15話 勇者
「んぅ~美味しいぃ~」
セルティアがクレープを食べながら、頬に手を当てうっとりしている。
『第4魔界』に向かう前に、セルティアがどうしてもクレープを食べたいと言うので、ラズールでクレープを買って、ベンチで食べてる最中だ。
「どうした、スロネ?」
スロネもクレープを持っているが、一口だけ食べてから手が止まっていた。
「ん、アルムの作ってくれたクレープの方が、美味しい」
レシピは同じだから、そこまで違いはない筈なんだが、中々に嬉しい事を言ってくれる。
「また今度作ってやるからよ。今日はそれ食っとけ」
「ん、わかった」
再び、クレープを食べ始めるスロネ。
その時だった。
「キャーッ!! ま、魔物がッ!」
「おいおい! 何でこんな所に魔物が入ってきてんだっ!」
「誰かっ、騎士団を呼んでくれっ! 早く!」
人の悲鳴が聞こえてきた。
全て聞き取れた訳ではないが、どうやらラズールに魔物が入りこんだようだ。
こんな人の多い時間帯に魔物なんて出たら、大変な事になるぞ。
「ちょっと様子を見てくる」
「あ、ちょっと、アルム!?」
俺は二人を残して、声の聞こえた方へと向かった。
この王都に入るには、正面から門を通って入るしかない。
上空には強力な結界が張ってあり、並大抵の魔物じゃあ弾かれて終わりだ。
門には常に衛兵がいて、怪しい奴や魔物は当然入れない。
にも関わらず、魔物が現れたと言うことはだ。
正面から、衛兵を倒して無理矢理入ったか、上空の結界を突破するほどの力を持った、強力な魔物という事になる。
ここの衛兵は、元冒険者が多いので、そう簡単には通れない筈だが。
「マジかよ……」
悲鳴の聞こえた場所に着くと、そこには二体の魔物がいた。
サイクロプス。
うっすらと青い肌をした、一つ目の巨人。
その大きさは、隣に建っている家が小さく見えるくらい大きい。
そんな巨人が、巨大な棍棒を振り回していた。
一振りするごとに、家が何件も吹っ飛んでいく。
人々は避難したのか、周りに人は見えないが。
こんな怪物が二体。
流石に王都の騎士団でも、手こずるかもしれない。
「君、危ないから避難してなさい」
野太い声が聞こえて振り返ると、鎧に身を包んだ騎士団がそこにいた。
五十人はいる。
「ああ」
俺は騎士団の言うことに従って、後ろに下がった。
「放て!!」
俺に声をかけてきた、野太い声の男が指示を出す。
十人程が前に出て盾を構え、その後ろで残りの全員が魔法を放つ。
あれは氷属性の魔法か…………それにしてもデカイ。
騎士団は、サイクロプスの巨体に対抗するべく、全員の魔力を一ヵ所に集めて、巨大な氷の塊を造りだし、放っていた。
流石は騎士団、戦い慣れている。
この様子だと問題なく終わりそうだ。
「ボワァーーーーーーーーーーッッ!!!」
「あ"? 嘘だろ?」
なんと、サイクロプスは家程の大きさの巨大な氷を、棍棒で打ち返した。
自分達の放った魔法が、それ以上の速度で反ってきて、騎士団はなす統べなく盾ごと吹っ飛んだ。
どうすんだこれ?
「ふぅ、情けないなぁ。サイクロプスごときにやられるなんて、それでも王都の騎士団かい?」
騎士団が吹き飛んだ方から、男が歩いてきた。
そいつを見た瞬間、鼓動が速くなるのを感じた。
は? 何でこいつがここにいやがる?
サイクロプスをごときと言いきるその男は、仕方ないといった感じで剣を構えた。
聖剣『ファンデル』を。
俺から婚約者を奪った男、勇者ロギエトがそこにいた。
俺はすぐに勇者の周囲を確認した。
すると、やはりいた。
勇者の後ろから、四人の女が歩いてくる。
勇者パーティ『太陽の雫』のメンバーだ。
そして、そのメンバーには俺の元婚約者だったサリエルもいた。