが俺に届く前に、スロネの魔力が籠められた防御結界が発動して、ロギエトは後ろに跳ね返されていった。
「何だ? 今何をした?」
跳ね返されながらも上手く着地を決め、再び俺を睨んでいるが、何が起こったかわからないようだ。
「アルム?」
サリエルも驚いている。
「さぁな。お前の蹴りが弱すぎたんじゃねーか?」
「何してるんですか? ロギエト」
俺達の争いを見て、先ほどまで離れた所にいた残りの勇者パーティが集まってきた。
ロギエトに声をかけたのは、杖を持った女だった。
格好をみるに魔法使いだろう。
「ちょうどいい。セルナ、僕に『ブースト』をかけてくれ」
「いまいち状況はわかりませんが、了解しました。『ブースト』!!」
セルナと呼ばれる魔法使いは、杖をロギエトに向け、ブーストをかけた。
ブーストとは、身体能力を何倍にも跳ね上げる強化魔法だ。
勇者パーティの魔法ともなると、その効力は凄まじいものになるだろう。
まぁ、これでスロネの防御結界が破れるとは思わないが、いきなり仲間に頼るとか、こいつにはプライドがないのか……?
魔王から貰った武器や腕輪で戦ってる俺が言えた事じゃねーが……
「これで終わりだ。君には勇者の力を身を持って知ってもらうとしよう」
いや、それ半分くらいは仲間の力だろ。
薄緑色の光に包まれたロギエトが、俺に襲いかかってきた。