16話 再会
「――――ファンデルよ、今こそその力を解放しろ」
勇者ロギエトが聖剣を構え、臨戦態勢に入った。
すると、あいつの聖剣が急激に光を放ち始めた。
サイクロプスはあまりの眩しさに、たまらず目を閉じる。
その隙をロギエトは見逃さなかった。
地面を蹴り、サイクロプスの頭の高さまで飛ぶと、聖剣を首筋あたりで一振りした。
ドスンッ! と、サイクロプスの頭が、地面に落ちる音が響く。
ロギエトは、あの一閃でサイクロプスの首を斬り落としていた。
しかも、二体同時にだ。
あれが『太陽の聖剣』の力か。
聖剣とは人類の希望とも言われている、七本の剣の事だ。
人類が未だに、圧倒的な力を持つ魔王に対抗できているのは、この聖剣があるからに他ならない。
魔王は複数存在しているが、勇者と呼ばれる聖剣を扱うことのできる人間も、聖剣の数と同じく七人存在している。
つまり、勇者パーティはこいつらだけじゃないって事だ。
「ロギエト、後ろ! まだ生きてるわよ」
勇者パーティーの一人が、異変に気付き叫んだ。
首を斬り落とし、油断していたロギエトの後ろで、頭部を失った体が、最後の足掻きと言わんばかりに棍棒を投げつけた。
「ふん、黙って死んでおけばいいものを」
ロギエトは飛んできた棍棒をなんなく避けた。
が、その避けた先には俺が居るんだが…………これ直撃コースだろ…………
「ロギエト!! 人がっ!!」
「――――なにっ?」
さっき叫んだのと同じ奴が、再び声をあらげた。
ロギエトは慌ててこちらを振り返ったが、どう考えても間に合わない。
まぁ、以前の俺ならば焦っていただろうが、今なら何の問題もない。
俺はステュクスを鞘から抜き、前に掲げた。
こんな攻撃、剣を振る必要もない。
棍棒はステュクスに当たると、スパッと二つに分かれて、俺の左右にそれぞれ散った。
「すまない、大丈夫だったか?」
ロギエトが俺の元へと走ってきた。
どうやらサイクロプスは力尽きたようだ。
この様子だと、俺のことなんて覚えちゃいねーか…………
「ああ、問題ない」
ステュクスを鞘に納めながら答える。
駄目だ、こいつの無駄に整った面を見てるとイライラしてくる。
だが落ち着け俺。
色々言いたい事はあるだろうが、こいつは俺の事なんか覚えてない。
それに、婚約者を奪われた奴が、奪った奴に文句を言ったって負け犬の遠吠えにしか思われないだろう。
余計惨めになるだけだ。
もうあれから一年だ。
最初はこいつらの事ばかり考えて、怒りで気が狂いそうだったが、今はそれほどでもない。
ムカつく事は間違いないが、我慢出来ない程じゃない。
いい機会だ。
これを機に、もうこいつらの事を考えるのはよそう。
終わった事だ。
今さら文句を言った所で、何も変わりはしない。
そもそも、サリエル自身がこいつを選んだんだ。
ならば元婚約者の顔なんて、今さら見たくもないだろう。
俺は勇者に背を向け、歩きだした。
戻ろう、セルティア達の所へ。
今はあいつの近くが俺の居場所だしな。
居場所っていうか、仕事場か。
「――――アルム? 何でこんな所に…………」
懐かしい声に、思わず足が止まってしまった。
この声は…………間違う筈もない。物心ついた時から二年前まで、ずっと近くで聞いていた声だ。
俺は気が付くと、反射的に振り向いていた。
元婚約者、サリエルの方へと。
久しぶりに見たサリエルは、二年前と殆んど変わっていなかった。
少し、髪が伸びたくらいだろうか。
肩甲骨辺りまで伸びた、綺麗なセピア色の髪に、気の強さが窺える、射るような眼差し。
俺の好きだったサリエルが、心底驚いたといった感じで、こちらをみていた。
「別に俺が何処にいても、お前には関係ないだろ? もう俺達は何の繋がりもない、赤の他人だ」
そうさ、もう今さらこいつと話す事なんてねーわ。
簡単に違う男になびきやがって、ふざけんな。
「そうかそうか、どっかで見た覚えがあると思ったら、あの村にいた、サリエルの婚約者じゃないか? あ、元婚約者だったか」
ロギエトが俺を思いだしたようだ。
サリエルの肩を抱き寄せながら、俺を挑発するような表情で見てくる。
あ"? 何だこいつ。
俺が悔しがるとでも思ってんのか?
本当にふざけた奴らだぜ。
なにが『太陽の雫』だよ、ダッッセー名前つけてんじゃねーよボケ。
ああ、マジでイライラしてきた。
このイライラはどうしたもんか…………