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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
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60話ー最悪な状況ー

 絶体絶命に思えた千歳は立ち上がる。


 その妖艶な見た目は、高千穂達をも惑わせた。


 そして現れた、クミと呼ばれるゾディアック。


ー東京 豊島区ー


 女デュロルは、意識の無い千歳(ちとせ)に手を差し伸べていた。


「させない!!」


 高千穂(たかちほ)は見えない力で地面に押されながら、突如現れた正体不明のゾディアックに声を張った。


「千歳から離れろ……!!」


 畑山(はたけやま)も重みに抗い、手足を動かそうと必死になる。スクイマが絶命した直後から、撃ち抜かれた部位は自由に動かせるようになっていた。


「次から次へと…….!」


 滝原(たきはら)は悔しい声を漏らし、同じく立ち上がろうと力を振り絞る。


 この状況は確かにまずい。千歳達はゾディアック3連戦目で、体力の限界は近く、機械の破損も目立つだろう。


 デュロルの姿だった千歳は元に戻り、今度こそ確実に気を失っている。


 それに、あの"クミ"と呼ばれた女デュロルの能力で、またも身体が動かない。何かが乗っているわけではない。身体自体が重くなっている感覚に、筋力が対抗しきれていない。


「うん、まだウチに立ち向かえるなんて凄いじゃん。でもさ、まだ弱いんだよね」


「何……」


 すると、千歳、高千穂、畑山、滝原の4人は浮かび上がった。


「え!?」


「何だ!!」


「浮いてます!浮いてますよ!!」


 続いて女デュロルも浮き上がる。


「じゃあさ!みんなで行こっか!」


 今、何が起きているんだ……。


 俺は、目の前で兵士達が遠ざかるのを見ることしかできなかった。


 手が届くほど間近に敵が居て、言葉通り何も出来なかった。


 常識を逸したデュロルの能力。その中でも群を抜くゾディアックだと頭で理解していても、目の前の現実に、身体は反応しきれなかった。


 空高くまで浮き上がった5人が見えなくなった時、身体の重みは無くなった。反動で身体が軽く感じて、それが余計に悔しさを思わせる。


 連れ去られた東京チームエル・ソルのGPSは途中で切られ、追跡不能となる……。


 そして追い討ちを掛けるように、日本全てのチームエル・ソルが、あの女デュロルによって連れ去られてしまった。


 これだけで事態は悪いと言える。


 しかし、(おれ)が思っていたより、事態は最悪となっていた。


 スクイマ戦は、日本全国に生中継されていた。更にはSNSで拡散……。


 ほぼ全ての国民が同じものを見て、同じ想いを抱いた。


 それは俺すらも抱いたこと……。


 "千歳のデュロル問題"。


 対デュロル組織であるEA(Ekeypona Army)グループの日本支部JEA。更にはJEAの東京本部のトップチームであるチームエル・ソルに位置する男が、デュロルであること。


 今までの功績は確かにある。何度も千歳達には救われた。紛れもない事実だ。


 それは国民も理解しているはず。


 だが、それは千歳がデュロルだと知らなかった頃のこと。


 "千歳がデュロルである"、この事実一つだけで、今までの功績は水に流されてしまった。


 スポンサーの数も著しく減り、それは世間の声となって現れた。


 1番の問題は、千歳がデュロルとして人を殺めてしまったかどうか。


 この事実が悪い方に転ぶのであれば、千歳が今の立場を維持するのは難しいだろう。しかし、全ての日本チームエル・ソルが行方不明となると……。


 代行チームエル・ソルを結成せねばなるまい。災対チームを組んではいたが、それはあくまで通常チームのもの。チームエル・ソル程の力を備えているわけではない。


 一筋縄では集まらないメンバー達が、たった1人のゾディアックに連れ去られてしまうなんて。


 あの女は一体何者なんだ。


 確かに千歳の名前を呼んでいた。


 俺達の仲間なのか?いや、肩にゾディアックを象徴する絵柄で蛇が描かれていた。


 それに、スクイマも女デュロルのことを知っているようだった。


 考えれば考える程わからない……。


 一刻も早く、全員を見つけ出さなければ……。


 クソ……焦っているな……こういう時こそ落ち着かなければならないのに。


 落ち着こうとする度に、手の震えは激しさを増す。意識しないと呼吸さえも途切れてしまう。大きく肩を揺らし、数あるモニターのそれぞれの映像に照らされる。





ー北欧 離島ー


 再び、レベル5の緊急招集がかかる。


 今回、側近を付けないゾディアックのみの参加となる。


 前回と同じく奴隷が案内し、最期には身を捧げる。


 円形の超大机には、既に他のゾディアックが着席していた。


 時計の数字で言う、2時、4時、5時、7時、8時、9時、10時に位置する席が空席となっている。


 今回、5時の席にルータスさんが着席予定で、9時の席は毎度不参加。11人だったゾディアックは、残り7人になっちゃったんだね。


 ボクチャンが着席したと同時に、重厚な扉は開かれ、ルータスさんは堂々と姿を表す。


 5時の席に着席して直ぐ口を開いた。


「多くのゾディアックを失う結果となった」


 ルータスさんは笑おうと口角を上げようとした。無理な表情が、顔を硬らせていた。


(リー)の死亡により、証拠隠滅の為に夢見花(ゆめみのはな)の工場とプラントを失った。これは替えの効かない事象だ」


 その言葉を合図に、それぞれの席に置かれているモニターに、工場跡地と思われる焦げた穴の写真が映された。


「我々の活動が困難になり得ること……」


 ルータスさんは言葉を詰まらせ、拳を震わせた。


 今まで冷静なルータスさんしか見たことが無かったから、ここまで素の表情を見たのは初めてだ。


 ルータスさんは悟られないように息を整えた。


「李を殺したのは、あの千歳だ」


 次にモニターには、真っ二つに切り裂かれたような灰色の雲が映された。


「今や千歳は、これ程までの力を手にした」


「いくらエキポナと言え、この力は異端では」


「この姿を見れば、この力がある事にも納得がいくだろう」


 そしてモニターは切り替わる。エキポナの姿を保ちつつ、身体をデュロルの装甲が巡って纏う。長く伸びた銀髪。更に皆の目を引いたもの。


「1本ツノ……!?」


「鬼の名を頂いた者のツノは2本。近来のデュロルで1本ツノを確認されたのは……」


「それって……」


仁輪加(にわか) 雹蔵(ひょうぞう)ただ1人」


「旧最重要警戒デュロルですか。ルータス様と肩を並べる人ですね」


「我々がずっと探していたデュロルだ。こいつを巡って第二次デュロル世界大戦が起こった程にな」


 ルータスさんは、ボクチャン達の前で話した事ないことまで話してくれる。


 珍しすぎて逆に怖いよ。


「この雹蔵が、千歳の中に居たってことですか」


「ああ。雹蔵はそういう能力だ」


「だから探しても見つからなかったんですね」


「雹蔵が姿を見せた。そこまで追い詰めたスクイマは過大な評価に値する。彼の死を弔おう」


ルータスさんは突如目つきを鋭くして、横の位置に座る新人の女の子を見やった。


「そのスクイマを何故殺し、何処に千歳を連れ去った」


 この迫力がボクチャンに向けられたら、正直チビっちゃうかも。


「スクイマは雹蔵の能力によって殺されかけてました。殺す直前で雹蔵は意識を失いましたが、再び目覚め、再び能力を使用した場合、我々の情報漏洩に繋がりかねます。そうなってからでは遅いと判断し、糸を断った次第でございます」


 前のめりだったルータスさんは背凭れに上体を預ける。


「連れ去った千歳はどうした」


「ルータス様の(めい)を受けた身ではありますが、ルータス様直々に罰を下していただきたいと願っての行動でございます。運ぶ途中、千歳、いや、雹蔵が目を覚まし、能力によって逃げられてしまいました。現在行方を晦ませているようで、私としたことが、一生の不覚でございます。ルータス様のお力に成ればとの行為、どうかお許しください」


 ルータスさんは机上で指を絡めて目を瞑る。


 ゆっくりと目を開け、女の子を見据えた。


「気持ちは受け取った。だが、勝手な行動は控えろ。前と今とじゃ状況が違う。千歳を見つけ次第、即刻殺せ」


 ルータスさんは笑うことを忘れ、歯を食いしばっていた。


「エキポナに攻め入ることは暫くお預けだ。世界デュロル保護機構の態勢を立て直すことを優先とする。それに、今またエキポナへ奇襲を仕掛けたところで、千歳及び雹蔵は出てこない」


 ルータスさんは立ち上がり、机に体重を乗せて皆を見回した。


「次千歳が現れた時、確実に今より強くなっているだろう。お前達も鍛錬を忘れるな。もう誰も失いたくない」


 そう言い残して、ルータスさんは踵を返す。


 後ろ姿はやけに不気味な怖さを醸し出していて、明らかに辺りの温度は上昇していた。





ーモンゴル西端 峡谷ー


「何だこの有り様は……」


「ここの警備は完璧でした。600人以上の兵士を配置していましたし」


「警備に完璧は無い!完璧であれば、その全員が死体になることは無かったはずだ!!」


「……」


「で、侵入者は。どこのデュロルだ」


「それが、全身をボロ布で覆っていて正体が掴めないんですが、交戦した兵士の記録に、手先の金属が映っていました。恐らく、エキポナかと思われます」


「エキポナぁ!?逃れ者がここに何の用だ」


「わかりません。ですが、そのエキポナが牢を解放したのも事実です」


「おいおい勘弁しろよ。何のデュロルか解っての行動なんだろうなエキポナぁ」


「旧最重要警戒デュロルの1人ですもんね……」


「"旧"が付けど、手のつけられないデュロルに変わり無いんだ。何の為にこの人数で警備を固めたと思っているんだ……」


「600人以上全員に同じ傷口が見れることから、全ての殺しはデュロルが行ったんでしょう」


「だとしてもだろぉ。そのエキポナが殺したも同然だよなぁ。そんで?そのデュロルの足取りは掴めてんのか」


「いいえ。エキポナ合わせて何も掴めておりません」


「だと思ったよ。手を合わせろ、俺らも作業参加するぞ」


「はい!」


「まったく、酷い有様だな。奴の能力は健在なのか?」


「交戦記録を見た限り……健在かと」


「うーん、厄介だな。奴をこの牢にぶち込む時も、多くの犠牲を出したらしいしな」


「そうみたいですね。50年近く経つんでしたっけ?」


「あー、そんな経ってなかった気が。俺も正式な年数は覚えてないな。でも、まだエキポナの技術が確立されてない時代だよな」


「エキポナの兵士が数名居たとしか聞きませんね」


「その状態でよく奴をぶち込んだよな。まあ、逃げられちまったんだが」


「日本のエキポナが何とかしてくれるんじゃないですか?」


「そうだといいがな」


「……」


「どうした?」


「ちょ……すいません。匂いで気持ち悪く……」


「だろうな。結構時間経ってるし、数も数だ。外で空気吸ってこい」


「行ってきます……」


「おう……はぁ……」


 ずっとここで片付けしていたい。ただでさえゾディアックが活発化してきているのに。旧最重要警戒デュロルが逃げ出したなんてよ。


 "旧"か……。


 エキポナの技術がまだ幼い時。人間の軍隊がデュロルを相手にしていた時代。


 デュロル主体となって起こった第二次デュロル世界大戦。デュロル側に加担した国と、それを抑えるべく立ち向かった国。立ち向かった側の国に加担したデュロル。その争いの主力となり、互いに大きな被害を与えたデュロル6人。


 そのデュロルの力はあまりに強大すぎた。それ故に、当時最重要警戒デュロルとして指定されていた。


 人間がデュロルに立ち向かう術を持たなかった時代の6人。今となっては"旧"なんて呼ばれてる。けど実力は確かなんだろうよ。そうじゃなきゃ指定されないしな。


 そいつが抜け出したのは恐ろしいこった。世界デュロル保護機構と関係でもあんのかな。


 まあ、それより恐ろしいデュロルが居ることも事実だし。



 "旧"が活動しはじめた今、"現"はどう動く?



 黙っちゃいないのは確かだろう。


 昔の最重要警戒デュロルが"旧"と呼ばれる理由。


 昔と違って、人間側がデュロルに対する術を手にした。しかも、その力はデュロルをも捻じ伏せる程に技術は進化している。今の技術のエキポナであれば、"旧"最重要警戒デュロル達は対処できる範囲に入っているとの判断だと。堕ちた由来よ。



 それでも尚、最重要警戒デュロルに指定されるデュロルが4人も居る。



 立ち向かう術を手にしたエキポナでさえ、敵わぬと言うのか。それは本当にデュロルなのだろうか。地球の何処に居るのだろうか。


 しかし、指定されているとは言え、これが事実かもわからない。目撃情報が一度しか無い。それも映像の一部に映ったボヤけた身体だけ。


 能力の情報も無い。今も存在しているかすら分からない。


 活動報告が、世界のどこの支部にも入ってこない。


 "現"4人のデュロルが居るとしたら、我々人間サイドで、人間として私生活を送っているのだろうか。


 その4人の内誰かが、"旧"の活動によって出てきたらどうするんだ。


 俺はもちろん戦いたくない。


 戦いたくないからこそ、チームオロを必死にやってきた。この凄惨な現場を片付ける。清掃する。遺族に引き渡す。それだけで良い。


 それだけで、デュロルの脅威は理解できるから。


 俺らが必死に後片付けするから、才に恵まれた人が思う存分戦ってほしい。


「戻りました、すいません……」


「おう、もう大丈夫か?」


「はい、何とか」


「ははは、こればかりは慣れるしか無いからな!気合入れてやるぞ〜!」


 不穏な空気に包まれる。地に倒れる者全員が、出口へと手を伸ばして息絶える。


 一体、何が始まろうとしているんだ。





 第二章【承】完

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