24話ー求めた頂点ー
圧倒的な力を見せる鬼神幹部 頂。
千歳の居ない中、畑山達はどう動くのか。
頂は立ち上がり、頭をガリガリと掻いた。その後、停まっている普通乗用車に近づき、片手を伸ばして触れる。
ガゴン!
頂は車体の屋根の縁を掴むと、拳の力が加わったことで変形する。そのまま車を持ち上げ、片側二輪を浮かす。
「殺してやる!!」
頂はそう叫んだと同時に、掴み上げた車を俺に向けて放り投げた。
車は地面に弾み、回転しながら向かってくる。
弾んだ瞬間を見計らい、下をくぐり抜ける。
次から次へと飛んでくる車に対し、避けることしかできない。避ける最中、俺の愛用のシールドの破片から、帯電装置を見つけて拾い上げた。
帯電装置は、シールドに電気を流す装置だ。普段はシールド内部に装着されてるが、頂の攻撃でシールドが砕かれたために飛び出たんだろう。まだ使えそうだ。
帯電装置を拾い上げて体勢を整えた瞬間、背中にワゴン車を投げつけられる。
ワゴン車の重さに数歩よろける。ワゴン車がぶつかるよりも頂に殴られた衝撃の方が重かった。
頂の方を振り返ると、さっきまで居た場所から居なくなっている。
「どこ見てるんだーい!!」
後ろから聞こえた声に反応する前に、肩に強い衝撃が落ちる。頂は肘を俺の肩に落としていた。いつの間に後ろへ回り込んだ?
その衝撃は俺の脚へと流れ、地面を凹ませ円形のヒビが伸びた。
俺は慌てずに、頂の腹部へ肘打ちをした。
腹を摩って2歩下がる頂。
「あれ?」
頂は不思議そうに首を傾げると、腰を落とし、後ろに引いた拳を突き出した。
避けることができなかった俺は、その拳の勢いのままに後方へ引きずられて、数メートル先で転がった。
「へ、へへー!!」
頂は嬉しそうだった。
俺は立ち上がって頂を睨む。
頂ははしゃぐのを止めた。「は!?!?」右脚で強く地面を蹴る。
俺がいじめられなかった理由、それは……。
「俺は打たれ強いんでね」
頂は肩をピクリと動かし、体の向きを倒れてる滝原に向ける。それから首を傾げて高千穂へと向けた。
「畑山くん!!私のことは気にしないで頂の隙をついて!!」
俺と頂は同タイミングで高千穂の元へと走り出す。
「高千穂のこと放っとけるわけないだろ!」
同タイミングで走り出した頂に先を越されるが、腰を落として殴る体勢をとる間に俺は追いつき、奴の背中に飛び両足蹴りをぶっ込んだ。
走った勢いを消しきれてなかった頂は、俺の両足蹴りも合わさり、高千穂を通り越して道路を転がる。
高千穂は小さくありがとうと口にして頂に目を移す。
「は?邪魔すんなし!は?はー!?いいよもう!2人もろとも吹き飛ばしてやる」
頂はしゃがみ、クラウチングスタートの体勢から、勢いよく道路を蹴り、コンクリートを砕きながら向かってくる。大きな歩幅とそれに似合った速さだ。
俺は高千穂の前に出て、頂に向かって走る。
頂は避ける素振りを見せずそのまま突っ込んで来る。俺は立ち止まり、足を前後に開き、両手を前に、前傾姿勢で受け止める体勢をとる。
そこに肩から突っ込んでくる頂の勢いを必死に食い止めるが、俺を支えるコンクリートがめくれ、そのまま抉れながら勢いに押される。頂が肩をクイッと上げたせいで、俺の脚は浮き上がり、肩に乗せられる。
俺を乗せた頂は向きを変え、避けたはずの高千穂に向かっていた。俺を肩に乗せた頂を射ることはできず、避けきれない高千穂は俺の背中に乗せられる。肩に乗せた俺と高千穂を、タックルでいくつもの建物を突き破りながら進んでいく。
思うように身体が動かず、この状況をどうにもできない。
十数個の建物を突き破った後、俺と高千穂を斜め上に放り投げた。頂は地面を蹴り上げ、4階建ての小ビルの屋根を更に蹴って上に飛んだ。
俺と高千穂はその勢いのまま山頂にぶつかる。コンクリートと違い土がクッションになるも、その柔らかさが仇となり、勢いが一向に収まらない。
山頂にぶつかった勢いが無くなる前に見えたのは、空から殴りを構える頂の姿だった。
高千穂を下敷きにしてしまっている。このまま奴の攻撃を受けたら、高千穂が危ない!
そう思って行動に出ようとした俺を、奴は見事に邪魔をした。
「もういい!2人とも死ね!!」
頂は右手を後ろに引き、右拳の前に左手を広げて添える。左手を添えた瞬間、頂の右腕は1.5倍ほど肥大化した。添えた左掌を俺らに向ける。
「馬・鹿・力あぁぁあぁあぁああ!!」
咳と共にボヤけた視界で目覚めると、辺りは静かだった。
コンクリートの道路に体の背面が埋もれ、うまく起き上がれない。胸部と肩の装甲が大きく凹み、あちこちの装甲も身体に食い込む。
砂埃が舞う街の中で1人立ち上がった。全身のあまりの痛さに吐き気が喉元をくすぐる。
「畑山さん?高千穂さん?」
視界が鮮明になり、周りを見渡すも2人の姿は無い。
歩こうとするも足が持ち上がらずに、動こうとした上半身が先に進んで倒れ込む。
遠くの方で微かに音が聞こえた。その方向を見やる。
少しその方向を見やった後、その方向にある山の山頂から土の塊や石が四方八方へ飛び散り、崩れた山頂から土砂が流れ、枯葉混じりの土煙が立ち昇った。
数秒遅れて轟音と衝撃が全身を打つ。
その衝撃に思わず腕で顔を隠す。
土煙が退いた山頂は、遠目から見てもわかる程に凹んでいた。そこを見た瞬間に状況を理解した。
足を引きずってでも行かないと!
幸い投げ捨てられた大槌は、道路の目立つ場所にあった為すぐに見つかった。いつもより重く感じる大槌を担ぎ、今の僕が出せる最大の速さで山へと向かった。
意識が飛びそうになりながらも、交差した両腕を思い切り開き、被さる土を退ける。全身は痛みで覆い尽くされる。横に転がり、俺の下敷きになって埋もれていた高千穂を起き上がらせる。
高千穂に被った土を払う。
息をしていない。
「た、高千穂!!おい!!しっかりしろ!!」
肩を持って揺らすが、首が座らず、綺麗な金色の髪を揺らすだけだった。
「……ひ……ひーひゃははははは!!」
後ろから不快な笑い声が聞こえてきた。
「え?え?死んだ?死んだの??……くくくく……ひひひははははは」
閉じてる瞼をピクリと動かし、目を細く開けた高千穂は、俺を見て唇を微かに動かした。
「(し……なない……で……)」
「あぁ……」
俺は立ち上がり、振り返る。
「ねえ、もうお前は飽きたんだってば、全然つまらないんだもん!」
頂は地面を強く踏みつけながら近づき、俺の目の前で腰を落とし右拳を突き出す。
頂は基本的に顔面か腹部を殴る。それがわかっていたため、事前に避ける準備は整っていた。
左足を一歩前に出し、首を左斜め前にして突き出された右拳を避け、体重を前に乗せた勢いで、俺の右拳を頂の腹部へとめり込ませる。
「うぐぇっ」
頂はよろけながら後退りし、尻餅をつく。
「もう……なんなん……」
頂は立ち上がり、また向かってくる。
避けられる殴りを避けず、真正面から受ける。一歩前へ足を出し、勢いを食い止める。
「へへ!当たった!痛いだろ痛いだ……ろ……」
俺は頂を睨みつけた。
「もう……嫌だ……お前つまんない!全然面白くない!!嫌だ!!」
ひたすらに殴る頂の拳を避け続け、数発避けたところで、俺はカウンターで反撃する。
一歩も引かずに、前へ前へと歩を進める。
「んっ!んっ!」
頂は力む声が漏れながら、段々と後ろに退いていく。やがて頂の殴りは止まり、カウンターとして殴っていた俺の拳が次々と当たっていく。
「んん!!」
頂の絞り出したような右ストレートを、右足を前に顔を右斜め前に出して避け、左拳を鳩尾に突き出した。
「んぐっ」
前かがみになった頂の、平らな装甲の顔に向け右アッパーを繰り出した。
そのアッパーを受けた頂の顔の装甲には、多少のヒビが入った。
「う、うおおおおおお!!」
頂は次々と殴る蹴るの連携技を繰り出していった。最初の数回だけ避けれたが、回数を増すごとに、重い殴りと蹴りが俺を打つ。
絶対に倒れねえ!!
俺は意地でも立ち続けた。
頂は息を切らして後退りするも、俺は距離を縮め続ける。
「おぉら!!」
俺の渾身の右ストレートは、防ごうとした頂の左腕に当たる。左腕の装甲に若干のヒビが入る。
俺は掛け声と殴りをひたすらに続けた。
最初の数回は反撃しようとしていた頂だが、防ぐことしかしなくなった。
頂は後退りしながら俺の殴りを受け、倒木に躓いて背中から倒れる。
俺は頂に跨り、ひたすらに殴った。
様々な感情が入り混じり、俺は涙を流していた。
掠れた声が、殴る度に響く。
やがて頂の左腕の装甲を砕き、頬の装甲を砕いた。砕いたヒビからは血が滲み出る。
装甲を砕いた俺の拳からも血が滲む。
頂が横に転がり振り落とされるも、後を追いかけ続けて殴った。
体重を乗せた拳が頂の腹部にめり込み、頂は背中から、俺は力が抜けるように前面から倒れた。2人で息を切らし、俺は立ち上がろうと地面に拳を突き立てた。
頂は立ち上がろうにも足を幾度も滑らし、手で払い除ける素振りしか出来ずにいた。
「……く……来るな……来るな!!」
僕はそいつの姿を、昔のあいつと重ねていた。
僕は追いかけ回され、ひたすらに殴られた。
僕を助けて欲しかっただけなのに、憧れてただけなのに。
あの時の僕は、父さんに認められようと必死だった。
強くなりたかった。いじめられてることなんて言えるわけがなかった。
いじめられないように、空手を学び、僕は強くなった。これでいじめられない。
父さんは、弟を可愛がった。背も高くて強かった。僕は背も小さく、弱かったから。
最近調子に乗ってるって理由で、公園に呼び出され、ボコボコにされた。強くなったはずなのに。その公園は小学校までの通学路で、みんなの目にとまる場所のはず。
弟に見られたら、父さんに知られる。
そう思った瞬間、それは現実になってしまった。しかも、弟と父さんは肩を並べて僕を見ていた。
俺をボコボコにしたやつは弟の方へと駆け寄り、「俺のことを殴ってきたのはあいつなんだぜ!」と言った。
弟はニヤリと笑っていた。
父さんは僕の方へと近づいてきた。
もう立てない僕は寝ながら父さんを見上げた。
そうしたらさ、父さんは「こんなのは、もう俺の息子じゃねえ」って言ったんだ。すると父さんは弟を見て「おい」と言って後ろに下がった。「はい父さん」そう言った弟の顔は、楽しそうだった。
弟は僕を殴った。何回も、何回も。
逃げようと必死になってる僕に跨り、笑いながら殴る。
父さん、助けて。
いや、父さんも笑っていたっけ。
ひたすらに殴られ、気が付いたころ、その公園には誰も居なかった。
チビだからいけない。ただひたすらに強くなりたい。そう心の底から思った僕はデュロルになっていた。
デュロルになって、俺をボロボロにした弟より背も高くなって、力も強くなって、弟と認識できないほどまで殴った。この時気付いた。強い側って、弱いモノを一方的に痛めつけるのって、こんなにも楽しいんだって。だからみんな笑ってたんだ。
そうか、だから弟は僕を殴る時、笑ってたんだ。
でも、何で?何で今目の前に居るこいつは、僕を殴る時泣いていたんだ?
強い側は面白いんじゃないの?泣くのはこっち側じゃないの?
弟と目の前のこいつを重ねたけど、重ならない。笑って殴られるより、泣かれてる方が怖い。久々に感じたこの感情に、僕は声すら出せなくなっていた。
怖いものは怖い。けど、何でだろう、もう訳が分からなくなってきた。
混乱するんだよなぁ……。
うう。
うううう……。
「ううううううう……」
頂の身体は俺よりも縮んでいた。
頂は小さくしゃがみ、頭を抱えて震えている。
「うう……」
あの時みたいに負ける?
いやいや、僕はデュロルになって弟を負かしたじゃないか。
だったら、もっと強くなってこいつを負かさないと!
「うううあああああ!!!」
頂の身体は背中から膨れ上がり、それは全身へと広がっていった。収まった頂は立ち上がる。
見上げる感じからして、頂の身長は5メートルを越えていた。
頂は自らの装甲を割って大きくなっている。全身から血を流しているとこを見ると、体にかなりの負荷がかかっているのだろう。
頂は腰を落として脚を開いた。体重を前に乗せ、勢いよく地面を蹴る。蹴られた地面はその勢いを表すように土煙を上げた。
その土煙を見た瞬間に、頂の右拳は目の前まで飛んでくる。
速すぎる。
俺は避けれず、頂の右拳を腹部から胸部に食らう。
「ぐっ!!」
堪えて食いしばる歯の間から血が飛び出す。
そのまま頂の拳に乗せられ、そのまま地面に叩きつけられる。この山頂を凹ませた時のパワーだ……こいつまさか、このパワーを維持しているのか?
どんなにもがいても頂は拳を退かそうとせず、益々体重をかけてくる。
まずい、このままじゃ……。
「退けえええええ!!!」
ゴゴ!!
その声が聞こえた後、頂は転がった。
「畑山さん!大丈夫ですか!」
そこには、ボロボロになりながらも大槌を握りしめた滝原の姿があった。
「ああ、ありがとう」
転がった頂は、大槌で殴られた箇所を強く抑え、痛がる素振りを見せた。
頂の身体は大きくなり、筋力も増した。だが、その変化に身体はついていけずに、皮膚と装甲は裂け、血を流した。強くはなったが、弱点も増えてしまったわけだ。
今のあいつは身体の全身が弱点だ。
頂は泣き叫ぶように殴りかかってくる。
俺はそれを避けず、頂の拳と俺の拳をぶつけた。お互い後方へよろけるが、頂の拳からはより多くの血が流れた。
頂は手首を抑えて痛がるように振る。
俺の手首は痺れ、痛みが染み渡っていく。
頂と俺は同時に走り寄り、殴る蹴るを当て合った。
頂のパワーにやられる俺と、自身の傷にやられる頂。
滝原は、俺と頂のやり合いに為す術なく、タイミングを見計らうように大槌を構えていた。
攻撃の隙を突いて、俺は腹部へ蹴りを入れ、頂は後方へよろける。
「畑山くん!投げるよ!」
膝立ちの高千穂から投げられたのは、あの時に拾った帯電装置だ。
DVD程の大きさの円形の帯電装置を、右手を広げて掴んだ。
「取った!!ありがとう!!」
高千穂は安心したように目を瞑り、そのまま倒れた。
「滝原!俺を投げ飛ばしてくれ!できるか?」
「はい!!維持でもやります!!」
滝原は大槌を構えた。
「5回転目で飛んでください!!」
「わかった!!」
滝原が大槌のトリガーを引くと同時に、俺は大槌の打ち付ける面に両足を乗せ、振り落とされないようしがみ付く。
ジェットが勢いよく噴射し、1回転目からかなりの速さで回る。
目が回らないように視線を頂に固定しようとするも、あまりの速さに目が回りそうになった為、目を閉じた。
「今です!!」
滝原のその合図と同時に目を開け、頂の場所を把握し、大槌を蹴る。
頂に届く一瞬の間で、俺は帯電装置を掴んだ右手を構え、当たる寸前で右手を全力で突き出した。
その一撃は頂の背中へ衝撃だけが通り抜けた。
頂の鳩尾にめり込む帯電装置と右手。
帯電装置を押し付けた一瞬を見切って体を捻り、帯電装置の側面を回すことで放電した。
放電された電気は、頂と俺の身体を貫く。金属の多い俺の身体を通り、顔に亀裂が入り血が噴き出る。
俺はその痛みで帯電装置から手を離し、飛ばされた勢いのまま、土を削って転がっていく。
帯電装置は頂にめり込んだまま放電を続けた。
全身から血を流す頂は体を小刻みに痙攣させ、膝をついた。それから数秒間、痙攣した後、頂の身体は小さくなっていた。
放電は収まり、全身から煙を滲み出す頂は、最後の力を振り絞るように、震えながら振り返る。
俺を見ながら震える手を伸ばした。
頂は手を伸ばしたまま、倒れた。
最期に何かを言おうとしていた。口の無い装甲をしていても、何故かわかった。
震えてた手からそれは伝わってきた。
頂はこの闘いの中で、俺のことを何かと重ね合わせていたんだろう。
辛かった過去を思い出していたんだろう。
俺に助けを求めていたんだろう。
「すまんな頂、鬼神として生きちまったお前の過去を助けることはできねえ」
死傷者638名、エキポナ重傷者46名、エキポナ死者8名。
鬼神幹部 頂 瑠璃哉 絶命。




