14話 魔法
「あ~、暑苦しぃ……」
結局スロネは、俺のベッドに無理矢理潜り込んできた。
何とかセルティアの方に行かせようとしたが、駄目だった。
最後は俺が根負けした。
それにしてもこいつ、やけに体温高いな。
今は暑いだけだが、寒い時期になったら丁度いいかもな。
まぁ、悪い事ばかりでもねぇか。
スロネが居るお陰か、今日はセルティアに足を舐めろって言われなかったしな。
「んん~」
もうスロネはすっかり夢の中だ。
まったく、人の気も知らないで、気持ち良さそうに寝てるぜ。
頬をつつくと、少し機嫌悪そうな表情をするのが面白い。
「……パパ…………パパ」
スロネの目からは涙が溢れていた。
「……お前…………」
こいつは人間に育てられ、その親から捨てられたってセルティアが言ってた。
だけど、人間を最後まで嫌いになれなかったとも言ってた。
本当に優しい奴なんだろうな……
捨てられてもなお、親の温もりを求めてる。
俺はスロネが可哀想になり、いつの間にか抱き締めていた。
まぁ、今日ぐらいはいいだろう。
朝、飯を作る為に起きると、スロネは既に起きていた。
セルティアと違って、早起きのようだ。
「おはようさん、スロネ。朝飯作ってくるから、そろそろ離してくれよ」
「……ん」
返事はするものの、離してはくれない。
「ほら、俺は何処にも行かねーからよ」
ポンッと、スロネの頭を撫でる。
「ん」
今ので納得したのか、とりあえずは離してくれた。
「あ、暇ならセルティア起こしといてくれよ。あいつ中々起きねーんだ」
「ん、任せて」
「痛ったーーーーーーい!!!」
朝飯をテーブルに並べてると、セルティアの絶叫が聞こえてきた。
暫くしてから、髪の毛がチリチリになったセルティアとスロネが起きてきた。
「ハハハッ、セルティア、お前なんだその髪の毛!」
「もう~! 聞いてよアルム! スロネったら寝てる私に、いきなり火炎魔法ぶっ放してきたのよ?」
「ん、起きないのが悪い」
「よく起こしてきてくれたな」
スロネが俺に褒めてほしいのか、テクテクとこちらに来たので、頭を撫でてやった。
「ちょっと、そこは私を心配するところでしょ? スロネを注意しなさいよ!」
「起きないお前が悪い」
こいつの寝起きの悪さは、本当に酷い。
俺も魔法が使えたら、絶対ぶっ放してるわ。
ん? 魔法?
「セルティア、俺が今まで魔法使えなかったのって、魔力が弱いからだったよな?」
「何よいきなり。そうだけど、それがどうかしたのかしら?」
「じゃあ、このステュクスを持ってる状態なら使えるって事にならねーか?」
この魔剣ステュクスには、セルティアの魔力が補充されていて、俺はそれを使う事ができる。
だとしたら魔法も、もしかしたらと思ったんだが。
「なんだそんな事。もちろん使えるわよ。それなりに修行が必要だけどね」
「マジかよ、もう魔法は諦めてたんだが。これは素直に嬉しいな。魔剣の修行と一緒に魔法も教えてくれよ」
「ん、魔法は私に任せて。セルティアは強いけど、教えるのは向いてない」
言ってる事はわかる気がする。
セルティアは力任せに魔法を使ってる感じがするが、スロネはなんていうか、無駄がないっていうか綺麗なんだよな。
「そうね。魔法を教わるならスロネの方が適任でしょうね。私は引き続きステュクスの修行を見てあげるから、魔法は空いた時間にスロネに教わるといいわ」
「じゃあお願いしていいか、スロネ?」
「ん、任せて」
そう言いつつ、俺の膝にちょこんと座ってくるスロネ。
もうここで飯食うのは決定なのか…………
まぁいい。
魔法を教えてもらうんだ、膝に座るくらい安いもんだぜ。
「今日も引き続き『第4魔界』だろ?」
「そうね、今日は石竜でも倒して貰おうかしらね」
石竜か…………竜種の中でもトップクラスの防御力を誇る、鉄壁の竜だ。
「ま、やるだけやってみるわ」
「ん、アルムなら大丈夫」
「油断は禁物よ」
いつの間にか、セルティアの髪の毛のチリチリは綺麗に直っていた。