10話 過去
「ほれ、クレープ持ってきてやったぞ」
『第5魔界』から、瞬間移動で城へ戻ってきた。
三人で晩ご飯を食べ、デザートにクレープをだしてやった。
「待ってました!」
「ん!!」
セルティアとスロネのテンションが、一気に上がった。
最初はスロネの事を、無表情な奴と思ってたんだが、だんだんと微妙な表情の変化がわかるようになってきた。
今は当然、嬉しい時の表情だ。
こいつら、どんだけクレープ好きなんだ…………
「それにしても、この魔剣と腕輪の組み合わせ、強すぎねーか?」
相手の攻撃は食らわないし、大抵の敵は一振りでサヨナラだ。
「そうね、余程の敵じゃなければ、まず負けないんじゃないかしら?」
「こんなとんでもねーの、本当に貰ってよかったのか? 俺が裏切って、お前達に攻撃するとかは考えなかったのか?」
こいつらは、俺を無条件で信じすぎな気がする。
信じてもらえるのは嬉しいが。
「ふふ、あなたは裏切ったりしないわ。私は人を見る目には自信があるの」
「ん、アルムはいい人間」
「それに、もしあなたが攻撃してきてもね、魔剣の攻撃なんてたいした問題にならないわ」
それもそうか。
魔王だしな。
「ならいいんだが」
「明日は『第4魔界』に行くんだから、気を引き締めてね」
「ああ、わかってる」
「スロネはどうするの? 明日も一緒にくるのかしら?」
「ん、行く! 朝御飯も用意しておいて」
「はいよ」
魔王って意外と暇なのか?
他にやることねーのかよ…………
クレープを食べ終わったスロネは、満足そうに、瞬間移動で帰っていった。
「なぁ、魔王ってみんなお前らみたいな感じなのか?」
夜、今日も足を舐めるのを回避して、ベッドに横になった。
隣のベッドで寝てるセルティアに、ふと思った事を聞いてみた。
「人間に好意的なのは、私とスロネだけよ。北と西の魔王は、人間が大嫌いだからね」
魔族の頂点といわれる、4人の魔王。
こいつらが全員、人間に好意的ならば、争いなんて起こってねーか……
「そうか。なんでお前らは人間の事をそこまで嫌ってないんだ?」
「ん~、スロネは人間に育てられたのよ」
なんと、衝撃の事実が発覚した。
「マジかよ、素直に驚いたわ」
「でもね、最初はよかったんだけど、成長するに連れて、スロネが魔族って判明して。スロネは、育ての親に捨てられてしまったの」
育ての親は、スロネを人間の子供って思ってた訳か。
まぁ、普通は魔族だなんて思わねーよな。
「……それなのに、人間を恨んでねーのかよ?」
「一時はかなり不安定だったけどね。でもね、やっぱり育ててくれた両親の温もりが忘れられなくて、どうしても人間を嫌いになれなかったの。あの娘は優しいから」
あいつも色々大変だったのか……
「で、お前は?」
「…………んー、秘密」
なんだこいつ……
「あっそ」
「あー、酷い。もうちょっと食い下がってきてよ」
本当、面倒臭い女だな。
「どうせ聞いても話さねーだろ」
「そうだけど。そんなにあっさり諦められると、複雑な気持ちになるのよ。本当、乙女心がわからないわね、あなた」
乙女? 百年以上生きてるババアが何いってんだか……
更に面倒臭くなりそーだから言わないが。
「はいはい、じゃあ明日も早いから寝るわ。お休み」
「むぅ…………お休み」
「おはようさん、スロネ」
「ん、おはよう」
昨日と同じくらいの時間に起きると、既にスロネが来ていた。
「……どうしたの?」
セルティアからスロネの過去を聞いてしまったからか、俺は椅子にちんまりと座るスロネの頭を撫でていた。
「いや、なんとなくな」
「そう」
「じゃ、飯作ってくるから、待ってろ」
「ん」
それからセルティアを起こして、三人で朝飯を食った。
「あーっ!!」
「どうしたのよアルム?」
昨日から何か忘れてると思ってたが。
「ギルドで、スライム討伐の依頼受けたの忘れてたわ」
レナが心配するから、一応戻ろうと思ってたのに、忘れてた。
今日は、朝一ギルドに行かないとな…………