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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
2/144

1話ー初任務ー

 どうも、初めまして。寿司川 荻丸です。


 「DHUROLL」を開いていただきありがとうございます。


 ここから物語が始まります。


 気ままに自分の描きたい物語を繋げていくので、読んで頂ければと思います。


 何卒宜しくお願い申し上げます。


ー2068年 東京ー


ジジッ

「聞こえるか。お前の初任務だが、気を引き締めていけ。現場の指揮は隊長のウルフから受けろ。視界カメラで確認し、こちらからも情報を送る。今日からお前のコードネームはタイガーだ」


 機械じみた本部の声が頭の中に直接響いてくる。


ジジッ

「嫌だ。コードネームはケンシにしてくれ!」


 まさかの返事にその場にいた3人は唖然としている。


千歳(ちとせ)、お前やっぱ面白えや」


 訓練生になった時からの同期生の藤長(ふじなが)が真面目ぶった顔で言う。その後に、ツンツンとした短髪でキリッとした眉毛の藤長には似つかわしく、くしゃりと笑った。


「任務中、私語は慎め。それと名前はコードネームで呼べ」


 今任務隊長であるコードネームウルフ、川崎(かわさき)さんが冷静な顔でそう言った。全体的に長髪で、前髪は目にかからないように上手く避けている。綺麗な黒髪で、装甲車の前方から差し込む街の光に、頭頂部は円を描く。一見女性のような顔立ちをしており、冷静沈着でクールな性格、頼りになる強さがギャップだ。


 今任務では同期生のコードネームカマキリ、藤長と少し先輩のコードネームシカ、雪崎(ゆきざき)、隊長の川崎の4人。俺と藤長は初任務となる。


 装甲車両に揺られながら、今任務の対象者を隊長から説明される。


「東京都江戸川区に出現したデュロルの情報だ。出現地一帯の避難は既に完了している。対象者は雷を使う厳重注意デュロルだ。ケンシとカマキリの初任務の相手としては油断できない相手だ。気を抜くことが決してないように、わかったか」


「おう!」「はい!」


 俺と藤長で声を揃えて返事をする。


 機械を(まと)う4人が乗る車内は、揺れるたびに金属音が囁く。


 緊迫した空気の中、車輪音と金属音だけ聞こえるのが余計に不安を煽る。


 遠くから雷の音が、まるで地響きのようにして聞こえてくる。


「そろそろ着くぞ!いいな!油断が命取りになる!」


 隊長の顔がより険しくなる。


 現場に到着し、特殊な(さや)の刀を腰に装着する。連結部分は、通常時は折り畳まれており、腰にピタリとくっつくよう設計されている。抜刀時に鞘を握って後方へ力を加えると、折り畳みが解除され、球型の関節により自由に動かせるようになる。鞘から手を離すと自動で折り畳まれ、また腰にくっつく。


 手に持つ、透過モニターを使用した頭部装備に目を落とす。真っ黒な空を反射する透過モニターに映る、風に(なび)いた銀髪の自分を、憧れの父と照らす。


 頭に沿って反るモニターを顔面に近づける。耳の後ろで装着時の機械音が鳴る。装着と同時にモニターが起動する。そこに風速や天気、気温、任務情報、各種パーツの破損率などが表示される。耳に埋め込まれた無線と連携し、モニターには発信者の名前が左下に小さく表示される。


 エキポナの目の膜は高性能なカメラになっている。エキポナ本人が目玉を動かしても、カメラは動かず、一定方向を本部の機器へと発信する。透過モニターは視界カメラには映らないよう改良されている。


「よし、最終確認だ。今任務は他部隊からの応援要請となる。チームアグアの数名が先に交戦を開始している。遠距離部隊と連携を取り、近距離部隊の我々が距離を詰める。行くぞ!!」


 ガコガコと地面を掴むように走り、対象のデュロルが見える箇所まで近づく。


 俺らはビルの間に入り、覗き込むようにして対象のデュロルを見やる。


 デュロルは人の形をしている。全身は黒く筋の入った皮膚に覆われ、体の箇所を白い装甲が身を守っている。関節部分は曲がるよう装甲が付いていない。顔は基本的にパーツが無く、仮面のようになっている。容姿は個々違いはあるものの、基本的なことは全てのデュロルに当てはまる。今目の前にしているデュロルも、顔にパーツは無い。


 エキポナである俺たちも、皮膚の下に人工筋肉が施され、それに比例して皮膚も丈夫になる。軍服も防弾防刃仕様で身を守ってくれる。軽く丈夫な素材の装甲も装備しており、これによってデュロルの身体能力に近付いている。


「チームアグアの報告によれば、デュロルはまだ自分の能力を使いこなせていないようだ」


 対象のデュロルは両脇にビルが立ち並ぶ道路の真ん中で地面に(うずくま)っている。


「俺とカマキリ、シカとケンシで分かれる。挟み撃ちの合図は俺がする」


 声を発さずに頷き、静かに別れる。まだあいつは俺らに気付いていない。


 俺と雪崎は道路の向かいのビルに行くため、チームアグアが気をひいた瞬間に渡る。


「タヌキさんお願いします」


 雪崎が耳に手を当て指示を出す。


 すると、俺らがいる反対の方角で破裂音がした。あいつは音の方を恐る恐る確認している。この瞬間を逃さず向かいのビルへ急ぐ。


 渡る最中、後ろを光が遮った。直後、心臓を掴まれたような爆音に纏われ、俺は走りながらよろめいた。


 後ろを走っていた雪崎は、道路の真ん中で立ち止まっていた。


「雪崎〜!早くしろ〜!」


 俺は声を荒げないよう静かに叫んだ。


「だ、誰だお前!!僕に近づくな!」


 俺の横から潰れそうな叫び声がした。


 あいつを見やると、手の平を俺に向けていた。


「やべ。雪崎、俺見つかった」


 あいつの手にビシビシと光が纏い始める。あいつの後ろから川崎さんが飛びかかる。川崎さんとあいつが倒れ込むのを見て我にかえった。


「川崎さん!!」


 俺は走り出した。特に何か考えがあったわけでもなく。体は勝手に動き出していた。


「おい!ケンシ!?」


 雪崎の不安げな声が後ろから聞こえた気がする。


 俺は立ち上がろうとしているあいつを抱き上げ、投げ飛ばした。


「感謝する」


 どこまで冷静なんだ川崎さんは。そう思わせるほど焦っていない表情で俺を見る。


 立ち上がったあいつは右手から雷を爆音と共に放つ。


 向かいのビルに雷が当たったのが一瞬だけ見えた。


 あいつは自分の放った雷の威力によろけている。


 確かに能力の正確さはないらしい。


 川崎さんに手を引っ張られ、ビルとビルの隙間に連れていかれた。


「ケンシ、その判断は間違ってなかったが、自分の命を危険に晒したんだぞ!」


「そうですけど、誰か動かんとダメじゃないっすか。川崎さんに任せっきりにしたくなかったし」


 川崎さんは何も言わずに立ち上がり、数歩歩いて振り向いた。


「コードネームで呼べ」


 川崎さんの目が少し、優しく見えたのは気のせいかな。


 俺と川崎さんが話してる間、藤長と雪崎があいつの相手をしていた。2人とも刀を抜いていない。


 本部が抜刀するほどの相手かを判断する為、許可を待たなければならない。


 藤長と雪崎は、お互いを邪魔しないよう、交互に接近戦をしている。若干あいつに押され気味だ。


ジジッ

「本部!俺に抜刀の許可を!!」


 俺は本部に訴えた。このまま抜刀せずにグダグダやっていても、被害が増えるだけだ。


ジジッ

「ダメだ。まだ上からの許可がおりない」


 上の奴らは何考えてんだ、あいつ相手に素手でやれってのか。被害が出てからじゃ遅ぇんだよ!!


「クッソ!!!」


 俺はビルの間から飛び出し、あいつに向かって走り出した。


「おいケンシ!何する気だ!!」


 後ろの川崎さんが叫ぶ。


 俺があいつに近づく間に、藤長と雪崎が雷を帯びたパンチで吹き飛ばされる。


 デュロルは通常の人間と違って身体能力が大幅に上昇している。デュロルにも個々それぞれ技量や力量も違うが、大抵並外れているのは確かだ。


 藤長はビルの3階の壁まで飛ばされ、背中からぶつかり、地面に叩きつけられた。


 雪崎は10メートルほど地面に引きずられるように飛ばされる。


 その一瞬の出来事が俺に火をつけた。


「てんめええええ!!!」


 俺はあいつの脇腹、腹、顎と連続して拳を打ち込んでいく。


 あいつが雷を右手に纏うのが一瞬見えた。その手を掴み、力ずくだが一本背負いで地面に叩きつけた。


 空手と柔道は訓練の時に死ぬほどやらされたお陰で体が覚えている。


「や、やめてよっ!」


 倒れ込んだデュロルが怯えるように言う。


「お前がやめろよ!これ以上街を壊してどうすんだよ!」


 その問いにデュロルは下を向いた。


「お前!名前は!!」


 しばらく考えるように下を向いて、目や鼻、口のない装甲に包まれた顔で俺を見た。


「す、菅岡(すがおか)……(たける)


 倒れている雪崎の元へ駆け寄る川崎さんが横目に映る。


「菅岡か、俺は千歳(ちとせ)だ!」


 手で頭をおさえる仕草をする川崎さんを横目で確認できるが、俺は続けた。


「菅岡、なんでこんな暴れてんだ?」


「……お前らには分からないよ」


「ああ!分からないから聞いてんだ!俺はもっとデュロルのこと知りたいのによ、周りの人は全然教えてくんねえの」


 菅岡は怯えながら立ち上がり、俺を見上げた。


「僕……」


 話し始めた菅岡に、興味津々で頷く。


「暴れたくて暴れてるわけじゃないんだ。今凄く怖いし。殺されるかもしれないし」


「ほう!俺らに?」


 静かに頷き、菅岡は続けた。


「君たちエキポナだけが怖いんじゃない。むしろエキポナに助けを求めてた」


「ん??」


 どういうこっちゃと思いながら首をかしげた。


ジジッ

「ケンシ、そこまでにしろ」


 この本部からの命令も無視し、菅岡の話を聞く方を選んだ。


「今この瞬間僕がエキポナと話したり、ましてやエキポナに助けを求めてることがあの人に知られたら、僕は殺されちゃう」


「あの人って、最近ニュースで見かける鬼神(アラハバキ)ってやつらか?」


 菅岡は周りを見渡して、頷いた。


 俺は菅岡を肩に担ぎ、ビルとビルの隙間に入った。


「ここなら周りを気にしないでいいだろ?なあ、鬼神(アラハバキ)のこと聞かせてくれよ」


 菅岡は静かに頷いた。


「僕は、8歳の時にあの人のとこに連れてかれて、『俺が今からお前たちを育てる』って言われたんだ。それから……それから……」


 菅岡は膝を落とし、頭を抱えた。


「あいつのせいで……あいつのせいで……」


「お、おいどうしたんだよ!」


 菅岡の肩に触れた瞬間、菅原は狂ったように叫び始め、俺を蹴り飛ばした。


 見事にビルの間から大通りに抜け、倒れていた藤長の横を通り過ぎた。


 痛みは無い。確実に腹を蹴られたのに。


「ケンシ、デュロルとの接触は極力避けろ」


 川崎さんが俺の肩を叩き、そう言った。


「ほっとけねえっすよ!!」


 菅岡はそのまま大通りには出て来ず、ビルの後ろから逃げていった。


「おい、行くぞ!」


 川崎さんに続き、菅岡を追いかけた。雪崎は藤長の元へと駆け寄る。


 追いかけてる最中、「チームアグアの人達は何してんですか」と聞いた。


「デュロルの雷が直撃して装備(パーツ)故障(ショート)したらしい。2人はパトロール中に巻き込まれたから仕方ないと言えば仕方ない」


 エキポナは定期的に街をパトロールしている。パトロールの際は戦闘用装備をせず、デュロルが出現した時に対処できる必要最低限の装備しか持ち合わせていない。


「なーるほど」


 ビルの間をスルスルと走り抜ける菅岡の後ろを、ビルと接触し金属音をたてながら追いかける。


 すると川崎さんがダンッと地面を蹴り、菅岡に覆い被さるよう飛び込んだ。すごい飛距離だ。


 川崎さんは菅岡にしがみ付き、2人して地面に倒れ込んだ。


 川崎さんが俺を見て「代われ!」と指示を出す。俺は川崎さんに代わって菅岡を地面に押さえつけた。


 川崎さんは片膝立ちをして、鞘に納刀してある柄を握りしめ、アクセルに手をかけた。


 基本的な武器の1つ、日本刀の形をした鋼椿(はがねつばき)。俺の所属するチームルナは主にこの鋼椿を使用する。


 刀を握る部分にアクセルがついており、これを握ると刀身の溝が大きく広がる。これを抜刀時に行うと、鞘の中で勢いよく回転するローラーのスイッチが入る。溝部分にローラーが入り込み、抜刀の勢いを加速させ、切断の手助け及び威力を格段に増加させる役目を果たす。


 って待て!菅岡を切ろうとしてんのか!


 俺は菅岡の前に出て、全身で庇う。


「待ってくれ!こいつは悪くない!!悪いやつんとこから逃げてきて、俺らに殺されるんじゃねーかって怯えてる!!」


「どけ!命令だ!」


「嫌だ!!何の罪もないデュロルを殺すなら、俺はあんたに刀を抜く!」


ジジッ

「ケンシ!殺すわけじゃない!こちらからウルフへの指示だ!」


ジジッ

「はい?指示?」


ジジッ

「指示だ!脛の装甲を砕いてから、気絶させるように指示した!!」


「そういうことだケンシ。抑えておけ」


 俺は腑に落ちないまま菅岡を抑えてしまった。


 川崎さんはアクセルを握りしめ、ローラーを回転させ甲高い金属音をたてながら勢い良く刀を抜く。


 その抜いた刀の柄先が菅岡の脛に直撃し、装甲が砕かれた。


「すげえ、弾丸でも砕けないのに」


 雪崎に担がれて追いついた藤長が、その威力に感動し言葉を漏らす。


 菅岡は破壊された左脚を抱え、(もが)いている。


「なりたくてデュロルになった訳じゃないのに!!!!」


 掠れて千切れそうな声で菅岡が叫んだ。


 俺と川崎さんは菅岡をの目線に合うよう腰を下ろした。


「デュロルにさせられて、人生壊されて、あいつの言うこと聞くしかない僕が、何でこんな目に合わなきゃいけないんだ!!!」


 川崎さんは菅岡の肩に手を置いた。


「俺らは、お前を保護する」


「……え??」


「心配するな。捕食以外で殺人を犯してないデュロルは保護している」


「あの人は、殺すって……言ってた……」


「俺らの印象を悪くしてやがるなあいつら」


 川崎さんは鞘に納刀された柄に手を置く。


「ちょっと痛いけど、我慢してくれ」


 川崎さんはもう一度アクセルを握り、甲高い音と共に刀を抜き、柄の先をデュロルの装甲の無い腹部の鳩尾(みぞおち)へ打ち込む。


 うっ!と振り絞る声をあげ、パタリと力が抜け地面に崩れた。


「え、川崎さんちょっと強引すぎじゃないっすかね」


「強引だが仕方ない。起きてるとまたいつ暴れだすかわからんからな。それに、コードネームで呼べと言っているだろ」


 そう言うと川崎さんは菅岡を肩に担ぎ、装甲車両の方へと歩き出した。


 死傷者0人、菅岡(すがおか) (たける) 保護。


 あ、藤長無事かな。


「藤長あああああ!!無事かああああ!!」


「無事かああああじゃねえよ!見ただろあんだけ吹き飛ばされた俺をよお!」


「ああ、見てた。大丈夫そうだな」


「よくそんな事が言えるな!大丈夫だけども!!」


 藤長は無事なことを手を大きく振り回してアピールした。


「雪崎も無事か??」


「僕も無事だよ。ケンシだって吹き飛ばされてたけど、その様子じゃ大丈夫そうだね。あと、コードネームで呼んで?」


ジジッ

「おっつかれ様〜〜!みんな気をつけて帰ってきてね〜!!」


 今までにないキンキンした声にビックリした。この声は絶対に高千穂(たかちほ)だろう。元気だけが取り柄だが、何故本部の指令室にいるのか。


 俺らは装甲車両に乗り、東京本部に戻る。





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