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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【転】
89/144

88話ーあの月の下でー

 皆を守り抜いた峯岡。


 健史に背中を押され、峯岡は笑った。


 世界デュロル保護機構は壊滅する。


千歳(ちとせ) 重三(じゅうぞう) 7歳ー


重三(じゅうぞう)!打ち込みやろう!」


「おお!やるか!敏介(としすけ)は来ねえの?」


「あいつは家の手伝いやるって!」


「じゃあ!いつもんとこ行くべ!!」


 埼玉県は北西部。


 荻の草が生い茂る空き地。空き地と言うにも贅沢で、見晴らしも良く、夜には星と月が綺麗に見える。


 そこに行くだけでもトレーニングになるし、山ん中で人通りも無い。端っこには小川もちょろちょろと流れてる。


 それぞれ家柄を重視する家に生まれた幼馴染の3人がこの場所を見つけた。


 人の想いを繋ぎ、先祖から受け継がれたものを守る千歳(ちとせ)家。


 剣術に長け、代々受け継がれた技を研磨する家系に生まれた、水月(すいげつ) 春五郎(はるごろう)


 受け継がれた技に想いを込めて刀を鍛える家系に生まれた、伊歳野(いとしの) 敏介(としすけ)


 2000年生まれにしては古風な名前だと言われる俺達だけど、俺は気に入ってる。何だか強そうだし、深いような響きだし。


 そんなこんなで俺らの秘密基地(ひろば)を見つけてからよく遊んでる。この3人での鍛錬が1番楽しいし、本気になれる。


 互いが「越えてやる!」と思えるから。


 そして、3人で居ると時間を忘れる。


「ぷはぁ〜腹減った!!」


「早えよ!まだ僕全然やれてないよ!」


「敏介が来るの遅いからだろ!」


「そうだけどさ!帰り遅くなるとお前凄え怒られるじゃん」


「……そ……んなことないし!」


「今日はもう帰ろっか!敏介も重三も真っ黒だよ!服も汚してるし、これで遅れて帰ったらどうなることか……」


「はっ……!!帰ろう!!」


「帰ろうって言っときながらずっと寝転がってるのは何でなん」


「……」


「おい!重三寝るな!!」


「お!悪い!けどよ、見てみろよ。もう星が見えてきた」


 俺ら3人で、徐々に主張し始める星空を見上げた。


「本当だな」


「月もさ、さっきより光ってるよね」


「春五郎は月好きだよな」


「うん、何でだろう。ここで見る事が多いからか、2人を思い出して楽しい気持ちになるんだよね」


「オシャレかよ」


「重三だってよくここに寝転んで空見てるじゃん」


「言えてる!僕もここの景色は好きだな!」


「ずーっとさ、この3人で見てたいよな。大人になってもさ」


「わーかーる」


「じゃあさ、約束しようよ。大人になっても、絶対ここに来よう!」


「それ名案!!重三忘れそうだな〜」


「忘れねえよ!俺を何だと思ってんだ!」


 俺らは自然と肩を合わせて空を見ていた。


「どうする?俺らの誰かが鬼人(きじん)になってたら」


 面白半分で言ってしまった。


「鬼人てデュロルのこと?」


 敏介は空を見ながらそう言った。


「俺らで止めよう。人を殺しちゃう前にさ、そんなの悲しいじゃん?」


 春五郎の眼は真っ直ぐ空を見つめていた。


「え、殺すの?」


「それは分かんないけど、俺が成っちゃったら殺して欲しいかな。2人にだったら、良い」


 "ま、そんなことはないだろうけど"と春五郎は笑った。


 冗談のつもりの言葉が思いの外、真実味を帯びてしまう。


 その笑顔が、俺の脳裏から離れなかった。


「てか、今何時?もう真っ暗だよ」


「やべっ!!さすがに怒られる!!」


「はあああ〜僕明日生きてるかな大丈夫かなああああ」





ー2025年 第二次世界デュロル大戦ー


 デュロルが発端の大戦争が幕を開けた。


 しばらくはいつも通りの日常を送っていた。戦争は遠い話だと思っていた。


 しかし、日本にも火の粉は降りかかる。


 16〜35歳までの男は兵として徴集された。自衛隊は既に戦場へ駆り出され、数が足りなくなったんだと。


 その中でも俺と春五郎は武に長けていた為に、鬼人対策特殊部隊と呼ばれる部隊に入隊する。


 支援部隊には敏介も居るらしい。


 短い期間で厳しい訓練を半強制で受けさせられる。


 戦線は徐々にアジア圏に近付く。


 開戦から4ヶ月と16日が過ぎ、俺らは出撃する。


 何隻もの軍艦に乗せられ、詳細すら知らされずに海を進む。


 別進路の部隊は既に交戦してると聞いた。


 春五郎は大丈夫かな……。


 あいつ心優しいし、色々心配だ。





水月(すいげつ) 春五郎(はるごろう)側ー


 先頭の2隻がやられた。


 上からも横からも砲弾は飛んでくる。


 絶やす事なく耳を(つんざ)く音。


 この船も、陸に着岸するらしい。


 ここが今何処なのかも分からない。


 状況すら分からない。


 何で今自分がここに居るのかも分からない。


 胃に穴が開きそうなストレスの中、強制的に陸に降ろされる。


 とにかく進めと言われる。


 戦争なんて小さい頃にテレビで観たくらいなのに、いきなり雑な説明だけされて、もう命を掛けなければいけないなんて理不尽だろ。


 突如顔に生暖かいものが飛んでくる。


 目の前を走っていた仲間が倒れた……。


 俺はそれを目で追った。


 背中を押されて、倒れた仲間に躓く。俺は驚いて後ろを見ようとした。


「走れ!!死ぬぞ!!」


 その言葉が脳を掻き乱した。


 テレビで観たあの場所に、俺は居るんだ。


 生半可な気持ちだった。


 死を前にして、死を意識した。


 俺はうまく息を吸えなくなった。


 この呼吸が最期かもしれない。


 涙すら出なかった。


 どれだけ走っただろう……。


 全身に血が行き渡る感覚を噛み締める。


 多少は安全だと思えるこの場所に来るまで、一体どれだけの仲間が死んだのだろう。


 それが何日も続いた。


 俺は生き延びてしまった。


 目の前で倒れる仲間を見る度に、重三は無事だろうかと、腹に(おもり)が加わる。


 俺の心は次第に壊れていった。


 仲間が倒れる事を"普通"と感じてきた頃、それは耳に届いた。


「第3部隊の軍艦が全滅!!」


 それ以外の言葉は俺に届かなかった。


 第3部隊……。


 "春五郎は第6部隊か!俺は第3部隊!大丈夫だ!何かな、俺はお前とは生きて会える気がする!でーっはっはっは!!"


 砕けた。


 何が砕けたんだろ。


 もう何だか、どうでもいいや。


 俺はキャンプ地を飛び出していた。


 敵陣に1人突っ込み、自然と手に握っていた白い刀を振り払い、そこに居た人間を斬り伏せた。


 "こんだけ鍛えてもさ、人は斬りたくはないよな!"


 "怖いこと言うなよ!考えもしなかったわ!"


 血が滲みて、砂が泥になった地面を見下ろす。


 返り血と泥で汚れた白と黒の身体。


 俺だった影には2本のツノが映る。


 俺は白い刀を構え、その刀身に月の光が反射する。


 異様な黄金色を放ち、同色のモヤが滲み出た。


 あまりに妖艶な光に見惚れてしまう。


 付近に転がっていた骸数十体は起き上がり、銃を拾い上げる。


 【黄泉刀(よみがたな) 黄泉操魂(よみそうこん)


 死者の身体を操り、俺は戦場を掻き乱した。


 何処の国かもわからない敵は引き、"見慣れてるであろう仲間の死体"に撃ち殺されていく。


 敵の奴らも皆、俺と同じ表情をしてる。


 操っている死体にすら、親しい仲間は居て、故郷で待つ家族が居るのだろう。


 悲しいなあ。


 止めて欲しいなあ。


 俺、デュロルに成っちゃったよ。


 止め……急に周囲が暑くなる。


 俺の目の前に何かが落ちてきた。地面を砕いて着地して、睨み付けられた気がする。


 同じ気配。砂煙の中のシルエットも同じ。


 2本のツノ。


 煙を掻き分け、赤い装甲のデュロルが姿を現した。


 そのデュロルは携帯端末を取り出し、何処かの国の言葉を話し始める。


「___暴れているようですね」


 携帯端末はデュロルの言葉を翻訳して話し始めた。奴の口調からして、そんなに丁寧な言葉遣いじゃないことは分かる。


「___名前は何ですか」


「水月 春五郎……」


「___私はルータスです」


「___仲間になりませんか」


 俺が話出そうとすると、ルータスは携帯端末をこちらに向けた。


「目的は何だ」


「___ある人物を殺したいと思っています。あなたの力が必要です」


「人殺しする為に協力はしない」


「___その人物は、こちらの敵です。人間の仲間です」


 人間の仲間……。


 俺はどっち側なんだ。


 デュロル側と言われると、なんか嫌だ。


 俺の仲間の為に、敵の人間を殺していただけだ。


 どっちかと言えば、俺は人間側……だよな。


「そいつは今、何処に居る」


「___ある人物は日本に逃げました」


 日本……!!


「俺はお前には協力しない」


 少しの間を置いて、ルータスから溶岩が溢れ出た。


 周囲の骸で射撃しても、傷一つ付きやしない。


 デュロルって、こんなに頑丈なのか。


 俺は刀を黄金色に輝かせた。


 ルータスは攻め気味の姿勢から、驚いたように後方へと下がった。


 この刀身に触れた人間は干からびて息絶え、そして俺の駒となってきた。


 駒は溶岩に溶けたが、ルータスは刀身を怖がってる。


 そのままルータスは後方へ飛び去って行った。


 俺はしばらく周囲を警戒してから、日本へ向かう為に動き出した。





千歳(ちとせ) 重三(じゅうぞう)側ー


 俺の乗る軍艦は破壊された。しかし、少数の死者は出たものの、大半の者は生きながらえた。


 俺の誘導で海へ飛び込み、陸まで泳いだ。


 俺らは別部隊の到着を待ち、一度日本へと引き返すことになる。


 その途中で、第6部隊が甚大な被害を受けたことを知らされる。


「春五郎……」


 そして、世間では最重要警戒デュロルと指定されたデュロルが騒がれた。


 その中に、"水月 春五郎"の文字を見る。


 その文字を否定したかった。違う人であって欲しいと願った。


 あいつのことだから、俺が死んだと思ったんだろうなあ。


 記事に載る"水月 春五郎"の近くに、2本のツノが生える悲哀に覆われたデュロルの写真があった。


 俺の乗る軍艦は破壊された。死んだと思うのも無理はない。けれど。


「デュロルには成るなよ春五郎……」


 幼い頃の笑顔が重なる。


 その笑顔は、目頭を熱くした涙によって滲んだ。


 俺は、決意しなければならない。


 "どうする?俺らの誰かが鬼人(きじん)になってたら"


 あの日のことはよく覚えてる。


 "俺らで止めよう。人を殺しちゃう前にさ、そんなの悲しいじゃん?"


 お前が望んでることなら、俺も敏介も迷わない。


 "俺が成っちゃったら殺して欲しいかな。2人にだったら、良い"


 俺には、重い現実だよ。


 日本に着いてから俺は上司の命令を無視して、埼玉の実家へ戻った。


 敏介が想いを込めて打った刀を握る為。


 "重三!コレやるよ。僕が打った最高傑作なんだ。まあ、これから最高傑作は塗り替えていくんだけどな。……良いんだよ受け取れって。もしもの時まで取っといてくれよ"


 敏介、今がその"もしもの時"だよな。


 刀を握り、布に入れ、あの場所を目指した。


 道行く景色こそ変われど、何もかも覚えてる。


 街灯は今でも少ないままで、雲一つない空から月の光が辺りを照らしている。


 舗装されてない山道を通り、茂った草を掻き分ける。


 俺らの秘密基地。何故か、何の確証もないまま、ここへと来てしまった。迷いもなかったと思う。


 あの頃と変わらず、この季節になると荻の草が生い茂る。


 その真ん中に、ポツリと月を見上げるデュロルが1人。


 デュロルを前にして焦りは無く、何故か微笑む自分が居た。


「やっぱりここに居たんだな、春五郎」


 デュロルになっても、ここを忘れずに居てくれたこと。


 春五郎は月から俺へと顔を向けた。ゆっくりと。ゆっくりと。


「安心したよ。デュロルになっても、お前は春五郎だってな」


 春五郎は俺に顔を向けて、暫く硬直した。


 俺は春五郎の間合いまで歩き寄る。


「重……三……なのか?」


「おう。俺だぜ」


「死ん……」


 春五郎は言葉を詰まらせた。


 そして、全身の力が抜けるように数歩よろける。


「重三が!死んだと思ったから!!俺は!お前が死ぬ筈無いって!でも!だから!」


「落ち着けって言っても無理あるよな。でもホラ。俺は今も生きてる」


「……」


 春五郎は涙を拭う素振りをするも、虚しく装甲の当たる音が響く。


「うあああああぁぁあぁあ!俺は!取り返しのつかないことをした!人を殺した!何人もの命を奪った!お前が死んだと思い込んで、どうでも良くなったんだ!」


 春五郎の顔装甲から、2本のツノは塵となって宙に消えた。


 それが月の光に反射してチラつく。


「人を殺してる時、お前に止めて欲しいと願った。でも、それも叶わない……から。敏介には負けたこと無いから、アレだけど」


「敏介が聞いたら泣くな!でっはっは!」


 この空気を押し込む為に笑ったけど、俺の目は引き()ってたと思う。


「そうだよな。俺は重三に、哀しい想いさせたんだよな」


「おう、哀しいどころじゃねえ。本当に哀しいのはこれからなんだよ」


 春五郎は察したようで、俺の顔を見続けた。



「俺はお前を止める。それが、あの時、この場所で交わした約束だからだ」



 春五郎は下を向いた。


「今まで通りにはならない。それは俺が一番知ってる。知ってるからこそ、俺が俺でいるうちに、止めてくれ」


「それがお前の願いだろ。けどよ、一方的に刀を振るうのは嫌だ」


「は!?何言ってんだ!」


「だから!コレだよ!」


 俺は布から刀を取り出す。


「敏介が想い込めて打った刀。覚えてるだろ」


「……」


「俺の手でお前を失わなきゃならねえ。だったら最後にやろうぜ、本気の"打ち込み"」


「でも……」


「俺を舐めてんな?俺はお前に負けたことねえぞ!言葉通り、真剣勝負だ!」


「……お前は言い出すと聞かねえからな」


 春五郎は右掌から白い刀を生成した。


 互いに刀を構え、互いの刀身は月に照らされる。


 敏介の打った刀は紅く輝く。


 春五郎の刀は月の光を強調するように青白く輝いた。


 刀を交えた俺だけが知る、春五郎の最期。


 記事に書かれた異能力、死んだ人間の屍を動かす。あまりにも率直で、俺を蘇らせたい素直な想いが能力になっていたんだな。でももう、その能力すら残ってなかった。


 筋力こそ増してるものの、刀さばきは春五郎そのものだった。


 ただデュロルの姿をした、あの頃の春五郎だった。




 当時 最重要警戒デュロル

 【願鬼(がんき)

 水月(すいげつ) 春五郎(はるごろう) 絶命。





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