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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
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3話ー噂の逸材ー

 

 街中で突如暴れ出したデュロル。それを対処しに千歳達は急いだ。


 デュロルは人質を抱え廃工場へと逃げ込んだ。


「藤長は裏に回れ!!」


「OK!」


 閉まってる門を飛び越え、工場の敷地に入る。何年も使ってない程ではないが、2、3年は人が立ち入ってないような廃れ具合で、投げ捨てられた空き缶やガラス片がちらほら見える。


「あいつどこ行った!」


 周りを見渡すが、奴の姿がない。


「たすけ……!!」


 工場の倉庫の中から一瞬、女性の叫ぶ声が聞こえた。声が聞こえた方へ急ぐ。


 倉庫の中は天井が広く、木箱や段ボールが山積みになっていた。吹き抜けの二階のガラス窓から差し込む日差しに埃が舞って見えている。


「お、おい!これ以上くるな!」


 吹き抜け2階の柵から身を乗り出し、人質の女性の口を塞いでいるのを見せつけてきた。


「嫌だ!降りてこい!」


「これ以上近づいたら、こいつの命も無いぞ!」


 女性は目から大粒の涙を流し、助けてと訴えかける眼を見せる。


「その人を離してくれ!頼む!じゃねーとぶっとばすぞ!」


ジジッ

「ケンシ!挑発はよせ!あの女性が危ないだろ!」


「そっか、すまん!さっきのは忘れてくれ!」


 デュロルは戸惑いを見せつつ続けて話す。


「お、お、お前の他に仲間はいないな!?」


「別ん場所にいる!けど今は1人だ!」


「ぼぼぼぼ僕は今からでも助かるのか!?」


「ん〜助かりたいんか?」


「……」


 表情のない装甲に包まれたデュロルの顔からも深く考えているのが分かった。


「た、助かりたい」


「じゃあ何であんなに暴れたんだよ!関係ない人の命まで奪いやがって!」


「僕にはもう、ああするしかなかったんだ!!戻ってもあの人に殺される。ジッとしてても見つかりゃ殺される。だったらこの苦しみを他の人にも教えてやればいいって思ったんだ!!僕はデュロルなんだ、エキポナにも見つかったら殺される!!」


「そっか!まず助かりたいんなら、その人を離してからだ!」


 奴はしばらく考え込む。


ジジッ

「あの人を離したら抜刀許可を」


ジジッ

「許可はまだだ」


 デュロルが一瞬女性を離した。


 パリィン!!


 デュロルの後ろのガラスが割れ、藤長が勢いよく肩から飛び込み、その勢いでデュロルの背中に突っ込んだ。


 デュロルは柵を破壊して下の木箱に落下し、舞い上がる埃に視界が曇る。


「藤長は女性を頼む!」


「任せろ!」


 デュロルは崩れた木箱を両手で振り回して退()けた。


 すかさずデュロルに飛び掛かり、地面に押さえつけた。


「助けるんじゃなかったのかよ!!」


「それっぽい事は言った!けどな!あんだけ人を殺しといて助かりたいなんざ贅沢が過ぎるぞ!」


「ケンシ!もう1人の男性がいないぞ!」


「おい!もう1人はどこだ!!」


「教えるかバーカ」


「言わねえ気かこのヤロー!」


ジジッ

「ケンシ!菅岡にそいつの姿見せたら、仲間だそうだ。黒潮(くろしお)ってらしい。そいつを保護してくれ」


 保護だ!?!?捕食以外の殺人を犯したデュロルは保護しないんじゃないのか!?


 黒潮は俺の腹を蹴り、そこを爆発させる。


 二階の高さを超えるほど吹き飛ばされ、木箱の山に叩きつけられる。


「ケンシ、この女性を頼む!」


 微かに聞こえた藤長の声。


 完璧に油断した。


 その時、「油断が命取りになる」と川崎さんからの言葉が(よぎ)った。


 俺は木箱の破片を退かし、女性の安否を確認する。


 ゲホッゲホッ。さすがに埃の量が多いな。


 ドドン!


 倉庫の外で爆発音が聞こえ、音のした方へ走った。


 外に出ると、倒れ込んだ藤長の姿が見える。


 俺は黒潮の後ろから突っ込む。が、繰り出した殴り蹴りは避けられ、爆発する右ストレートを左肩に一撃くらった。


「痛え!お前はぜってえ俺がぶっ飛ばしてやるからな!」



 (千歳、あんなに殴られて吹き飛ばされても懲りずに立ち上がってる。あいつは前からそうだった。1つの目標を決めたらやり遂げるまで命捨てる覚悟で挑みやがる)



ジジッ

「本部、ケンシに抜刀許可を。あんだけ怒鳴り散らしてるケンシにも一応考えはあるんですよ。いつどこでメディアに撮られてるかわかりませんし。ただ保護なんてしたら被害にあった人達から反感くらいますよ。ここはあいつに任せてください」


ジジッ

「しかしだな、いくらケンシでも」


ジジッ

「あいつを信じてください!」


ジジッ

「う〜む。だが……」





「しぶとい!しつこい!!鬱陶しい!!!!いい加減くたばりやがれ!!」


「ふざけんな!お前がくたばれ!!」


 (ありゃ完全に怒ってるな千歳のやつ)


「今僕をこんな目に合わせてどうするつもりなんだ!!死んでいった人間は戻ってこないのに!?」


「今お前を倒さなきゃ殺されてった人たちが死にきれねえだろ!!」


「僕は僕の苦しみを親切に教えてあ!げ!た!の!」


「誰も望んでねえこと勝手にすんな!」


ジジッ

「ケンシ、抜刀許可だ」


 きた!やっとか!


「お前はそんなに自分の辛さをわかってほしかったようだな。そんじゃあ、俺もお前に教えてやるよ。お前の身勝手で命を奪われてった人達の気持ちをよ!!」


 今の今まで(ただ)の飾りに過ぎなかった刀を抜いた。




 "刀には色々な人の想いが詰まってんだ。だから、刀を抜く時ってのは想いを込めた人達の願いを叶える時。その想いを踏み捻るようじゃぁ、剣士失格だ"




「よし、お姉さんと何処(どっ)かにいるおじさんを助けに行こっと。まずおじさんを探さなくちゃ。ケンシ!!行ってくる!!」


 俺は頷き、黒潮に切っ先を向けた。


「デュロルとして、いや、人間として。人を(あや)めるってのは______」


「うるせええええええ!!かっこつけんな!!!!!!」


 ガッッ!!


「______その道で人生(かくご)決めるってことだ!!」


 刀についた血を一振りで落とす。弧を描いて地面に落ちる血。


 刀を鞘にしまう気持ちのいい音が響く。


「おいケンシ!人質両方助かったぞ!おじさんは奥の部屋に閉じ込められてた!」


「そっか!よかった!!」


 黒潮は左脇から溢れる血を手で必死に止めようとしている。


「お、お……!」


「なんて??」


「俺が……殺してきた、はぁ、はぁ、人達は!こんな思いしてたのか……」


「ああ、もっと辛いだろうな。その人はお前の知らない、その人だけの辛さをも背負って必死に生きてたんだ。お前だって辛いことがある上に、他の奴が辛いからって八つ当たりしてきたらどうだ!泣きたくなるほどムカつくだろ!!自分で乗り越えろ!その強さを持て!!乗り越えられないなら、俺らを頼れ!!自分の意思で頼れ!!その為に俺らがいる!!」


 黒潮は左脇を抑え、横になりながら地に頬を着ける。


「斬りでもしねーと世の中やら上がうるせえからな、お前を保護する。だが勘違いすんな、今のお前を俺は許さない」


 黒潮はその言葉を聞いて、力が抜ける。


 死者3名、負傷者16名。黒潮(くろしお) 和希(かずき) 戦闘不能。





「千歳。噂通りの逸材だな。ローラーの力を借りずしてデュロルの装甲を切断するとは。峯岡、お前が訓練したのか?」


「俺は少ししか教えてねえよ。千歳の家系はそうゆう血が入ってるもんでな。あいつの爺ちゃんは、俺がガキん時の師匠やってたんだよ。あの独特な構え、ジジィにそっくりだ」





「エキポナさん。ありがとうございました」


「本当に、なんとお礼したらいいか」


「いいんだよお礼なんて!俺らのこの活動ができてるんはあんた達のおかげだからよ!気にすんな!なっはっは」


 2人は深々と頭を下げ、廃工場を後にする。俺らも追うようにして、黒潮の身体を肩に担ぎ廃工場を後にしようとした。


 廃工場の門付近には噂を嗅ぎつけたマスコミやら野次馬が待ち構えており、人質の2人は獲物を狩られるように捕まった。


 その瞬間を見ていた俺らは裏口から周り、ビルの合間を直走って行く。





ー同日14時ー


「お疲れ様!!見たよニュース!!!噂になってるね!」


 帰ってきて早々高千穂が出迎えてくれた。


 ん?


「ニュース?もうニュースになってんのか!?」


 ここ最近デュロルが頻繁に現れてはJEAが対処し、ニュースに取り上げられている。


 昔と違い、今はエキポナの印象も良くなり、国民を守るヒーロー集団となっている。


 そして今日、俺がニュースデビューを果たした。


「無名の新人!到着してから死者怪我人ゼロ!」


「いやーこれから期待できますねー」


「本当だ!!俺が行った場所だ!!しかもこのインタビュー受けてるの助けた人だ!」


「おい俺吹き飛ばされた部分しか撮られてない!!」


「そう落ち込むなって藤長!お前も今日俺とニュースデビューだ!!なっはっは!」


「いいな〜私もニュースで報道された〜い」


「千歳、ご苦労だった。黒潮は今眠っている」


「お!無事だったか!ちょっと深く切りすぎた気がしてたから!」


 活躍がニュースで放送されれば知名度も上がり、かなり有名になってくると個人にスポンサーがつき、装備の改良や改造の支えになってくれる。有名になればCMや企業広告にも起用され、企業側も大きな利益となる。


 だが、ニュースにされるのはいい事ばかりではない。





「おい、このニュース。やられてんの黒潮じゃねえか」


「確かに!こりゃウケるぞ!黒潮って確か結構強かったよな。誰だこの無名新人ってやつぁ」


「見ねえ顔だ。派手な銀髪しやがって」


「これで、種は撒けたんじゃねえの?」


「ああ、今日全国放送を奪う予定だ」


「さすが、準備が早えぜ」





ー同日18時ー


 いつもやっている夕方のニュースが突如切り替わり、背景黒の何もないところに般若のお面を被った人物が映し出された。


「みなさん、お久しぶり。鬼神(アラハバキ)です。約束の時間を言い渡してから9年半。あと半年です。JEAは『薬』を開発してくれるのでしょうか?10年もの月日が経って約束を守れなかった場合、どうなるかは分かっていますよね。では、ご機嫌よう」





「おい!なんだ今の放送は!」


「クソ!鬼神動き始めやがった」


「研究は進んでいるのか!!」


「いえ!何も……」


「何をやってきたんだこの9年間!!」


「デュロルをいくら調べても装甲と黒い皮膚のある見た目以外が……その」


「なんだ!!!!」


「人間と何ら変わらないんです。そんな奴らが人間を捕食しないでいい薬なんて作りっこないですよ!」





 俺らは川崎班の4人でラーメン屋のラーメンを食べてる時に、置いてあるテレビでこの放送を見た。


「川崎さん、こいつが鬼神なんですか?」


 箸を止め、食い入るようにニュースを見る川崎さん。


「ああ、そうだ……」


「全国ニュースに流すなんて、挑発的ですよね」


 雪崎が箸でチャーシューを突きながら言う。


「ここ最近デュロルが暴れる事件多いよな。なんか鬼神(こいつ)らと関係あるんかな」


 藤長が箸を置き腕を組みながら言った。


「もしかしたら、鬼神に作られたデュロルが指示で動いてるのかもしれない。今まで騒ぎを起こすデュロルはいたが、今日みたく人を殺める奴はいなかった。黒潮みたく取り乱したやつが今後でてきたら厄介だな」


 川崎さんが冷静に言う。


「あいつらって9年半前に出てきて、薬を開発しろって言ったんですよね?JEAはそれを開発できてるんですかね」


「開発できてたらお偉いさん方はこんなに焦らないだろうな」


「どうゆうことっすか!!」


 藤長が大声を出す。


「恐らく、デュロルの研究はほぼ進んでいないだろう。今になって焦ってきたお偉いさんは研究より鬼神の仲間であろうデュロルを保護し情報を聞き出すことに力を注いでるんだろうな」


「だから菅岡も黒潮も保護しろって言ってたんですね」


「千歳と藤長は黒潮が何か怪しいこと言ってたの聞いた?」


 雪崎が問う。


「そうだな〜2人とも『あの人』ってやつから逃げてるようだった」


 俺らは会話を踏まえながらラーメンを啜った。


 ドォォオオオン!!!


 凄まじい地響きと共に鼓膜の破れるような爆音が響いた。


「げっほ!!げほ!」


 雪崎は()せた。


「この近くだ!!行くぞお前ら!おっさん!!代金は置いとくぞ!」


 川崎さんが先行する。


「本部!今千代田区で爆音を確認した!対処してるチームはあるか?」


 俺らはひたすらに川崎さんの後ろに着いて走る。


「そうか。援護に向かう」


 川崎さんは俺らに声が聞こえるように顔を少し後ろに向けた。


「今チームフエゴ2とチームアグア3名が交戦中。俺らは援護に向かうぞ!」


「おっしゃ!!」「了解です!!」


 つい先程まで食べていたラーメンからは想像もつかないほどの緊張感が走る。




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