23話ーいじめー
巨躯な威圧感を放つ鬼神幹部 頂と対峙した3人。
人を殴り楽しむ姿を見た畑山は、ある感情を抱いた。
ー福島県 某所ー
頂は、まるで子供のようにはしゃいでいる。
子供が心の底から遊びを楽しむように、他の2小隊と戦っている。2小隊の計8人は歯が立たず、次々と倒れていく。
俺の今の怒りは頂に向けたものでもあるが、デュロルという超えれない人種の壁に対しても向いていた。目の前にいる頂は、今はこうして楽しんでいるけど、デュロルになってしまった瞬間ってのは存在して、理由があるからデュロルになってしまったんだ。
この世にデュロルという人種が存在するだけで、立ち直れる人生も砕け散る人生へと変わってしまう。
そう考えると、俺は何にどう怒りをぶつければいいのかわからなくなった。
鬼神幹部という犯罪者を目の前に、あまりに無邪気な頂の姿が、心を痛くした。
「畑山くん!大丈夫!?背中の矢抜くよ!!いくよ!?」
「頼む!」
高千穂は矢を思い切り引き抜いた。
背中の傷は痛い。痛いけど、心の痛さに比べたら全然痛くない。
怒りの対象が頂では無くなったからなのか、俺は恐怖を感じた。
目の前にいる恐怖。
今目の前で俺が相手にしてるのは、日本を震撼させる大量殺人集団の幹部で、ビルを崩壊させ、エキポナを殺害する3メートルのデュロルだ。
俺らで幹部の1人、古田を倒しはしたが、皆の連携があってのこと。辺りに散らばってるシールドの破片、砕かれた大槌の破片を見て、絶望した。
こんなのに、勝てるのか?
千歳は1人で黒谷を倒した。何故だ?
いくら千歳でもこの恐怖は感じているはず、この恐怖に打ち勝ち、向かっていったのか?
ダメだ、どんどんマイナスな考えをしてしまう。
どうやって、この気持ちに打ち勝てばいいんだ。
「滝原くん!!怪我は!!」
「ありません!!大丈夫です!」
滝原は瓦礫をかき分け、大槌を拾い上げる。
「良かった!!畑山くんも動ける??」
高千穂の目は、真っ直ぐだった。
高千穂も恐怖を感じてるはず、なのにこんなにも真っ直ぐな目をしてる。
「畑山くん!!!」
「!?、ああ、すまない」
高千穂は矢を引きながら口を開いた。
「畑山くんも、恐怖感じるよね」
俺は目を見開いた。
「やっぱり!みんな同じよ!あの千歳くんも恐怖は感じる。当たり前のことよ、思い込まなくても大丈夫!」
「どうして……」
どうして恐怖を感じないのか、なんて馬鹿な質問を口にしようとして、止めた。
「私は約束のため、とか私情あるけど。私を動かしてる大きな理由は、みんなの想いを背負ってるってことかな」
迷いの無い目は、俺の心を突き刺した。
「もちろん私も怖いよ。死ぬかもしれないし、大怪我するかもしれない。それでも私が何とかできるなら、歯を食いしばって涙流すより、やることやって少しでも、届かなかった人の想いを届けたい!私は今この場所で、大勢の人の想いを背負ってる!!助けを求められてる!そう考えると、体が動いちゃうのよね」
気付かされたよ、高千穂。そうだな、俺らはみんなの想いを背負ってんだよな!背中押してくれてんだよな!!
「ありがとう、高千穂!!」
「うん!いつもの畑山くんだ!!」
ここで逃すわけにはいかない。姿を現したが最後だ頂!!
頂は2小隊の全員を瀕死の状態に追いやった。
俺がこんなこと考えてる間に、他のみんなは立ち向かって頑張ってた。謝るだけじゃ許されないことをした。
「この気持ち!行動で示す!」
「うん!!私が矢で気を引きつける!滝原くんと畑山くんは死角から不意をついて!その間に私も急所を狙う!!」
「わかった!!」「承知です!」
高千穂の放った矢は、頂の右脹脛に突き刺さる。
頂はカクンと右脚の力が抜けるような素振りを見せるが、すぐに立ち直り、矢を引き抜いた。
奴が視線を矢に落としてる間に、俺と滝原は左右に分かれ距離を縮める。
高千穂はすかさず2本目を放つ。俺と滝原はもう少しで頂に辿り着く。
頂は、高千穂から放たれた矢を片手で掴み、勢いを殺した。
「もう僕に、同じものは効かないよ。飽きちゃった」
両腕を交差させ、両手に1本ずつ持つ矢の矢先を、それぞれ俺と滝原に向けた。
「吹っ飛べ!!」
交差させた両腕を伸ばし、矢を投げ飛ばした。俺と滝原の腹部に突き刺さった矢の重さに乗せられ、頂が一瞬にして遠のく。
俺は地面に足を突っ込むイメージで足を伸ばす。背中から倒れないように前かがみになり膝を曲げ、必死に勢いを止めながら腹部の矢を引き抜いた。勢いは止まり、高千穂の元へ急ぐ。途中で落としたシールドを拾い上げて全力で走る。
頂から高千穂の距離はそこそこあるが、頂は歩いている。間に合う!!
高千穂を1人にするわけにはいかない!
途中から頂は助走を始める。助走とは思えない速さで。地面を蹴るたびに、コンクリートを削る。
まずい!!
「下がれ!!高千穂!!」
頂が先に高千穂の前に立つ。高千穂の前で腰を落として、踏み込む。
「痛いかもねっ!」
頂は振りかぶった右拳を突き刺すように前へ出す。
高千穂は弓を前に出し、少しでも衝撃をなくそうとする。
「俺を殴れクソガキがああああ!!」
間に合った!!
俺は高千穂の前に飛び込んで空中でシールドを展開する。
頂はそのまま拳を突き刺した。
「ガハァ!!!」
腹部から広がる激痛は全身へと響き渡った。
展開したシールドを拳で砕き、そのまま俺の腹部へとめり込んでいた。
後ろにいた高千穂は俺を受け止めようとするも、足は浮き、共に後方へ吹き飛ばされる。
高千穂と道路を抉りながら転がり、弾んで別方向へと飛んでいく。
激痛の目眩と、吹き飛ばされる際に転がりまくって方向感覚も狂う。余計に視界がボヤける。
地面にへばりつくように勢いを止めて、どうにか頂の姿を確認した。
あれは、滝原……!!
滝原は頂を相手に1人で大槌を振り回していた。
滝原は大槌のトリガーを押し込み、大槌の回転を加速させる。
いけ!!少しでもダメージを……!!
ガッ!!
頂は数センチ動くだけで……片手で大槌を受け止めやがった……。
ただでさえ2トン近くある大槌の回転を加速させた一振りを……片手で……。
頂はそのまま大槌を取り上げる。
「取ってみな〜!ほら!ほら!」
頂は大槌を高く上げ、いじめっ子がモノを取り上げた時のような行動をした。
滝原は俺に背を向ける状態で、後退りしてる。滝原の前に立つ頂がやけに大きく見えた。
「怖い?怖いんだ〜いいよ!その反応!」
頂は大槌を後方へ放り投げ、滝原で遊ぶように殴る。
頂に背を向けて逃げようとする滝原の足を引っ張り、突っ伏す滝原を馬乗りで殴る。殴るごとに地面にヒビが円形に広がる。
「た……き……はら……くん!!」
高千穂は何とか立ち上がり、足を引きずりながら弓と矢を拾い上げて、構えて放った。
放たれた矢は頂の左肩を掠った。
頂は殴るのを止め、高千穂に向いた。
「せっかく楽しいのに!!邪魔するな!!」
そう叫んだ後、強めの拳を滝原に振り下ろす。
せっかく……楽しい……だと……?
滝原は涙を堪えながら、敵に背を向けるほどの恐怖を感じて生き延びようとしてたのを、力尽くで殴る様が、楽しいだと?
必死に生きようとする命を……あいつは……何だと思ってんだ……!!!
「こんなにも泣きそうになって堪えてる顔してんだぞ!?面白いじゃん!!なんで邪魔するんだ!!」
頂は歩きながら高千穂の元へ向かう。一歩一歩を地面に叩きつけるかのように。
人が怖がり、痛がり、苦しむ姿を、頂は楽しい、面白いと言った。
その苦しみを、理解できるはずだろ?
いじめっ子を演じてるだけだろ!?
人の嫌がることするのが楽しいって、俺は許せないんだよ。
ー畑山 11歳ー
俺の親友ヒロトは、いじめを受けていた。
顔が悪いわけでもなく、勉強ができないわけでもなく、運動ができないわけでもない。性格もめちゃくちゃいい奴だ。いじめてた奴らを恨んでないし、仕方ないよって寛大な心で受け止める奴だ。
何故いじめられてたのか。その理由は単純だった。
体の一部が機械だから。
人と少し違うから、普通じゃないからっていじめを受けていた。
ヒロトは生まれつき脚が悪く、片脚を機械の義足にしていた。たったそれだけで酷い扱いを受けていた。
「ヒロト!!何でやり返さない!?理不尽にも程があるだろ!!」
「落ち着いてよ剛。俺は人と違うから、仕方ないよ」
「俺は俺はって、ふざけんな!!お前だけ人と違う扱い受けて、怒ってる俺がバカみてえだろ!!」
「剛はバカなんかじゃない、優しい人だよ」
なぜそう笑顔でいれる!!
なぜお前だけいじめを受ける!!
なぜ怒らないんだ!!
体が機械でいじめを受けるのがお前だけなのはおかしいだろ。俺も受けるべきじゃねえのか!?なんでヒロトだけいじめを受けなきゃいけねえんだ。
俺は次の日の放課後、いじめてる奴を呼び出し、問い詰めた。
すると、いじめっ子は泣きべそかいてこう言った。
「だって、畑山くんは強いんだもん」
俺はキョトンとなった。
強いからいじめられない。俺と同じで身体の一部が機械でも弱ければいじめられる。
俺は怒る気は失せたけど、むかついたからそいつを1発殴ってから荷物取りに教室へ戻った。
3日後。
ヒロトはいじめっ子から暴力を受けて入院した。
原因……。
"ヒロトが俺に助けを求めて、俺がいじめっ子に暴力を振るった仕返し。"ってなってる。
いじめっ子は中学生と高校生を連れ、ヒロトに対し殴る蹴るを繰り返した。鉄パイプでヒロトの胸部を殴り、肺の機能を保つ機械の部品が壊れ、肺に刺さって呼吸困難になった。
ヒロトが何をしたって言うんだ。
いじめっ子の言い分として、「機械のくせにいつもヘラヘラしやがって」だってさ。
ただ悔しかった。俺がいじめっ子を呼び出したせいで。俺には手を出さずに、自分の勝てると思ったヒロトだけを一方的にボコボコにして、命の危機にまで陥らせやがって。
ヒロトのお見舞いには毎日行った。
毎日あったことを伝えた。
ヒロトは笑ってた。
でも、ヒロトの体調は悪くなる一方なんだとさ、肺が酷く傷ついて、手術するのも危ないんだって。
死ぬかもしれないのに、なぜ笑ってられる?
ヒロトが笑うたびに俺が辛くなった。
ある日、俺はこの気持ちを全て伝えた。
「そう思わせてごめんね。でもさ、俺の友達は剛しかいないから、剛といる時間が楽しくて仕方ないんだよ。俺だって、やり返そうと思えばやり返せたよ。そこを自分の意思でやり返さなかったんだ」
ヒロトは初めて暗い顔を見せた。
「俺がやり返したら、同じ機械の身体を持った剛もいじめられちゃうし、仲間外れにされちゃう。どんなことにも笑顔でいれるけど、唯一さ、剛が辛い思いしてることに笑顔を作れないんだ」
「バカやろう!!お前がいじめられてることが俺は辛いんだぞ!!」
「うん、ごめん。でも俺は自分のこと以上に、剛には今のままの生活をしてほしいんだ」
ヒロトは涙目ながら笑顔を見せた。
「そんな無理に笑わなくったっていいんだよ!泣きたい時には泣けよ!!親友に嘘の顔見せんなよ!!」
ヒロトは、堪えてた涙が溢れ出した。
それにつられて俺も泣いた。
自分が死ぬかもしれないのに、俺の心配しやがって。
「だんだん苦しくなってくるのがわかるんだ。長くないんだろうなって。でも、剛がこうして毎日来てくれてるから、明日も生きようって思えるんだ」
「まだ諦めるな!!生きれる希望を持ってろ!!ほら!!元気分けてやっからよ!!」
俺とヒロトは拳を合わせた。
「力強い剛の気持ちが流れてきたよ」
「流れただけじゃだめだ!それを力に変えろ!!」
「ははは、無理だよ剛」
ヒロトは心の底から笑っていた。
身体が弱って、必死に生きようとする笑顔は輝いていた。まだこれから先もずっとこの笑顔を見てる気がする。
そして……。
ヒロトは最期まで笑顔を絶やさなかった……。
ヒロトのお母さんから聞いた話だけど、俺が帰った後、夜中、来る前までは相当苦しんでたそうだ。死と闘ってたんだから、苦しまないわけない。なのに、俺の前ではあんなに笑顔で居た。
ヒロトとの最後の約束、俺は守るからな。
ー現在ー
死を前にして、恐怖を抑え笑顔でいることが、どれほど強いことか。必死に生きようとしてる、生き延びたいと思えることがどれだけ素晴らしいことか。
その生きる命を、まだ間に合う命を、鬼神たちは雑に扱い、遊ぶようにして奪っていく。
1人の命に、どれだけの夢と感情が詰まってるか。
亡くなってった人にも、俺とヒロトのような親友だっていたはず。一度は怒りを忘れたけど、俺は許せない。許すわけない。
これ以上犠牲を増やすのは、俺が許さない!
頂は、高千穂の前に立ちはだかる。
両腕を上げ、頭の上で指を絡め、拳をつくる。
「お前も面白そうだな〜」
頂は両手でつくった拳を振り下ろす。
「きゃああぁああ!!」
拳が高千穂に当たる瞬間、俺の渾身の右ストレートは頂の腹部にめり込む。くの字に体は浮き、道路を抉りながら後方へと弾んでいく。
勢いが止まった頂は片膝をつき、肩で息をする。
「頂、俺をいじめてみろよ」




