5話ースポンサーー
強敵と思わしきデュロルを瞬く間に倒した千歳一向。
世間はそんな千歳達を知り始め、それが形となり始める。
「それにしても、なんだあの千歳って新人は」
「元帥!!ありゃ俺の弟子だ!がっはっは!」
「その口の利き方はないだろう峯岡!!慎め!」
「堀、いいんじゃ。峯岡の弟子か。新人でありながら川崎らが手も足も出なかった相手を、いとも容易くやっつけちまうとはな」
「しかも、雪崎の刀を弾く程の硬い装甲を、アクセルを使わずに切り裂くなんて」
「あいつは俺が見込んだ男だ。ジジィを知ってる俺からしてみりゃ、あいつは必ず何かを変える」
「あいつらが訓練生だった時にとんでもない夢を持った少年がいるってのが千歳か」
「その夢は何じゃ?」
「俺と同じ夢を本気で実現させようとしてる。元帥ならわかんだろ?」
「……手のやく男は峯岡達だけだと思っとったが、とんでもない男が入ってきてしまったようじゃの」
「がっはっはっ!それじゃ、俺はそろそろ行くぜ。千歳をよろしくな!」
「あいつらに挨拶しなくていいのか?」
「ああ!ずっと会わないってわけじゃねえし、あいつらなら自力で俺んとこまで会いにくんだろ!がっはっは!」
「んっ」
「お、川崎さん目が覚めましたか?あー!まだ動かないで!」
「……デュロルは?」
「倒した!今この装甲車で本部に向かってる!」
幸いにも、誰も命に関わるほどの怪我や破損はなかったが、叩きつけられたチームフエゴの井上さんはまだ目を覚まさない。
目を覚ました他の4人には、あの後どうなったのかが説明され、まだ信じられない様子だ。
「千歳くんたちがやっつけたの?」
「そう!」
「……」
高千穂は考え込むように下を向いた。
本部に着き、デュロルに気絶させられていた5人は治療室兼整備室へ向かった。
休憩ルームの大画面には、つい先程のニュースが流れていた。
大きく俺の名前と、他3人のコードネームが映されている。
「千歳!!!!」
休憩ルームの出入り口から怒鳴り声が聞こえる。訓練の時お世話になった、指令官の堀さんだ。
「お前よくも担当の命令無視を!!許される行為ではないぞ!!」
「……」
「と、言いたいところだが、元帥が許してやれとのことだ」
「ええええ!!!元帥が!?!?」
「えええええええええ!!」
「みんなドン引きすんじゃないの」
元帥はEAグループの創設者の1人で、自分がこう呼ばれたいとのワガママで、JEAでは"元帥"と呼ばれている。
つまり、日本エキポナのトップだ。
「お前らの強さに感激したんだと。全く、トップとして甘すぎるよあの人は」
堀さんはため息まじりにそう言った。
「お前らがさっき保護したデュロルはまだ目を覚まさないが、黒潮は目を覚ました。菅岡の所へも少し行ってきてくれ、話があるそうだ」
「俺に?」
「そうだ。他の3人は先に会議室で待っていてくれ」
俺1人だけでデュロル2人がいる地下3階に行く。そこは壁、床、天井が真っ白で統一されている、清潔感のある場所だ。
左右の壁に部屋があり、直進にずらっと並んでいる。一番手前の左右の部屋に1人ずつ収監されている。
超綺麗な独房といったところか。それぞれの部屋に人間体の2人が手足を固く縛られ椅子に座っていた。
まず右の部屋へ入る。
「お前はどっちだ?」
「菅岡だよ。助けてくれてありがとう」
「まあ、結構強引だったけどな。川崎さんにも礼言っとけよ」
「うん。鬼神に宣戦布告したの見てたよ、かっこよかった。けどこれだけ先に言わせて、絶対死ぬよ?」
「そうなのか?何の根拠があってそんなこと言ってんだ?」
「そっちこそ何の根拠があって壊滅できると思ってるの??僕は知ってるんだよあいつらの強さ」
「能力知ってんのか!?」
「いや、能力は知らないけど、幹部達はオーラが違うんだ」
「んな事かよ。オーラが違うからってお前が俺を止める理由にはならねえ」
「本当なんだ!!あいつらはエキポナが約束を守れなかったら本気で大量殺人をするよ!今日黒潮が暴れてたけど、階級で言えば黒潮なんて比じゃないレベルなんだぞ!!」
「階級あんのか?鬼神の中に?」
「うん。僕と黒潮が居たのが一番下っ端なんだ。で、ついさっきの山辺って奴が僕たちの一個上の幹部直属の部下。その上に幹部らがいるんだ」
「へぇ〜興味ねえなぁ」
「なんでそう平気でいられるんだ!あいつらに目つけられたら死ぬよ!?」
「そこで死んだら俺はそこまでの男ってことだ。菅岡、お前が心配するようなことじゃねえ」
「……」
「鬼神のアジトはわかるか?」
「大体のことしか……。けど、幹部は僕らに内緒でどっかで集まってるんだ。その場所はわからない」
「それで十分だ。話してくれてありがとな!」
菅岡は腑に落ちないように俺を見ていた。
「そんな顔すんなって!ホラ!」
俺は菅岡の左胸に拳を添える。菅岡は目を瞠り、何をするんだと言わんばかりの表情を浮かべる。
「心配すんなってことだよ!そんな痛い目で俺を見ないでくれっ」
菅岡は溜息をつき、呆れた表情だったが、少しだけ笑ったように思えた。
俺は部屋を出て目の前の黒潮の部屋に入る。
「よっ!お前黒潮だな?」
「……」
下を向いてた顔を静かに俺に向けた。
「僕を切ったけど、結果的に助けてくれたんだね」
「ああでもしないとな!でも人を殺したんだから罰はつくからな」
「あそこに居るより全然マシだ」
「そんなに酷いところなのか」
「子供の時に訳も分からず連れてかれて、部屋に閉じ込められて、日々続く拷問に耐えられなくて。デュロルになったことが解ったら部屋から出されて能力が解るまで拷問、解ったらその能力を只管に訓練して、生身の人間押し付けられて、何年も何年も同じことの繰り返し。次第に、何で人間は俺らがこうなってるのに街で楽しそうにヘラヘラしてんだって思い始めて、鬼神の奴らの所に居るのも怖くて、もうどうすればいいのか分からなくなった」
「……連れてこられた奴みんなそうなのか?」
「うん。みんな従うしかないからね。最初は騙されて、逃げようとかは思わなかったけどね。それに幹部らは強い能力持ってるからデュロルでいるのが楽しげだけど。僕たちみたいに連れてこられた人達はみんなもう限界だし、死んだ方がマシだよ」
「……」
「自由奪われて、あいつらのやりたい事の為に僕らが命を落とさなくちゃいけないなんて。なんで?いつ僕たちの命はあいつらのモノになったの!?」
黒潮は静かに感情を零した。
「自分は死ぬために育てられたってこと。嫌でも解る。せめて死ぬ前にママとパパに会いたかった。僕のこと心配してる。だから帰らなくちゃなんだ!!」
「……そうか」
「死ぬ訳にはいかない……。いざ逃げ出して街の人間を見たら、何年も溜め込んだ怒りが込み上げてきて……」
「それ以上はいい。わかった」
「……」
黒潮は下を向き溢れんばかりの涙を流した。
「よし、任せとけ!お前ん中から鬼神の恐怖取り除いてやる!」
「……?」
「俺は鬼神をぶっ飛ばすって決めたんだ。待ってろ、親の顔見せてやる!」
「……ぐぐ」
「約束だ!!手ェ出せ!って縛られてんのか」
俺は拳を突き出す。その拳に黒潮はおデコをコツンとぶつけた。
堪える表情を見せる黒潮を後ろに部屋を後にした。
約束は絶対に守る。好き勝手させるかよ。
絶対許さねえからな。
ー同日20時半ー
「お前ら今日は命令違反をしたな。でも、良くやった。あのままあいつが街にいたんじゃみんな不安で仕方なかっただろう」
「俺は最初から分かってた〜」
堀さんは悔しそうに唇を噛んだ。
ガチャっ。
会議室の出入り口のドアが開いた。
「あの、私も会議聞いてていいですか?」
「高千穂か、お前も任務にいたろ、いいぞ」
高千穂は空いてる椅子に座った。
「先程のデュロルは、鬼神幹部直属の部下、山辺 一斗だ。川崎ら5人で相手しても歯が立たなかった強さだ」
高千穂が下を向く。
「だが、お前らの活躍により保護できたわけだ。異例中の異例だこんなこと。そんな所為でお前ら4人にもうスポンサーがきてるぞ」
「ええええ!?!?まじっすか!!」
4人声が揃う。
「まず里道。お前はスポンサーってよりお小遣いだな。さっきこの本部に1人のお婆ちゃんがやってきて『ほんやまぁ、あのぉ弓使ってた僕ちゃんにこんれ渡しといてくれんかのぉ。こんれからもぉ頑張ってなぁ』って」
「お、お婆ちゃんさん……。で、いくらなんですか?」
「50万1000円だ」
「あらぁ〜……て、え!?おばあさんが50万も!?と、1000円……?」
「どんだけお人好しな婆さんなんだ!」
里道は考えるように上を向いた。「ばあ……さん?」
「続いて藤長。お前は個人からスポンサーがきてる。まずは150万円だそうだ。太っ腹な一般人だ。あとで詳細を教える」
「150万!!任務3回目でこの値段はかなりいいよな!!」
めっちゃ嬉しそうな藤長。
「室瀬、お前は企業から来てるぞ。新人でこの値段はかなり凄いぞ」
「おおっと!!期待できる!!」
テンションが上がる室瀬。
「あのサラリーマン用の防臭靴下を開発してる『臭撃ング』がスポンサーとしてまず2700万だ」
「2700万!!!!うっしゃー!!!大金じゃん!」
両腕でガッツポーズをする室瀬。
「千歳。お前は前代未聞だぞ。いきなり3社からスポンサーだ。鬼神にケンカ売った、山辺を一振りで倒した、度胸に賭けてみたいってそれぞれの理由だ」
「おおおおお!!千歳おんまぇ、すげえな!」
「チトッセオ5000万超えるんじゃない?」
「5000万なんて夢だぞ!!」
俺の鼓動がこの会議室に響いてるんじゃないかと思えるくらいドキドキしてる。
「9700万だ。史上初だぞ新人にしてこのスポンサーの額!!大企業が2社も入ってるんだぞ!」
「9700万!?!?まじか!!すげえや!」
「ええええ!僕50万1000円だよ?」
「何でお前そんな貰えんだよ〜俺もケンカ売っときゃ良かった〜」
その日の会議は終わり、みんなが会議室から出る最中、高千穂だけがまだ椅子に座っていた。
「高千穂。どうした?」
「千歳くん。何でもないよ!」
「山辺の時のことか?」
「……何でもないって」
「そっか」
俺が会議室を出ようとした時「私ね!どうしても叶えなくちゃいけない約束があるの」
後ろからトーンの低い声で話す高千穂。
高千穂は椅子から立ち上がり俺の方へ歩き出す。
「少し付き合って、ここじゃ気分が乗らないから外行こ」
そう言われ高千穂について行く。
施設の中に芝生が敷いてある広場があり、そこのベンチに腰掛ける。エキポナ用のため木製じゃなく、鉄製のガッシリとしたベンチだ。
「そのね、約束を叶えるために、どうしてもスポンサー"も"必要なの。もっと強くならなきゃいけないの」
「高千穂はもう強いじゃん」
「強くなんかないよ!強かったら、あの時川崎さんを射抜かずに済んだもん」
「ん〜そうだな!」
「清々しいほど素直ね」
「嘘よりマシだろ?」
「まあね。それで、お願いがあるの」
「お願い?」
「うん。次デュロルが出たら、私の任務について来てほしいの!それで、私の動きとか何処が悪いのかってこと指摘して!!」
「おりゃ教官じゃないんだぞ??的確に言えないぞ!?」
「それでもいいの。お願い。申請は出しておくから」
「わかった!ついてく。俺だけでいいのか?」
「うん、他の人も来ちゃったらそれぞれの班に迷惑でしょ?」
「俺が居なくても平気って考えなんだね?」
「うん、藤長くんと川崎さんがいるし」
俺の扱い雑だな〜。
「んーまあいいか!次の任務の時見ててやるよ!」
「ありがとう!でも、絶対に千歳くんは手を出しちゃダメだからね!私が強くならなきゃいけないんだから!」
「わかった!」
俺は高千穂と別れ、チームルナの寮に戻った。
2人でいる所を見られ、冷やかされたこと以外は寮で疲れを癒すことができた。
牛丼特盛を15杯を飲むように食べ、ただ只管に寝た。
翌日に起こる悲劇も知らずに。