12話 ヴァッサー・ファル
空高くから、俺を見据える緑竜。
連続でブレスを吐くことはできないのか、今の所こちらの様子を窺ってるようにみえる。
俺は負けじと睨み返しながら、次の手を考える。
と言っても、今の俺は剣を力任せに振る事しかできない。
今までの魔物はそれでよかったが、こいつはそれじゃ駄目だ。
クソ…………ロクな案が浮かばねー。
唯一まともなのは、剣が通りそうな柔らかい部位、目や口の中を狙うとかだが。
空を飛んでる相手に対しては、あまり現実的な手とはいえないしな……
さて、どうするか。
「ちょっとぉ! いつまで見つめあってんのよ、あんたら! なに? アルムってそういう趣味なのかしら?」
一番最初に膠着状態に痺れを切らしたのは、俺でも緑竜でもなく、セルティアだった。
竜をそういう対象としてみる人間なんているわけねーだろ、アホか。
俺はちゃんと人間の女が好きだっつーの。
「とは言ってもよ、正直お手上げ状態なんだが…………」
色々考えてはみたが、緑竜を倒せそうな案は浮かばなかった。
斬戟が弾かれた時点で、ほぼ詰んでたわ。
「あんたねぇ……何の為の『魔剣』よ! ステュクスの能力を使いなさい!」
いきなり能力って言われてもな…………
「そんなのが使えたらとっくに使ってるわ! 馬鹿!」
魔剣に特殊な能力があるという話は、聞いた事がある。
一番有名な話だと、極炎の魔剣『プレゲトーン』だ。
その魔剣から放たれる炎は、あらゆる物を燃やし尽くし、灰に変えた。
この『プレゲトーン』の一振りで、小国が一晩にして灰になって消えたという。
この『ステュクス』も同じ魔剣だ。
何か能力があってもおかしくない。
というより、なければおかしい。
だが、今のところそんな片鱗はみられない。
使い手の俺が弱すぎるのか?
だとしたら、どうしようもないが…………
「今、馬鹿って言ったわね。あとで覚えてなさい」
あとがあればいいんだがな……このままじゃ、次のブレスで粉々になるわ。
「いい? 『ステュクス』は水を司る魔剣よ! その水は、あらゆる物を冥界へと流す激流。魔力を込めて強くイメージするのよ! そして、『ステュクス』の意思を感じとるの!」
あ"? イメージ? 意思?
魔剣に意思なんてあんのかよ?
訳わかんねーぞ…………
「ギァアアアァァァッツ!」
「マジか……」
竜の咆哮が響き、空を見上げると、緑竜が二発目のブレスを吐く寸前だった。
あーもうっ!! 駄目元でもいいからやるしかねぇっ!
俺は『ステュクス』に魔力を込め、目を瞑った。
今までより強く『ステュクス』を握り、あるかどうかもわからねー、意思とやらを感じ取ろうと集中する。
集中……集中……集中ッッ!!
頼む、もしお前に意思があるんだとしたら、何でもいい、応えてくれ!
流石にこんな訳わかんねー所で、死にたくねー!
「…………」
反応はない。
「クッソが! 何か応えろやっ!」
どんなに集中しても、何の手応えもない苛立ちから、思わず声に出して叫んでいた。
ザーーーーーーーーーーーーーーーッッ
その時、僅かだが、確かに聞こえた。
水の流れる音が。
これは川?
いや、川というには、余りに広く大きく、流れも激しい。
大河……?
俺はその一瞬聞こえた音に、全神経を集中させ、全力でその音を探った。
瞬間、俺の中に膨大なイメージが流れ込んできた。
これは…………
成る程、これなら……イケる!!
俺は瞑っていた目を開き、緑竜の方を見た。
既にブレスは放たれた後だった。
だか、今の俺に焦りはない。
焦る必要がない。
何故なら…………
「ヴァッサー・ファル!!」
地面に魔剣を突き立て、叫んだ。
その直後、緑竜の真下の地面に大穴が空いた。
大きな大きなその穴は、緑竜が小さくなったかと錯覚するほどに、大きく深い。
そして、緑竜の頭上。
天より、とんでもない質量の水が滝のように落ちてきた。
その水は一瞬で、緑竜をブレスごと覆い隠した。
「……ギ…………ァァ…………」
ズドドドドドドドドドドドッッ!!
到底水の音とは思えない、激しい音とともに、緑竜は底の見えない深い深い穴、冥界へと堕ちていった。
俺は魔剣を地面から、引き抜く。
すると、先程までの大穴は跡形もなく、綺麗に塞がって消えてしまった。
「…………やった……のか?」
両膝と両手を地面につけ、前のめりに倒れそうな体をなんとか支える。
「やったじゃないアルム! 『ステュクス』と心を通わせた証拠よ! 今の感覚を忘れちゃ駄目よ?」
こいつのこの喜びよう……どうやら上手くいったみたいだな、よかった。
「ああ、今回は本当に死ぬかと思ったわ……」
「ん、アルム凄い!」
スロネが、俺の元へと飛び込んできた。
「ちょ、ば、今は疲れてて力入らないんだって……」
俺はスロネの小さな体すら支える事ができずに、倒れ込んでしまった。
「ん、ん、ん」
「……何してんだ…………スロネ?」
倒れた俺の腹へと、自分の顔をグリグリと押しつけてくる。
……本当に何してんだ、こいつ…………?




