11話 緑竜
「アルム、今日は私が連れてってあげるわ」
ギルドに向かうべく、スロネにくっついていると、セルティアが意味不明な事を言いだした。
こいつの瞬間移動は気持ち悪くなる。
せっかくスロネがいるのに、態々気持ち悪くなる方を選ぶ訳がないだろ。
「遠慮するわ、俺はスロネと行くから」
「……駄目よ。これは雇い主命令よ。いいからこっちに来なさい!」
なんだこいつ……?
「スロネ、早く行くぞ!」
「ん、了解」
「あ、ちょっと――――」
俺はスロネを急かし、セルティアより先に瞬間移動させた。
ラズール近くの森に着いた。
「酷いわ先に行くなんて! 給料減らすわよ?」
俺達のすぐ後に、セルティアがきた。
「だから、それは狡いって」
「フン!」
「はぁ……とりあえずギルド行ってくるわ。すぐ戻るから待ってろ」
俺はレナに無事を知らせる為に、一人でギルドに向かった。
「もう、心配したんだからね! スライム倒しに行って戻ってこないんだもん」
やっぱり心配していた。
「悪い、急用を思い出してな」
「まぁ、無事ならいいわ! で、どうするの? 引き続きスライム討伐?」
「いや、これはキャンセルしてくれ。また今度来るわ」
暫くはセルティア達と魔界で修行っぽいから、スライム討伐はキャンセルしてギルドを出た。
レナに無事を知らせたので、すぐにセルティア達の元へ戻る。
「今日は『第4魔界』だっけ? 本当に大丈夫なのか?」
「ええ、『第5魔界』より、少し魔物のレベルが上がるくらいよ」
「ん、アルムなら大丈夫」
少しね…………魔王からしたら少しでも、人間の俺からしたら少しじゃなかったりするんだよな。
「じゃ、行きましょ!」
俺の腕を強引に掴み、瞬間移動するセルティア。
「ちょ、やめろや! 俺はスロネと行くか――――」
必死の抵抗むなしく、瞬間移動魔法が発動した。
「おぇーっ、気持ち悪っ!」
最近はスロネの瞬間移動に慣れていたからか、セルティアのは余計に気持ち悪く感じた。
「おかしいわね、少し気を使ったんだけど…………」
「ん、セルティアは乱暴」
遅れてスロネが到着した。
「アルム! 気持ち悪がってる暇はないわよ! 魔物がきてるわ!」
「く、いきなりかよ」
何とか吐き気を抑え、顔を上げる。
パッと見た感じ、『第5魔界』と変わらないが…………
いや、紫色の霧が以上に濃いな。
絶対体に良くないだろこれ。
って、今はそんな事より。
俺は此方に凄い勢いで突進してくる、猪のような魔物に向かって、剣を振る。
「プギャッ」
「ったく、驚かせやがって」
魔物を斬り捨てた後で、改めて周囲を見渡す。
「昨日は特に気にしなかったけどよ、この霧って害はないのか?」
「どうかしら? 私達はなんともないし、多分大丈夫じゃないかしら?」
だから、お前達の基準で考えるなよ……
「本当か、スロネ?」
「この霧は人体には有害。でもアルムは私の腕輪をしてるから問題ない」
やっぱり有害じゃねーか……スロネに聞いてよかったぜ。
「セルティア……前から思ってたが、お前適当過ぎだろ」
「結果的に大丈夫だったんだから、いいじゃない」
この女……
スロネから腕輪を貰ってなかったら、ヤバかったじゃねーか!
「もう、細かい事は気にしないの! それよりほら、どんどんくるわよ?」
さっき倒した猪の魔物が、俺達を取り囲んでいた。
「っらぁ!」
それから俺は、ひたすら魔物を斬った。
多分、五百は倒した。
セルティア達は、俺の戦いを眺めていて、たまに指示を出すくらいだ。
「なあ? 『第4魔界』ってこの猪しかいねーの?」
さっきからこの猪しか斬ってないんだが。
「そんな事ないわ。そろそろ…………あ、きたきた!」
セルティアが空を指差した。
「あ"? なんだありゃ?」
そこには一匹の緑色の竜がいた。
ワイバーン何かとは、比べるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの大きさだ。
「実はその猪は、緑竜のエサなの。今はエサをたくさん殺されて、怒ってる状態ね」
エサって……どうりで弱いわけだ。
それに緑竜とか…………前の俺なら泣いて逃げ出すレベルの魔物だぞ。
だが、今の俺ならいけそうな気がする。
竜種は、上位の個体になるとブレスを吐く。
その事は知っていたので、先手必勝。
ブレスを吐く前に倒そうと、俺はワイバーンの時と同じように、思いきり剣を振った。
斬戟が緑竜に飛んでいく。
キンッ!
「……マジかよ!」
いくら緑竜といえど、このステュクスなら余裕だと思ってたんだが、その幻想は打ち砕かれた。
確かに俺の斬戟は緑竜に当たったのだが、その強靭な鱗で弾かれてしまった。
「アルム! ブレスがくるわよ」
攻撃が効かなかった事に対して、呆気にとられていたが、セルティアの声で我にかえった。
緑竜を見上げると、口を大きく開き、ブレスを放ってきた。
けれど方向がおかしい。
ブレスは俺にではなく、スロネに向けられていた。
「くっっっそ……!!!」
「……アルム?」
俺は気づいたらスロネを抱き抱え、走っていた。
自分でも何でかわからない。
こいつは魔王だ。
放っておいても、何ともなかったに違いない。
でも、何だか放って置けなかった。
理由はわからない。
もしかしたらこいつが、幼い見た目をしているからかもしれない。
ドオーンッッ!!
ブレスが地面を抉る、激しい音が響いた。
「間一髪か……」
俺はブレスが直撃した地面を見て、ヒヤリとした。
地面は底が見えない程に、深く抉れていた。
いくらスロネの腕輪があるっていっても、これを受ける勇気はないわ……
「おいスロネ、セルティアの所に行ってろ」
どうやって緑竜を倒そうかと、思いながら立ち上がる。
「……スロネ?」
スロネは俺にガッチリ抱き付いたまま、離れない。
「おーい、スロネさん?」
「……!!」
三度目の呼びかけでやっと反応したスロネは、顔を赤くしてスタスタとセルティアの方へ歩いていった。
様子が少しおかしかった気がするが、まあいい。
今はそんな事よりも…………
こいつをどうするかだ。
俺は再び緑竜の方へと向き直った。
面白い。
続きが気になる。
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