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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
27/144

26話ー頼み事ー

 鬼神幹部 上河原に劣勢な室瀬達。


 勝ち筋が見えたかと思われたが、上河原にも奥の手はあった。


ー北海道 某所ー


猪突遠投(ちょとつえんとう)


 上河原(うわがはら)は手のひらを俺に向けて握ろうとしていた。


室瀬(むろせ)くん!!!」


「モグラくん!!」


 水戸部(みとべ)は上河原を阻止するために矢を放つ。


 上河原は一歩下がって反対の手で矢を掴み、素早く手を水戸部に向けた。すると先端が捻れた大木は水戸部を向いた瞬間に回転しながら飛んで行く。


「水戸部ええええぇぇえ!!!」


 俺らは開いた口が塞がらなかった。


「ぐふぅ……はぁ……っ!」


 先端が尖って捻れた大木は水戸部の腹部を貫いて大岩に突き刺さり、円形に窪ませてヒビが伸びていた。窪んだ大岩のヒビに血が伝う。


 足が地に着かずに浮いてる水戸部は、もがくことも出来ずに苦い顔で(しわ)を寄せる。それでも弓と矢は手放さなかった。


 水戸部はなんとか弓を構えようと腕を上げようとするが、腕は震えて力が抜けるようだった。


 水戸部の顔を見て、装甲輸送機の中で話してくれたことと、あの笑顔を思い出す。


 そうだよな。



 お前はそれでも、諦めてねえんだよな。



 俺ら3人は別々の場所で、傷だらけで血だらけの身体を叩き起こし、両足で地面を掴んだ。


「んぐふふふふフ!!まだ死なないんダ!飛行機が落ちるほどの技だヨ!」


 俺らは黙って立ち続けた。


「君たちは僕のことを知らないからサ、そうやって攻撃してくるんだよネ」


「……」


「教えてあげるヨ、僕の悲惨な過去ヲ。あれは僕が7歳の時の話ダ、僕はイジメを受けてタ。そして僕……」


「興味ねえ!!!」


「……エ?」


「お前の過去話聞かされて、へえそうなんだじゃあ犯罪犯しても仕方ないねってなる訳ねえだろ!!」


「うるさイ!!僕のこと知らないくせニ!」


「ああ知りたくもねえよ!過去を理由にして人の命を奪うクズなんてクソほど興味ねえ!!」


「僕だって必死に生きてんだヨ!」


「被害者だって必死に生きてた!人は色んなこと抱えて生きてんだよ!デュロルになったから人の命を軽く見る?は?命は命なんだよ!!」


「僕がどれだけ辛い目にあったカ……知らないだロ!」


「辛い目にあったのが自分だけって思うな。ここにいる奴らはみんな辛いこと抱えてんだよ!!それ抱えてここに立ってんだ!!」


「嘘ダ!!じゃあなんでデュロルになってないのか説明してみろヨ!!」


「乗り越えたからだ!!」


「……!?」


「辛いことがあったら乗り越えてきてんだ!ここにいる奴らは諦めなかった!お前みてえに過去にしがみ付いてわぁわぁ泣いて可哀想な自分を演じる弱っちぃ人間じゃねえんだよ!!」


「……知らないヨ、乗り越えれないことだってあるサ」


「そうかよ、てめえと話すことはもう無い」


 俺は大槌を強く握りしめた。


「……わかっタ。じゃアもう一発食らってみナ、立つ力すらなくなるかラ」


 上河原はもう一度手のひらを空に向け、違う場所の茂みを揺らす。同じ形状の大木が姿を現わす。俺に手のひらを向けた。


 俺は拳を握りしめる。


「んぐふふフ。猪突遠……」


「当……たれ!!」


 水戸部が放った渾身の矢は、上河原の右手首からやや肘よりを射抜いた。矢の重さに引っ張られ、手のひらは地面を向く。


「……!?……いいいいいいイ!!!」


 上河原は矢の刺さる右腕を力付くで俺に向け、手を握り、その瞬間に右腕は力が抜けるようにブランと垂れた。


 先端の捻れた大木は俺に向かって飛翔する。


 水戸部が作ってくれた最大のチャンスを逃すわけねえだろ!!


「うおらああああああ!!」


 気合を入れ、俺は全身に力を入れ、その大木を真正面から頭突きした。


 大木の勢いに押されそうになりながらも、大木を縦に砕いた。頭部の透過モニターも砕かれ、顔面血だらけになったものの、俺は2本の足で力強く立っていた。


 上河原は立ち尽くしていた。


「ここで倒れてたまるかァ!!」


 顔面を伝う血は顎から川に垂れる。


「ここでお前に倒されるような俺じゃあ、千歳に見せる顔がねえ!!」


 おかーさんとゴンゾーは俺とお互いを交互に見やり頷いた。


「水戸部待ってろ!すぐ片付けっから!」


 避けることに専念してきた俺ら3人は真っ直ぐ上河原に向かって走る。


 上河原は両腕を垂らしながら俺らに背を向けて走り出す。


「ゴンゾー!!上だ!あいつを上に投げてくれ!!」


 俺は転がる大岩を目指した。


「おうふ!おかーさん!陽動頼む!」


「わかった!!」


 おかーさんはアクセルを握り、甲高い音と共に抜刀し、上河原を威嚇する。そのまま何度か刀を振り回し、上河原を振り向かせる。おかーさんの反対側に回り込んでいたゴンゾーは、後ろから上河原を拘束する。


 俺は転がる大岩の上に駆け上がり、そこから大岩が砕けるほどの力で高く飛び上がる。


「室瀬!!行くぞ!!」


「おうよォ!!」


 ゴンゾーは上河原の両腕を掴み、自身を軸に1回転して上に放り投げた。


「うわあああア!!!」


 俺は空中で大槌のトリガーを引き、噴き出したジェットの勢いに任せて縦回転する。



 みんなの力が繋がり、1つの技は繰り出される。



 俺はジェットの勢いで生じる遠心力をも利用し、最大限の威力を引き出した一撃を振り下ろした。


 その一撃は上河原の身体を歪ませて川に叩きつけた。大きな水飛沫を上げ、川底を円形に窪ませた。窪みに川の水がチョロチョロと流れ込む。


「がバァ!!」


「上河原あああぁあぁ!!!」


 俺は落ちながら更に縦回転し、地面ギリギリで大槌を上河原に叩きつけた。再び大きな水飛沫が上がり、押し出された砂利が飛び散る。


 水飛沫が雨のように降り注ぎ、太陽に反射した虹が顔を出す。


 俺は大槌を担ぎ上げた。


 上河原の身体はくの字になり、腰部分が地面にめり込んでいる。大槌を叩きつけた前面の装甲は粉々になり、血が溢れ出ていた。


「アッ……アァ……ッ」


 上河原は腕を上げようと力を入れるが、肩がピクリと動くだけで、身動き一つ取らぬまま力は抜けた。


 俺は踵を返し、重い全身を走らせ水戸部の元へ向かった。同じくしておかーさんとゴンゾーも足を引きずりながら水戸部へと向かっていた。


「水戸部!!」


「メガネくん!!」


 水戸部は弓矢を手放していて、腹部に刺さる大木に手を添えていた。


「ジッとしてろ、すぐ抜いてやっから」


 水戸部は苦い表情で俺を見た。


「ま……って……はぁ……っ」


 水戸部は右腰の潰れた矢筒に括り付けてある長方形のケースから、何かを取り出そうとしていた。うまく取り出せないのを見たおかーさんが代わりに取り出す。


「取り出したよ」


「あり……がとう……おか……さん」


「この眼鏡って」


 水戸部は頷いて続けた。


「おじいちゃん……の……眼鏡……これゲホっゲホ」


 水戸部は吐血しながらも続けた。


「これ……を……おばあちゃ……んに……渡して……ほしい」


 片方のレンズが割れた眼鏡を、涙を流しながら見つめていた。


「わかった!!必ず渡すから!死んじまうよ!!」


「もう……いいんだ……視界が……ボヤけて……さ……目悪く……なったかな……はは」


「おい水戸部!諦めるな!!まだ助かるって!!おい!!」


「メガネくん!!大丈夫よ!!意識しっかり持って!!メガネくん!!」


「水戸部……大丈夫だ!!」


「みんな……ありがとう……」


 水戸部の涙につられ、頬を伝う。


「室瀬……くんの……言ってた……はぁ……はぁ……千歳(ちとせ)くんに……会ってみたかったなぁ」


 水戸部は笑顔を見せた。


「会わせてやっから!!なあ!!」


 水戸部は声にならない声で、ありがとうと言った。


 水戸部が最期に流した涙は美しかった。


 誰よりも強い男だよお前は。


 水戸部がいなかったら上河原も倒せなかった……お前を助けてやれなかった……。


 遠くから装甲ヘリの音が近づく。


 俺ら4人は最後まで、いつものように側にいた。





 死者352名、エキポナ重傷者17名、エキポナ死者1名。


 鬼神(アラハバキ)幹部 上河原 良太 絶命。





ー同日12時ー


「速報です。つい先程、鬼神(アラハバキ)対策本部と鬼神対策北海道支部の新人が、鬼神幹部を1人ずつ倒した模様です。大量殺人をした幹部たちは倒され、残るは1人となりました」


「期待の新人達はやってくれましたね、私はこのまま彼らを応援します」


「まだ終わったわけじゃありませんよ!何を皆さんそんなに安心してるんです!私はまだ信用したわけじゃないですから!」


「未だメディアにも報道されずに姿を隠す鬼神の1人はどんな気持ちなんでしょう」


 ニュースは大々的に報道した。残りの1人をあまり刺激してほしくないが。





「うおおおい!!なんじゃその怪我はああああ!!」


「やめろ千歳、傷に響く」


「あ、わりい。それにしてもよその顔の傷、転んでできる傷じゃねえな?」


「転んだだけでヒビが入るわけねえだろっ!」


「あ、そっか。んにしても俺を置いてくなんてよ!ひでえぞ!!」


「千歳くんだって1人で出撃したじゃない」


 高千穂は呆れたような笑顔で答える。


「あ、そうだった。わりい」


「あははは、みなさん凄いや、そんなにはしゃぐ元気僕には無いですよ」


「元気出せって!暗い顔してっと気分も暗くなるぞ?元気が1番!!なっはっは!」


「そう言われても、私たちついさっきこの病室に運ばれてきたのよ?ってどうして4人同じ部屋なのよ!」


「そう堅いこと言うなって!なっはっは!」


「それにしても千歳さん、治るまでは2日寝込まないとって言われてましたけど、大丈夫なんですか?」


「ん?俺か?見ての通り、げーんき!!」


「千歳の回復力にも驚かされるな」


 トントントン。病室の扉に硬いノック音が響く。


「誰だー?」


「ちょっと千歳くん!どうぞお入りください!」


「失礼する」


「あっ!堀さん!!」


 扉を開けて入ってきたのは、明るい表情をした堀さんだった。


「お前たち凄いよ。良くやった!ニュースでも見たかもしれないが、北海道支部の室瀬たちも上河原を倒してくれたようだ」


「おお!!室瀬たちが倒したのか!!すげえな!」


「ああ、ただ……」


「ただ?」


「いや、室瀬たちの班の1人が殉職した」


「え!?」


「そうなのね……」


「戦う以上、犠牲は仕方のないことだ。兵士も人だ、感じる部分は多くあるだろう。死を近くで感じることは人を強くする」


「室瀬なら大丈夫だ!」


「ああ、そうしてもらいたい。そして、みんなの活躍のお陰で残る鬼神は1人だけになった」


「残りの奴はあんま姿を現さないよな」


「そうだな、他の奴らみたく大量虐殺したわけでもない。だが主犯だ。そいつが鬼神を立ち上げ、幹部たちに指令していた」


「許せねえな」


「そいつってどんな能力なんですか?」


 高千穂の問いに、堀さんは眉間にシワを寄せた。


「正確にはわからない。ただ、峯岡がそれらしきデュロルと交戦したと言っていた。攻撃が当たらず、一瞬のうちに回り込まれると。恐らくだが、瞬間移動の能力かもしれん」


「瞬間移動……」


「峯岡は逃したと気を落としていた。だが、もう残るもそいつ1人だ。絶対に見つけだして、鬼神を終わらせる!」


「もちろんだ!!よーし!!」


「いや待て、今から探しに行こうとしたならダメだ。まず身体の回復が最優先だ、ゆっくり休め」


「そうね、休みましょう!千歳くん、また1人で行こうとしたら許さないからね!」


「あれは悪かった!!」


 暖かな空気の中に、最後の戦いに備えた緊張も混じっていた。


 これで最後だ。みんなのお陰でここまで来れた。覚悟しとけよ鬼神。





ー同日、16時26分ー


「騒がしかった鬼神(おまえら)も、もう市中(いちなか)だけになったか」


「……」


「終わりを認めるか?」


「……いや、認めない」


鬼神(おまえら)は規則を破りすぎた。いつルータスさんの耳に入るかすらわからない程にな。それなりの覚悟はできてるんだろうな」


「できてるさ。俺はあんたから逃げ切って、1人で行動する。失った仲間の仇を取るために、エキポナだけを狙う」


「お前1人じゃ大量殺人はできないだろう小僧。そんなことをしてみろ、命は無いぞ」


 "世界デュロル保護機構"の(かず)(しん)は拳を握ると、心臓を抉るような重低音を響かせながら、雷を右手に一瞬纏ってみせた。


 いつでも俺を倒せるって警告だろう。


 仲間がやられて、ただ黙って死ぬ俺じゃない。


「自分の命、最期くらい悔いのないことさせてもらうよ」


「逃げれると思うな」





ー同日17時ー


「夕方のニュースです。つい先程、東京を中心に関東を覆っていた雷雲は消え、晴れ間を取り戻しています。この真冬に雷雲なんて珍しいですよね」


「ええ、過去に類を見ない異常気象ですね。あれだけの大きな雷雲がいきなり現れ、一瞬にして姿を消すなんて、自然現象では説明がつきません。デュロルの能力と見ていいでしょう」


「しかし、いくらデュロルでもあれほど巨大な雷雲を作れる者がいるでしょうか」


「わかりません。そんなデュロルがいないと願うばかりです」


「そうですね。雷雲による被害ですが、東京スカイツリーから西の方向がかなり光っていたとの情報が入っており、より詳細な情報が入り次第お伝えいたします」





ー同日17時37分ー


ジジッ

「被害予想ポイントに到着しました。山の中で辺りに家屋や人影は無く、人的被害の可能性は少ないと思われます」


ジジッ

「先程の場所から更に西へ向かった場所から集中的に黒煙が上がっています。他の場所には一切落雷せず、一点に落雷した模様。もう少し近づいてみます」


ジジッ

「辺りは真っ黒に焦げています。古い木製の家屋があったかと思われますが、全壊して黒煙を上げています。中に遺体もなく、ただ不自然に壊れた跡だけが残っています。まるで何かが争ったような、そんな光景です」





 もう何も失うものもない。


 帰る場所もない。


 味方はいなくなった。


 掴み取ったこの命、最期まで仲間の想いを繋げてやる。


 必ず殺す、千歳……。





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