13話 甘え
「あらあら、すっかり懐かれちゃったわね。でも、あなたは私が雇ってるんだから、私の事を疎かにしちゃ駄目よ?」
俺に抱き付いたまま、中々離れないスロネを見て、セルティアが言う。
懐かれたって言ってもよ…………いきなり過ぎだろ。
何で急に懐いてきたんだ?
「ほらスロネ、そろそろ離れろって。そんなグリグリされると痛いから」
なるべく優しく声をかけ、スロネが自分から離れるのを待つ。
が、一向に離れない。
グリグリするのはやめてくれたが、抱き付くのは継続中だ。
「……ん、もう少しだけ」
やけに甘えるような声で、俺を上目遣いで見るスロネ。
「はぁ……あと30秒だけだぞ」
幼い見た目のせいで、破壊力は抜群だ。
俺は仕方なく、もう少しだけそのままにしてやる事にした。
見た目は可愛らしい、幼さの残る雰囲気で、村にいる妹を連想させるが…………百年以上生きてるんだよな…………
年齢的には妹どころか、お婆ちゃんだ。
「ん、あと30日」
以外と自己主張が激しいなこいつ…………
なんで、30秒が30日になるんだよ。
魔族の時間感覚が恐ろしいわ。
「はい、30秒経ったぞ。離れろ、ほれ」
「……んぅ」
時間になっても離れる気配がないので、力ずくで退かした。
スロネは渋々ながらも、離れてくれた。
「今日は帰りましょうか。目的の緑竜も倒せたことだし」
「賛成だ。帰って休みたいぜ」
魔剣の能力を使ったからか、体がかなり怠い。
使ってれば慣れるのか?
もし使う度に、毎回怠くなるんだとしたら考えものだな。
「ご飯作ってから休んでよね。私お腹空いちゃった」
「へいへい、わかりましたよ。魔王様」
俺達は瞬間移動で、城へと帰還した。
「これで『第4魔界』は終わったな。次はどうすんだ?」
いつも通りご飯を食べながら、次の予定を聞いてみた。
いや、いつも通りではないか。
何故なら、スロネが俺の膝の上に乗っかって食事をしている。
さっきから、妙に甘えてくるんだよなぁ。
別に問題があるわけじゃねーから、いいんだが。
「何言ってるのよ? 『第4魔界』はこれから、手応えのありそうな魔物が出てくるのよ?」
「は? マジかよ……俺はてっきり緑竜が一番強い魔物かと思ってたんだが……」
なんなら、手応えしかなかったわ。
「『第4魔界』には大きく分けて、二種の魔物しかいないわ。竜種と、エサ。それだけよ。緑竜より強い竜なんて、いくらでもいるわよ」
『第4魔界』…………なんて恐ろしい所なんだ。
あんな必死になって倒した緑竜より、もっと強いのがいるとか……心折れそうなんだけど。
だが、今の俺なら大丈夫だ。
『ステュクス』の能力を使ったとき、頭に様々なものが流れ込んできた。
色々試してみたい能力もあるから、早く使ってみたい。
「まぁ、こいつと頑張ってみるさ!」
俺は魔剣をポンッと軽く叩きながら、セルティアに言った。
「ふふ、早く強くなって、一緒にギルドで依頼を受けましょうね」
それなら今のままでも十分だと思うんだが。
どんな依頼受けようとしてんだよ、こいつは……
「スロネ、あなたは明日もくるの?」
夜になり、セルティアがスロネに聞いた。
スロネも眠そうにしてるし、そろそろ帰りそうだ。
ちなみに、こいつはまだ俺の膝の上に乗っかってる。
「ん、今日は泊まってく」
「あら? 珍しいわね、あなたが自分の城に戻らないなんて。そんなにアルムが気に入ったのかしら」
「ん。アルム好き」
気に入ってもらえるのは嬉しいんだが、そろそろ足が痺れてきたから、早く下りてくんねーかな…………
「そういえば、客用の布団とかってあんのか?」
「あるにはあるんだけど、ずっとほったらかしにしてたから、埃被ってるわ」
こいつは、本当にだらしないな。
「だから、スロネは私と一緒に寝るようね」
「ん、大丈夫。私はアルムと寝るから」
何が大丈夫かはわからないが、全力で拒否させてもらおう。