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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
25/144

24話ー求めた頂点ー

 圧倒的な力を見せる鬼神幹部 頂。


 千歳の居ない中、畑山達はどう動くのか。


 (いただき)は立ち上がり、頭をガリガリと掻いた。その後、停まっている普通乗用車に近づき、片手を伸ばして触れる。


 ガゴン!


 頂は車体の屋根の縁を掴むと、拳の力が加わったことで変形する。そのまま車を持ち上げ、片側二輪を浮かす。


「殺してやる!!」


 頂はそう叫んだと同時に、掴み上げた車を俺に向けて放り投げた。


 車は地面に弾み、回転しながら向かってくる。


 弾んだ瞬間を見計らい、下をくぐり抜ける。


 次から次へと飛んでくる車に対し、避けることしかできない。避ける最中、俺の愛用のシールドの破片から、帯電装置を見つけて拾い上げた。


 帯電装置は、シールドに電気を流す装置だ。普段はシールド内部に装着されてるが、頂の攻撃でシールドが砕かれたために飛び出たんだろう。まだ使えそうだ。


 帯電装置を拾い上げて体勢を整えた瞬間、背中にワゴン車を投げつけられる。


 ワゴン車の重さに数歩よろける。ワゴン車がぶつかるよりも頂に殴られた衝撃の方が重かった。


 頂の方を振り返ると、さっきまで居た場所から居なくなっている。


「どこ見てるんだーい!!」


 後ろから聞こえた声に反応する前に、肩に強い衝撃が落ちる。頂は肘を俺の肩に落としていた。いつの間に後ろへ回り込んだ?


 その衝撃は俺の脚へと流れ、地面を凹ませ円形のヒビが伸びた。


 俺は慌てずに、頂の腹部へ肘打ちをした。


 腹を摩って2歩下がる頂。


「あれ?」


 頂は不思議そうに首を傾げると、腰を落とし、後ろに引いた拳を突き出した。


 避けることができなかった俺は、その拳の勢いのままに後方へ引きずられて、数メートル先で転がった。


「へ、へへー!!」


 頂は嬉しそうだった。


 俺は立ち上がって頂を睨む。


 頂ははしゃぐのを止めた。「は!?!?」右脚で強く地面を蹴る。


 俺がいじめられなかった理由、それは……。


「俺は打たれ強いんでね」


 頂は肩をピクリと動かし、体の向きを倒れてる滝原に向ける。それから首を傾げて高千穂へと向けた。


畑山(はたけやま)くん!!私のことは気にしないで頂の隙をついて!!」


 俺と頂は同タイミングで高千穂の元へと走り出す。


「高千穂のこと放っとけるわけないだろ!」


 同タイミングで走り出した頂に先を越されるが、腰を落として殴る体勢をとる間に俺は追いつき、奴の背中に飛び両足蹴りをぶっ込んだ。


 走った勢いを消しきれてなかった頂は、俺の両足蹴りも合わさり、高千穂を通り越して道路を転がる。


 高千穂は小さくありがとうと口にして頂に目を移す。


「は?邪魔すんなし!は?はー!?いいよもう!2人もろとも吹き飛ばしてやる」


 頂はしゃがみ、クラウチングスタートの体勢から、勢いよく道路を蹴り、コンクリートを砕きながら向かってくる。大きな歩幅とそれに似合った速さだ。


 俺は高千穂の前に出て、頂に向かって走る。


 頂は避ける素振りを見せずそのまま突っ込んで来る。俺は立ち止まり、足を前後に開き、両手を前に、前傾姿勢で受け止める体勢をとる。


 そこに肩から突っ込んでくる頂の勢いを必死に食い止めるが、俺を支えるコンクリートがめくれ、そのまま抉れながら勢いに押される。頂が肩をクイッと上げたせいで、俺の脚は浮き上がり、肩に乗せられる。


 俺を乗せた頂は向きを変え、避けたはずの高千穂に向かっていた。俺を肩に乗せた頂を射ることはできず、避けきれない高千穂は俺の背中に乗せられる。肩に乗せた俺と高千穂を、タックルでいくつもの建物を突き破りながら進んでいく。


 思うように身体が動かず、この状況をどうにもできない。


 十数個の建物を突き破った後、俺と高千穂を斜め上に放り投げた。頂は地面を蹴り上げ、4階建ての小ビルの屋根を更に蹴って上に飛んだ。


 俺と高千穂はその勢いのまま山頂にぶつかる。コンクリートと違い土がクッションになるも、その柔らかさが仇となり、勢いが一向に収まらない。


 山頂にぶつかった勢いが無くなる前に見えたのは、空から殴りを構える頂の姿だった。


 高千穂を下敷きにしてしまっている。このまま奴の攻撃を受けたら、高千穂が危ない!


 そう思って行動に出ようとした俺を、奴は見事に邪魔をした。


「もういい!2人とも死ね!!」


 頂は右手を後ろに引き、右拳の前に左手を広げて添える。左手を添えた瞬間、頂の右腕は1.5倍ほど肥大化した。添えた左掌を俺らに向ける。


()鹿()(ぢから)あぁぁあぁあぁああ!!」





 咳と共にボヤけた視界で目覚めると、辺りは静かだった。


 コンクリートの道路に体の背面が埋もれ、うまく起き上がれない。胸部と肩の装甲が大きく凹み、あちこちの装甲も身体に食い込む。


 砂埃が舞う街の中で1人立ち上がった。全身のあまりの痛さに吐き気が喉元をくすぐる。


「畑山さん?高千穂さん?」


 視界が鮮明になり、周りを見渡すも2人の姿は無い。


 歩こうとするも足が持ち上がらずに、動こうとした上半身が先に進んで倒れ込む。


 遠くの方で微かに音が聞こえた。その方向を見やる。


 少しその方向を見やった後、その方向にある山の山頂から土の塊や石が四方八方へ飛び散り、崩れた山頂から土砂が流れ、枯葉混じりの土煙が立ち昇った。


 数秒遅れて轟音と衝撃が全身を打つ。


 その衝撃に思わず腕で顔を隠す。


 土煙が退いた山頂は、遠目から見てもわかる程に凹んでいた。そこを見た瞬間に状況を理解した。


 足を引きずってでも行かないと!


 幸い投げ捨てられた大槌は、道路の目立つ場所にあった為すぐに見つかった。いつもより重く感じる大槌を担ぎ、今の僕が出せる最大の速さで山へと向かった。





 意識が飛びそうになりながらも、交差した両腕を思い切り開き、被さる土を退ける。全身は痛みで覆い尽くされる。横に転がり、俺の下敷きになって埋もれていた高千穂を起き上がらせる。


 高千穂に被った土を払う。


 息をしていない。


「た、高千穂!!おい!!しっかりしろ!!」


 肩を持って揺らすが、首が座らず、綺麗な金色の髪を揺らすだけだった。


「……ひ……ひーひゃははははは!!」


 後ろから不快な笑い声が聞こえてきた。


「え?え?死んだ?死んだの??……くくくく……ひひひははははは」


 閉じてる瞼をピクリと動かし、目を細く開けた高千穂は、俺を見て唇を微かに動かした。


「(し……なない……で……)」


「あぁ……」


 俺は立ち上がり、振り返る。


「ねえ、もうお前は飽きたんだってば、全然つまらないんだもん!」


 頂は地面を強く踏みつけながら近づき、俺の目の前で腰を落とし右拳を突き出す。


 頂は基本的に顔面か腹部を殴る。それがわかっていたため、事前に避ける準備は整っていた。


 左足を一歩前に出し、首を左斜め前にして突き出された右拳を避け、体重を前に乗せた勢いで、俺の右拳を頂の腹部へとめり込ませる。


「うぐぇっ」


 頂はよろけながら後退りし、尻餅をつく。


「もう……なんなん……」


 頂は立ち上がり、また向かってくる。


 避けられる殴りを避けず、真正面から受ける。一歩前へ足を出し、勢いを食い止める。


「へへ!当たった!痛いだろ痛いだ……ろ……」


 俺は頂を睨みつけた。


「もう……嫌だ……お前つまんない!全然面白くない!!嫌だ!!」


 ひたすらに殴る頂の拳を避け続け、数発避けたところで、俺はカウンターで反撃する。


 一歩も引かずに、前へ前へと歩を進める。


「んっ!んっ!」


 頂は力む声が漏れながら、段々と後ろに退いていく。やがて頂の殴りは止まり、カウンターとして殴っていた俺の拳が次々と当たっていく。


「んん!!」


 頂の絞り出したような右ストレートを、右足を前に顔を右斜め前に出して避け、左拳を鳩尾に突き出した。


「んぐっ」


 前かがみになった頂の、平らな装甲の顔に向け右アッパーを繰り出した。


 そのアッパーを受けた頂の顔の装甲には、多少のヒビが入った。


「う、うおおおおおお!!」


 頂は次々と殴る蹴るの連携技を繰り出していった。最初の数回だけ避けれたが、回数を増すごとに、重い殴りと蹴りが俺を打つ。


 絶対に倒れねえ!!


 俺は意地でも立ち続けた。


 頂は息を切らして後退りするも、俺は距離を縮め続ける。


「おぉら!!」


 俺の渾身の右ストレートは、防ごうとした頂の左腕に当たる。左腕の装甲に若干のヒビが入る。


 俺は掛け声と殴りをひたすらに続けた。


 最初の数回は反撃しようとしていた頂だが、防ぐことしかしなくなった。


 頂は後退りしながら俺の殴りを受け、倒木に躓いて背中から倒れる。


 俺は頂に跨り、ひたすらに殴った。


 様々な感情が入り混じり、俺は涙を流していた。


 掠れた声が、殴る度に響く。


 やがて頂の左腕の装甲を砕き、頬の装甲を砕いた。砕いたヒビからは血が滲み出る。


 装甲を砕いた俺の拳からも血が滲む。


 頂が横に転がり振り落とされるも、後を追いかけ続けて殴った。


 体重を乗せた拳が頂の腹部にめり込み、頂は背中から、俺は力が抜けるように前面から倒れた。2人で息を切らし、俺は立ち上がろうと地面に拳を突き立てた。


 頂は立ち上がろうにも足を幾度も滑らし、手で払い除ける素振りしか出来ずにいた。



「……く……来るな……来るな!!」



 僕はそいつの姿を、昔のあいつと重ねていた。


 僕は追いかけ回され、ひたすらに殴られた。


 僕を助けて欲しかっただけなのに、憧れてただけなのに。


 あの時の僕は、父さんに認められようと必死だった。


 強くなりたかった。いじめられてることなんて言えるわけがなかった。


 いじめられないように、空手を学び、僕は強くなった。これでいじめられない。


 父さんは、弟を可愛がった。背も高くて強かった。僕は背も小さく、弱かったから。


 最近調子に乗ってるって理由で、公園に呼び出され、ボコボコにされた。強くなったはずなのに。その公園は小学校までの通学路で、みんなの目にとまる場所のはず。


 弟に見られたら、父さんに知られる。


 そう思った瞬間、それは現実になってしまった。しかも、弟と父さんは肩を並べて僕を見ていた。


 俺をボコボコにしたやつは弟の方へと駆け寄り、「俺のことを殴ってきたのはあいつなんだぜ!」と言った。


 弟はニヤリと笑っていた。


 父さんは僕の方へと近づいてきた。


 もう立てない僕は寝ながら父さんを見上げた。


 そうしたらさ、父さんは「こんなのは、もう俺の息子じゃねえ」って言ったんだ。すると父さんは弟を見て「おい」と言って後ろに下がった。「はい父さん」そう言った弟の顔は、楽しそうだった。


 弟は僕を殴った。何回も、何回も。


 逃げようと必死になってる僕に跨り、笑いながら殴る。


 父さん、助けて。


 いや、父さんも笑っていたっけ。


 ひたすらに殴られ、気が付いたころ、その公園には誰も居なかった。


 チビだからいけない。ただひたすらに強くなりたい。そう心の底から思った僕はデュロルになっていた。


 デュロルになって、俺をボロボロにした弟より背も高くなって、力も強くなって、弟と認識できないほどまで殴った。この時気付いた。強い側って、弱いモノを一方的に痛めつけるのって、こんなにも楽しいんだって。だからみんな笑ってたんだ。


 そうか、だから弟は僕を殴る時、笑ってたんだ。


 でも、何で?何で今目の前に居るこいつは、僕を殴る時泣いていたんだ?


 強い側は面白いんじゃないの?泣くのはこっち側じゃないの?


 弟と目の前のこいつを重ねたけど、重ならない。笑って殴られるより、泣かれてる方が怖い。久々に感じたこの感情に、僕は声すら出せなくなっていた。


 怖いものは怖い。けど、何でだろう、もう訳が分からなくなってきた。


 混乱するんだよなぁ……。


 うう。


 うううう……。


「ううううううう……」



 頂の身体は俺よりも縮んでいた。


 頂は小さくしゃがみ、頭を抱えて震えている。



「うう……」


 あの時みたいに負ける?


 いやいや、僕はデュロルになって弟を負かしたじゃないか。


 だったら、もっと強くなってこいつを負かさないと!


「うううあああああ!!!」



 頂の身体は背中から膨れ上がり、それは全身へと広がっていった。収まった頂は立ち上がる。


 見上げる感じからして、頂の身長は5メートルを越えていた。


 頂は自らの装甲を割って大きくなっている。全身から血を流しているとこを見ると、体にかなりの負荷がかかっているのだろう。


 頂は腰を落として脚を開いた。体重を前に乗せ、勢いよく地面を蹴る。蹴られた地面はその勢いを表すように土煙を上げた。


 その土煙を見た瞬間に、頂の右拳は目の前まで飛んでくる。


 速すぎる。


 俺は避けれず、頂の右拳を腹部から胸部に食らう。


「ぐっ!!」


 堪えて食いしばる歯の間から血が飛び出す。


 そのまま頂の拳に乗せられ、そのまま地面に叩きつけられる。この山頂を凹ませた時のパワーだ……こいつまさか、このパワーを維持しているのか?


 どんなにもがいても頂は拳を退かそうとせず、益々体重をかけてくる。


 まずい、このままじゃ……。


「退けえええええ!!!」


 ゴゴ!!


 その声が聞こえた後、頂は転がった。


「畑山さん!大丈夫ですか!」


 そこには、ボロボロになりながらも大槌を握りしめた滝原(たきはら)の姿があった。


「ああ、ありがとう」


 転がった頂は、大槌で殴られた箇所を強く抑え、痛がる素振りを見せた。


 頂の身体は大きくなり、筋力も増した。だが、その変化に身体はついていけずに、皮膚と装甲は裂け、血を流した。強くはなったが、弱点も増えてしまったわけだ。


 今のあいつは身体の全身が弱点だ。


 頂は泣き叫ぶように殴りかかってくる。


 俺はそれを避けず、頂の拳と俺の拳をぶつけた。お互い後方へよろけるが、頂の拳からはより多くの血が流れた。


 頂は手首を抑えて痛がるように振る。


 俺の手首は痺れ、痛みが染み渡っていく。


 頂と俺は同時に走り寄り、殴る蹴るを当て合った。


 頂のパワーにやられる俺と、自身の傷にやられる頂。


 滝原は、俺と頂のやり合いに為す術なく、タイミングを見計らうように大槌を構えていた。


 攻撃の隙を突いて、俺は腹部へ蹴りを入れ、頂は後方へよろける。


「畑山くん!投げるよ!」


 膝立ちの高千穂から投げられたのは、あの時に拾った帯電装置だ。


 DVD程の大きさの円形の帯電装置を、右手を広げて掴んだ。


「取った!!ありがとう!!」


 高千穂は安心したように目を瞑り、そのまま倒れた。


「滝原!俺を投げ飛ばしてくれ!できるか?」


「はい!!維持でもやります!!」


 滝原は大槌を構えた。


「5回転目で飛んでください!!」


「わかった!!」


 滝原が大槌のトリガーを引くと同時に、俺は大槌の打ち付ける面に両足を乗せ、振り落とされないようしがみ付く。


 ジェットが勢いよく噴射し、1回転目からかなりの速さで回る。


 目が回らないように視線を頂に固定しようとするも、あまりの速さに目が回りそうになった為、目を閉じた。


「今です!!」


 滝原のその合図と同時に目を開け、頂の場所を把握し、大槌を蹴る。


 頂に届く一瞬の間で、俺は帯電装置を掴んだ右手を構え、当たる寸前で右手を全力で突き出した。


 その一撃は頂の背中へ衝撃だけが通り抜けた。


 頂の鳩尾にめり込む帯電装置と右手。


 帯電装置を押し付けた一瞬を見切って体を捻り、帯電装置の側面を回すことで放電した。


 放電された電気は、頂と俺の身体を貫く。金属の多い俺の身体を通り、顔に亀裂が入り血が噴き出る。


 俺はその痛みで帯電装置から手を離し、飛ばされた勢いのまま、土を削って転がっていく。


 帯電装置は頂にめり込んだまま放電を続けた。


 全身から血を流す頂は体を小刻みに痙攣させ、膝をついた。それから数秒間、痙攣した後、頂の身体は小さくなっていた。


 放電は収まり、全身から煙を滲み出す頂は、最後の力を振り絞るように、震えながら振り返る。


 俺を見ながら震える手を伸ばした。


 頂は手を伸ばしたまま、倒れた。


 最期に何かを言おうとしていた。口の無い装甲をしていても、何故かわかった。


 震えてた手からそれは伝わってきた。


 頂はこの闘いの中で、俺のことを何かと重ね合わせていたんだろう。


 辛かった過去を思い出していたんだろう。


 俺に助けを求めていたんだろう。


「すまんな頂、鬼神(アラハバキ)として生きちまったお前の過去を助けることはできねえ」





 死傷者638名、エキポナ重傷者46名、エキポナ死者8名。


 鬼神(アラハバキ)幹部 (いただき) 瑠璃哉(るりや) 絶命。

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