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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
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2話ー動き出すー

 初任務を終えた千歳と藤長。


 深い傷を負うことなく本部へと戻った彼らに、キンキン声の女の子が祝福する。


 東京本部に戻り、装甲車両を降りた先の出入り口で、任務用の頭部モニターを外す。


 すると、俺の師匠でありチームルナのトップに君臨する峯岡(みねおか)のおっちゃんが出迎えてくれた。


「千歳〜藤長〜死ななかったな!」


 笑顔で近づき、俺と藤長の背中を手の平でガコッと叩いた。


「こんなとこで死んでられねえ!」


「生意気な!でもな、もっと強い相手だったらあの立ち回りはダメだ。チームの連携を大切にしろよ!」


「おう!!」「はい!!」


 俺と藤長で元気よく返事をする。


「川崎と雪崎もありがとな!川崎はそいつを地下10階の……あそこだ!あそこに持ってってくれ!」


「しっかりしてください」


 冷静に突っ込む川崎にガハハハと笑いながら肩を組む峯岡のおっちゃん。


 川崎さんは表情一つ変えずに峯岡のおっちゃんから抜け出し、地下へと菅岡を運んでいった。


 俺は日本エキポナ軍「J(japan)E(ekeypona)A(army)」に所属する機械人間(エキポナ)だ。


 JEAは大きく7つのチームに分かれ、その中で細かく部隊構成されている。


「チームスアロ」

 警備、ボディーガードを主とする仕事。

 依頼があった会社や企業、個人の護衛をする。


「チームオロ」

 エキポナの治療救急、武器開発や身体強化指導部隊。

 現場での負傷者やエキポナの故障などを即座に対応し、命や働きを助ける。

 また、チームオロは戦闘部隊ではない医療機関兼開発機関のため、特殊な訓練と試験、勉強が必要になる。


「チームアルボル」

 エキポナの戦闘部隊。主にシールド、科学的バリアー、格闘術を使った戦法をとる。

 他部隊の支援や協力を主とする。


「チームアグア」

 エキポナの戦闘部隊。主に長距離を中心とした戦法をとる。

 銃を使う者もいるが、威力が制限されてしまうため、弓を主体とする。

 研ぎ澄まされた集中力と、風を読む力、行動予測、的確な射撃といった、頭の回転の速さと技術を求められる部隊。

 弓には、数種類の矢があり、相手次第で矢を変え、その戦闘に有利になる仕様になっている。

弓を放つ際に威力が格段に上がるローラーが付いており、それを作動させることによって貫通力の優れた矢を放てる。


「チームフエゴ」

 エキポナの戦闘部隊。主に打撃を中心とした戦法をとる。切断系ではダメージを与えられない敵などを相手とする。

 大槌や小槌、メイスなど武器も多様。圧倒的な筋力を必要とされる。

 大槌にはジェット機能が付いており、振り下ろしや振り回しの際に、威力が格段に上がる仕様になっている。


「チームルナ」

 エキポナの戦闘部隊。主に切断を中心とした戦法をとる。大剣や斧などの武器もあるが、性能的に、日本刀をモチーフにした刀"鋼椿(はがねつばき)"が優れているため主に使用される。筋力と技術、判断能力、立ち回り力が必要とされる。

 刀の鞘には、ローラーが付いており、刀の柄にあるアクセルを握ることでローラーが回り、抜刀する際のスピードと威力が格段に上がる仕様になっている。


「チームエル・ソル」

 エキポナの最高戦力部隊。チームスエロ、チームオロ以外の各戦闘部隊から、戦績や功績の良い人を集め、他部隊の敵わない手強いデュロルなどの相手を主とする。

 各戦闘部隊からの精鋭中の精鋭で形成されるこの部隊は、それぞれ特殊に改造された武器、アーマーを使い、完璧なチームワークを作り出す。

 チームエル・ソルは4つに分かれ、それぞれに各部隊から1名ずつ配属される。計16人の精鋭たちだ。


 そんな凄えチームエル・ソルの大阪チームに、今度峯岡のおっちゃんが配属する。東京本部(ここ)からいなくなるのは寂しいが、俺の師匠があのチームに入るなら嬉しい限りだ。


 休憩できる広場に移動中、峯岡のおっちゃんは指令棟へ向かった。


「今任務の会議って何時からだっけ?」


 俺の問いに藤長と雪崎は首を傾げた。


「多分、21時半とか?だったかな?」

 

 雪崎が不安そうに答える。


「ちっとせく〜〜ん!ふじながく〜〜ん!」


 遠くから甲高い声が聞こえてくる。


「この声は!高千穂だな!」


「さっすが千歳くん!大正解っ!」


「よっしゃー!商品は何だー!」


 高千穂は俺と藤長が他部隊合同訓練の際に知り合ったチームアグアの弓使いだ。茶がかった金髪のショートで、実力は半端なく凄い。こんな性格なためにギャップが激しすぎる。


「初任務お疲れ様ぁ〜〜!無事でよかったね!」


「すっげえ無事!腹蹴られたんだけどさ!痛くも痒くもねえの!」


 俺は腹をポンポンと叩きながら言った。


「うん、だって千歳くんだもんね!藤長くんは?大丈夫?あっ!雪崎さんこんばんわ〜!」


 あっちこっち忙しいやつだ。でも皆から好かれる理由がわかる気がする。


「たかつ……たたっ。んん!高千穂も今日初任務だったんだろ?」


 あれ、藤長やけに緊張してる。初めて会った時から藤長こんなだったっけな。こいつ女の子にめっぽう弱いから仕方ないけど。


「私も今日だよ!さっそく1人やっつけちゃった!」


 満面の笑みで答える高千穂。


「この容姿とのギャップが可愛いよな」


 俺が藤長に耳打ちするように小声で言う。


 藤長は顔を真っ赤にして答えた。


「そ、かわっ、かわいい、うん。そうだな」


 あっ!みんなそろそろ戻るね〜じゃね〜、と手を振り、帰っていった。


「藤長、お前なんだその手の振り方。貴族かよ」


 上品に上〜〜品に手を振っていた。



ー同日21時半ー


 今任務の会議が始まった。


 任務に行った俺ら4人と、チームアグアの原田さんが半円形の机に均等に座り、モニターで映し出されるスクリーンの横に、指令官だったチームルナのお偉いさんが立って仕切っている。


「今任務の対象者である菅岡を取り調べた結果、やはり鬼神(アラハバキ)に作り出された被害者であることが判明」


 なるほど。ここで、俺から鬼神(アラハバキ)の説明をしておこう!


 鬼神(アラハバキ)は今から9年前、東京本部の前に建つビルの屋上に突如現れた主犯6人のデュロル組織だ。当時6人は足首まである黒のロングコートを着てフードを被っており、顔も認識されていない。


 鬼神(アラハバキ)の目的は「デュロルが人間を捕食しなくても生きれる薬を開発しろ。10年時間をやる。10年後までに完成してなければ、日本各地で大量殺人を行う」とのことだ。この要求の後、鬼神は姿を消し、1年間に及ぶ十数名の子供の誘拐、拉致を行った。


 鬼神は子供を誘拐し、約束の時間までに子供達をデュロルに育てあげ、大量殺人に利用しようという考えだろう。


 鬼神が現れてから1年の間に誘拐され、デュロルにされてしまったのが当時8歳の菅岡(すがおか) (たける)だ。つまり、俺と同級生って訳だ。


 子供は大人より心の変化が激しく、心の傷も深く残る。つまり、大人より子供の方がデュロルになりやすいという事だ。


 菅岡も、誘拐されて酷く脅され、雷に関連したことを叩き込まれたんだろう。デュロルが人間を捕食しなくても生きれる薬ってのは良いことだが、それを俺らが開発できないことを解っているような行動だった。


 十数名の無垢な子供が被害に。鬼神だけは許せない。


「鬼神が本格的に動き出した」


 その言葉がボーッとする俺の耳に入った。


「え!?」


「なんだ千歳、大声出して」


「いや、なんでも……」


「話聞いてなかったのか!?」


「すみません!」


「あーもー!もう一回説明してやる。菅岡は鬼神のところから逃げてきたようだ。もう1人一緒に逃げた奴がいるらしいがな。菅岡は鬼神のトップに犯行計画を言い渡され、それが怖くて逃げ出した。つまり、約束の時間を来年に控えた今、鬼神が本格的に動き出した」


 バンッ!


「鬼神だけは許せねえ!!人間を何だと思ってやがんだ!!」


 藤長が机を叩いて叫ぶ。びっくりした。雪崎も胸元をおさえている。


 藤長が真剣な表情を見せる。


「俺も鬼神を許せねえ!!」


 俺も負けじと声を張る。


「お前ら、勢いに身をまかせるなよ。菅岡は厳重注意デュロルだ。鬼神に作り出された子供ら皆が厳重注意デュロルの可能性だってあり得る」


 その後、俺らの反省点など事細かく指摘され、会議兼反省会は終わった。


 デュロルは能力によって呼び名が変わってくる。


 自然の能力(ちから)を持つ者は厳重注意デュロル。


 体の一部が極度に発達した者は要警戒デュロル。


 上の2つにも属さない能力(ちから)を持つ者は特異型デュロル。


 それほど危険でないごく一般的に対処される者を一般デュロル。


 この4つの呼び名が指示やニュースなどで呼ばれる。





ー翌日ー


「菅岡と黒潮(くろしお)はどこ行った」


「菅岡はエキポナに捕獲されました。黒潮は居場所が分かりません」


「そうか、あいつらはもう放っておけ」


「いいのですか?我々のことを話されてしまいますよ」


「いいさ、話されたところで俺らを止めるほどの戦力は持っていないだろ。(いず)れにせよ今年中には脅しを入れるつもりだ」


「そうですか。いよいよ1年後ですからね」


「ああ。おい上河原(うわがはら)!カメラを回せ」




ー同日午前10時ー


(みにく)い」


 男は歩道の真ん中で通り過ぎる人混みをただ眺めていた。


 邪魔だな。そんな言葉をかけられながらも。


「僕がこんなに苦しんでいるのに皆は楽しそうにしやがって」


 人混みは自然と独り言の彼を避ける。


 きゃーーーーー!!


 突如街に響く女性の叫び声。静まり返り状況を把握した人々が慌てふためき騒然と化す。


「誰か!!JEAに通報しろ!!早く!」


「みんな避難しろ!!」


 悲鳴の中に呼びかける正義感の強い人らの声は、自分の命を優先する人には届かず。


 ドン!ドン!!


 次々にビルに反響し鳴り響く爆発音。





「他のチームは任務に出ていて間に合わない!チームルナのウルフ班!出動願う!!東京都港区でデュロルが無差別殺人を行なっている!!急いでくれ!!」


 突如出た出動命令。俺らが現場に到着した頃にはもう既に遅かった。


「なんだこれ、地面やビルの壁が……穴だらけじゃねえか!!」


 抉られたような穴からは煙が出ている。多くの人が倒れ、肉片も飛び散り、その場を言葉で表現するのは難しいが、あえていうなら地獄絵図だ。


「俺とシカはまだ息がある人を優先して助ける!ケンシとカマキリは近くにデュロルがいないか見てこい!!」


 この悲惨な現場に耐えきれず吐くかと思ったが、狼狽(うろた)えてはいけないと、走った。


「許せねえ。罪のない人々をこんな目に」


 藤長が声を低くしてそう言う。


「ああ!見つけたらぶっ飛ばしてやる!」


 すると遠くから、ビルを伝って爆発音が聞こえた。


「あっちだ!!まだそう遠くにゃ行ってねえ!」





「まだエキポナ達は来ねえのか!!」


「どんだけあいつ暴れれば気がすむんだ!」


「化け(もん)だ。あんな奴相手じゃエキポナだってやられちまう!」





「見えた!!行くぞ藤長!!」


「わかってら!!」





「エキポナだ!!」


「やっと来たか!!!助けてくれ!!」


「騒ぐんじゃねえ人間ども!!」


「こ、こっちに来る!」





「てんめええええ!!!」


 俺はデュロルの背中に飛び蹴りをくらわした。


「デュロルが……!?吹き飛んだ!?」


ジジッ

「本部!早めに抜刀許可を求めます!」


ジジッ

「わかった。だがまだ待て」


 また待つんかよ!早めに片付けた方がいいに決まってるんに!!


 藤長が倒れているデュロルにかかと落としを仕掛けるが避けられる。


「少しゃやるな」


「いけエキポナの兄ちゃんたち!!」


「見てなねえで早く逃げろ!!近くにいたら危ねえだろ!!」


「ケンシ!!!」


ドゴン!!


「ん"!!」


 俺は30メートルほど吹き飛ばされた。何だ今のは!


「なるほど、触れた部分を爆発させる能力か。ケンシ無事か!」


 あんだけ吹き飛ばされたのに何ともない。


「大丈夫だ!」


「あれが当たっても立ち上がりやがった……」


「エキポナは本当に凄かったんだな。今まで生で見たことなかったから信用なかったけど」


「邪魔すんなよお前ら」


「何の邪魔だ!人を殺すことを止めねえわけねえだろ!!」


「僕の苦しみを教えてあげてるだけだ!それの邪魔をすんなっての!!」


「お前の苦しみだぁ……!?」


「そうだ!僕が今までされてきた苦しみを何も知らねえ人間どもに教えてあげてんだよ!親切だろ!?」


「お前が苦しかったからって関係のない人がその苦しみを知る必要はねえ!!身勝手で奪われた命の方がお前なんかよりよっぽど苦しいんだよ!!」


「あ、そっか。 殺しちゃったら苦しみ分からないで死んじゃうんか!」


 そう言うとデュロルは野次馬の方へ走り出し、1人の女性と1人の男性を抱きかかえて逃げた。


「あのやろおおおお!!!」


「待てよケンシ!!」ジジッ「シカさん!こっちの人を手助けお願いします!」


 デュロルは廃工場の中へと逃げ込んだ。




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