4話ー宣戦布告ー
次々とデュロルが出現するようになり、世間もただ事でないことに気付き始める。
意図して送り込まれたデュロルは感情を押し殺し、本心を口にしながらも、恐怖と戦っている。
「ボス。山辺 一斗を何故暴れるよう指示したんですか!!」
「そろそろ向こうに焦りを与えようと思ってな」
「焦りったって、強戦力の山辺を何故です!?やられてしまったら……」
「そう焦るな。山辺を倒せるような奴がいれば焦っていい。いるとは思えないがな」
「ですが……」
「口答えするな。山辺を失ったとして幹部らがいる。計画に何ら支障は出ない、安心しろ」
深く息を吸い込んだ。
「テレビを付けろ。そろそろ山辺が生放送されてる頃だろう」
「な、なんだあいつ!!!」
そこには、両腕が異常なまでに発達していて、上腕部から既に太く、肘関節から人1人分あるかのような巨大な腕に、それに似合う巨大な拳があった。
そんなやばいデュロルがチームフエゴの大鎚と対等に殴り合っている。
「ち、チームフエゴのあの大鎚って総重量何キロだっけ?」
怯えるように雪崎が問う。
「通常のモノで1.5〜2トンはあるな」
これでもかと冷静な川崎さん。
1.5トンの塊を力一杯振ってるチームフエゴの1人は片手で受け止められ跳ね返されてしまっている。あのデュロル、どんだけ腕力あんだよ。
すると、チームフエゴの跳ね返されてない方がこちらに気付き、走り寄ってきた。それに釣られ、チームアグアの1人の青年も寄ってきた。
「おい!千歳じゃん!!久しぶりだな!」
「おー!室瀬!!お前チームフエゴでデビューできたんだな!!」
「ああ!!頑張ったんだよ!お、それにあん時の藤長だ!よっ!」
「よっ!モグラ!」
と、ニッコリ笑顔で話しかけてきたのは小学校からの同級生、室瀬 廉だ。
「ほーーんとだ!!チトッセオじゃん!」
「里道!!相変わらず元気してんな!」
「んおぅよ!!俺が元気なくなる時は死ぬ時だ!!」
ニッコリ笑顔の室瀬よりニンマリな笑顔でやってきたのが同じく同級生、チームアグアの里道 浩貴だ。
「ん?よく見りゃあのチームアグアの女性って、高千穂じゃん!!」
「本当だ!クイーンさんだ!」
「元々僕と班長の砂山さんで行くはずだったんだけど、鬼神かもしれないからってタカチーちゃんも着いてきたんだ」
里道が説明するも、普段見れない高千穂の真剣なキリッとした目つきは、違和感だらけなことに気を取られていた。
「おいお前ら、目の前にデュロルがいるんだ、油断するな。それにコードネームで呼べ、カメラも来てる」
究極なまでに冷静な川崎さん。
「本部、俺とシカに抜刀許可を。2人とチームフエゴ、アグアで協力して保護する」
「川崎さん!!俺と藤長にも抜刀許可を!」
「ダメだ。お前らは敵を甘く見過ぎている。あいつに至っては装備が故障してもおかしくない。それに下手したら死ぬぞ」
「僕とウルフで相手するからあそこで見てる人達の避難を急いで!!」
「行くぞシカ!」
そう言うと雪崎と川崎さん、チームフエゴの跳ね返された人とチームアグアの班長砂山、高千穂ら5人で両腕豪腕デュロルに挑む。
豪腕デュロルは大きな交差点の真ん中に陣取っており、やけに目立つ場所にいる。歩道には噂を聞いて駆けつけた野次馬や報道陣らが押し寄せ、警備の人が必死に近づかないように抑えている。
急なデュロルの出没な為に避難が間に合わず、人々が危険の及ぶ場所に居てしまうのだ。
豪腕デュロルにチームフエゴが大鎚でたたみ掛けるが跳ね返され、チームアグアの弓は見切られ叩き潰される。叩き潰されたコンクリートは円を描くようにヒビが入り、砕ける。
とてつもないパワーだ。
チームルナの川崎さんと雪崎のコンビネーションも避けられ、刀が装甲に跳ね返されてしまい思うようにダメージを与えられていないのが見るだけでも分かる。
「ご覧ください!!只今デュロルとエキポナ5人が交戦しております!!」
報道陣は死んでもいいのか?
「あ、それにサボってるエキポナ4人も確認できます」
ピキッ。
「はーい!皆さんさがって!早く逃げて!ここも危ないですよー!」
サボっていた訳だが図星を突かれムキになって野次馬を少し遠ざける。
野次馬の相手より川崎さんや雪崎の立ち回りが気になりちょくちょく確認する。
雪崎が隙を突いて斬りに入るが、装甲に弾かれヨロけたその瞬間。
「ごめん、許してほしい」
振りかざした巨大な腕は弧を描き、雪崎の腹部へ入る。
その瞬間がやけに遅く見える。
打たれた野球ボールのように雪崎は吹き飛ぶ。
ドドドン!
雪崎は俺の視界の外まで吹き飛ばされ、振り向くとビルの6〜8階辺りに穴が空いている。
「雪崎……!?」
野次馬も一瞬で静まり返る。
「このやろおおおおおお!!」
チームフエゴの跳ね返された方が勢いよく大槌で叩きに入るが不発。地面を抉るだけでデュロルにダメージは与えられていない。
叩きつけた大槌をそのままデュロルへ振り上げるが巨大な片腕で止められ、もう片方の手で身体を掴まれる。
おい!あいつを助けろよ!!
この間にチームアグアの班長砂山は道路の上を電車が通る跨道橋に登り弓を構えていた。
「止めてほしい。僕を止めてほしいのに」
デュロルがそう言うと掴んだ腕を振り上げ、地面に叩きつけた。地面は十数メートルほどのヒビが入り、地が揺れた。
「井上さああああん!!!」
室瀬が叫ぶ。あの人は井上って人だったのか。
5人中2人がやられた。今の戦法、新人の俺でさえ分かる。
チームワークが皆無だ。
デュロルは跨道橋の上の砂山に勢いよく向かっていく。地面をダン!と蹴り上げ一気に跨道橋まで飛び上がる。
「わわわわわ!!!」
砂山は焦りながら矢を放つもデュロルに擦りさえしない。
「砂山さん……」
里道がガッカリしたように呟く。
デュロルは体が落ちるのを利用して両腕を跨道橋に叩きつけ、足場を崩す。足場を失いバランスを崩し、落ちる砂山。
デュロルは落ちる砂山と共に落ちながら、両腕を後方に引っ張り攻撃の準備をする。
「痛いかも」
そのままデュロルは両腕を前方に押し出し砂山の腹部を殴り飛ばす。
砂山は視界の右外まで飛ばされ、何かに当たり崩れ落ちる音だけが聞こえた。
両足でガシッと着地するデュロルを目掛け高千穂は弓を引く。
高千穂、デュロル、川崎さんと直線に並んでデュロルを挟む形になっていた。
弓を引く高千穂を見た川崎さんは焦るように走り出し、「やめろ!」と声を発する。
その声は届いてなかった。高千穂は引いてある矢から指を離す。
直線に飛ぶ矢をデュロルは両腕を軸に体を持ち上げて矢を避け、川崎さんの左肩を貫通した。いや、川崎さんが当たりに行ったのだ。
矢の勢いに川崎さんは後方に数メートル飛ばされる。
「川崎さん!!!!!」
思わず叫ぶ。川崎さんに当たらなかったら野次馬の中に矢が突っ込んでいただろう。川崎さんのとっさの判断に救われた。
高千穂はごめんなさいと言わんばかりの表情でただ固まっている。
デュロルは固まってる高千穂に歩いて近づき、膝を曲げ腰を落とし右腕を低く構える。
「ごめんよ、避けるしかなかったんだ」
デュロルは低く構えた腕を天に突き刺した。
宙に舞う機械の弓と装備と高千穂。
落ちてくる高千穂の元に俺は走り寄り、両腕で高千穂をガッシリと受け止めた。足に衝撃が伝わる。
気を失っている高千穂をそっと地面に寝かせて、デュロルを見やる。
「ボスの言った通りだった」
俺らは唖然とした。
「5人がかりでやられた……」
ジジッ
「お前らそこで固まってないで逃げろ!」
んなマネできっかよ。
「5人がかりで傷1つつかないなんて、君強いね」
里道が感心したように言う。
「ああ、全くだ」
同情する室瀬。
「けど、あまいな」
腕を組む藤長。
「チトッセオ、あんたに従うよ。砂山班長がやられるなんて思ってもなかった」
「お前ら、あいつをぶっ飛ばすぞ」
ジジッ
「ケンシ!!命令違反だぞ!!」
ジジッ
「あいつを見放しにはできない!」
ジジッ
「ウルフでさえ歯が立たなかった奴らだぞ!!」
知るかボケ。
「グハハハハハハ!やっぱり山辺に敵う奴すらいないへっぽこ集団だったか!」
「山辺の力を見くびってました」
「だろ!俺直属の部下だ、菅岡みたく甘ったるく育てねえ」
「仰る通り。ん?サボってた4人組が山辺に向かっていきますよ!?」
「お、なんだ死ににいくのか。見届けてやろう、山辺の勇敢な姿をな!グハハハ」
「きみ達も僕とやりあうの?」
「お前をぶっ飛ばしにきた」
「さっきの見てなかった?きみ達より顔の知れてる人がやられてたんだよ?向かってくる勇気は凄いけど、やめといた方がいいよ」
「勇気?そんなん無えよ。俺らはお前をぶっ飛ばす!ただそれだけだ!!」
「痛い目にあっても知らないからね」
「その言葉お返しするよガキンチョ」
「ガキンチョはないだろ千歳〜」と笑いながら室瀬は言う。
ジジッ
「いい加減にしろお前ら!!」
カッチン。
ジジッ
「何が加減にしろだ!!こんな危ねえ奴を放っておけって方がどうかしてるぞ!!」
ジジッ
「命令だ!!ただちに……」
ブチッ
「千歳、なんだって?」
「知らん、切った」
深く息を吸う。
「お前ら!!構えろ!!考えてることは一緒だろ!一気に片付けるぞ!」
「それでこそ千歳!」
「よっしゃ!!」
「本当に来るんだね、知らないよもう!」
俺は勢いよく刀を抜いて構える。
左利き(サウスポー)の藤長も刀を抜く。室瀬も大槌を構え、里道も弓を構える。
デュロルは両腕を振り上げ、地面に叩きつけるが、俺らには当たらずただ地面にヒビが入る。
「あんなんに当たったら堪ったもんじゃないね」
藤長が言う。
「読んだ!!」
室瀬が叫ぶと、デュロルの腹部へ入り込み、大槌を思いっきり振る。弧を描いた大槌の柄頭は、デュロルの装甲がガラ空きの腹部へ直撃する。
ガガン!!!!
デュロルは少し後方にヨロけた。
「ひえ〜〜!かってぇ!!」
デュロルはすかさず左腕を振り上げ思いっきり殴る。
ギーン!!と力の限りぶつかる音が響く。
「なーんてな、油断してんのはどっちだよデュロルさんよ」
室瀬はデュロルの左腕の動きを空中で止めた。後ろから藤長が入り込み、鞘にしまっていた刀のアクセルを握りしめる。
甲高い擦れる音と共に抜刀された柄の先を、デュロルの左腕へと直撃させる。
藤長の柄先と室瀬の大槌に挟まれたデュロルの左腕の装甲には、大きくヒビが入っては砕ける。砕けたヒビから血が流れ出る。
「左腕は抑えた!!」
その声に反応し里道が飛び上がり弓を構える。
右膝を地面に落としたデュロルの脹脛目掛け矢を放つ。
矢は脹脛を貫通し地面に刺さる。
「やーーりーー!!!いけ!チトッセオ!!」
「ちょ、ちょ!!」
俺はデュロルの真正面に入り込む。デュロルは右腕を振り上げ、俺は刀を振り上げた。
「させるかよ!!」
室瀬は振り上げたデュロルの右腕に大槌を叩きつけて跳ね返し、デュロルの重心を後ろに崩した。そのお陰で腹部がガラ空きになる。
「覚悟はできてんだろうな!!」
「や、やめ!!やめてくれ!!」
「暴れちまったんだ、これくらいは覚悟しとかないとな!!」
ガッ!!!
振り上げた刀をデュロルの右胸部から斜めに振り下ろす。
デュロルは刀の流れるままに倒れた。
「おい!!!!鬼神!!!!どうせ見てんだろ!!俺はてめえらを許さねえ!!覚悟しとけよ般若やろうが!!!!」
カメラに向かって叫んだ。
バッチシ決まったぜ。
「な、何ということでしょう!!先程までサボっていたエキポナの4人が、なななななんと!無傷で、しかも一瞬であのデュロルを倒してしまいました!!」
「驚きですね……。まさか今日デビューの無名の新人が、英雄『ウルフ』を戦闘不能にさせたデュロルを……」
「これは次の世代を担う者の登場と考えていいのではないでしょうか」
「凄え。なんだあのエキポナ達……」
「あんな強かったデュロルを無傷で」
「あいつらみんな顔知らねえぞ??噂の新人か??」
「さっきのチームワークといい、新人だなんて思えねえ」
野次馬らがザワザワしだす。
俺は息を思いっきり吸い込む。
「俺は千歳 努だ!!鬼神、お前らを壊滅させてやらぁああぁ!!!!!!」
「あの、バカめが。鬼神にケンカ売りやがった。しかもコードネームじゃなく本名で」
「がっはっはっ!!さすがは俺の弟子だ!!根性決まってやがる!がっはっはっ!!」
「笑い事じゃねえ峯岡!千歳には驚いたが、新人が未知の敵に宣戦布告なんて前代未聞だぞ!しかも本名で!」
「そんな常識に囚われるなって!あいつにゃ常識が効かねえ!」
「何をそんな嬉しそうに。呆れたぞ峯岡」
「がっはっはっ!!他の奴らの連携も並外れてるぜ!合同訓練の時以上の動きだな!がっはっはっ!!笑いが止まらねえ!!」
「はあ……」
「や……山辺が、倒された……!?」
「千歳か。面白い奴だ。覚えておこう」
「山辺を倒せるほどの戦力ありましたよ!?!?大丈夫なんですか!?もしかしたら僕らも……」
ガッ!
「今、何て言おうとした……??」
「な、ガハッ!何ぼいぼうどじでまぜん」
「俺らがあんな餓鬼に壊滅させられる……とでも?」
バッ!
「ハァ!ハァ。いえ、そんな事はありません。決して」
「そう、あり得ねえ。あり得ねえんだよ」
「ナイスだぞ新人!!いや!千歳!!」
野次馬が歓喜に溢れかえっている。
「千歳、お前だけ人気になってズルいぞ!」
室瀬が羨ましそうに俺を見てくる。
すると、アナウンサーらしき人とカメラが近づいてきた。
「インタビューしてもよろしいですか!!」
エキポナ戦闘不能者5名、一般人負傷者3名。山辺 一斗 戦闘不能。