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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
19/144

18話ー咲村 公平ー

 名古屋に出現した鬼神幹部 咲村 詩織。


 力に圧倒される中で、それでも雪崎は立ち向かう。


 明かされる咲村の過去……。


 私はその後も、何度も彼と会って話をした。


 彼といる間だけ、女の子になれた気がした。


 憧れだった普通の女の子。


 私はこの時、もう人を食べなくても大丈夫だったから、血の匂いはしないはずだし、お風呂も入ってる。たまに、欲しい服着た人がいたら奪うくらいで、それ以外はもう普通の女の子。


 彼と色々な場所に行って、遊園地で告白されたの。人生で初めての感情だった。なんて表していいかもわからないほどにね。


 そして14歳の冬、私は彼との子を授かった。


 苗字があるのかすらわからなかった私は、彼の苗字をもらった。


 初めての恋。


 最初、仲間のみんなには否定された。人間に恋したなんて頭大丈夫かまで言われた。けど、恋しちゃったんだから仕方ないじゃない。


 お腹に子供がいるって伝えると、みんなは渋々受け入れてくれた。


「公平に手出したら、許さないから」


 15歳秋、私は人間の子を産んだ。


「遥か遠い未来でも一緒にいましょう。この子が私たちを結ぶの」


「もちろんだよ。頑張ったね詩織、頑張った。ありがとう。お金のことは心配しないで!」


 公平との子を産んで良かった。心の底から幸せだった。


 この子の名前は(はるか)。私たちを結ぶ子。


 ……。


 そんな幸せも、そう長くは続かなかった。


 遥が2歳の時、告白された遊園地に遊びに行った。遥が歩き疲れて寝ちゃった帰り道。当時世間を騒がせていた通り魔が、遊園地内で次々に人をナイフで刺していった。


 通り魔は私たちの方へ向かってくる。私と遥を守ろうと前に出る公平。死なれたくない。公平に死なれたくない!


 私は公平の前に出て、腹部を刺された。


「詩織!!!!」


 遊園地内は悲鳴と叫び声で充満する。


「ひっ!ひぃ!ひぃやあぁあぁああ!!」


 通り魔は足に力が入らずに崩れる。


「詩織……なのか……?」


 私はデュロル。人に恋したデュロル。


 公平の顔は見れなかった。腹部に刺さったナイフを抜き、通り魔の胸ぐらを掴み上げ、遊園地を走り抜けて敷地を出た。


 終わった。


 この姿を見られた。


 もう戻れない。


「お前がいなければ、私は公平の前でこの姿にならずに済んだのに……!」


「ひぇええぇぇえ!デュ……ご、ごめんなさいいいいいぃいぃ」


 通り魔を殺した後、私はその場を離れた。


 嫌われた。


 全てを失った。


 公平を傷つけてしまった。


 しばらくの間は、四六時中公平のことを考えてしまっていた。でももう、忘れないと。





ー9年後 咲村 詩織 26歳ー


 鬼神(アラハバキ)として動き出し、夕方の街で誘拐する子供を探している時、遠目ではあるけど、遥らしき子を見つけた。


 遥らしき女の子と、見たことない女性、見たことのない遥より小さい男の子の3人で、スーパーから出てきた。


 今日までの間、忘れよう忘れようって考えてきた。でも、見ちゃったらさ。思い出すよね。


 公平は……いないか。


 遥、私たちをつなぐ子。あの子がいるから私たちは繋がっている。あの子は、邪魔。


 毎日、ほとんど同じ時間、同じスーパーに買い物に来る3人。いつもいる女性が遥から目を離した時、遥の手を引く。


「え?誰?」


 遥を店の外に引っ張り、横道に入ってしばらく行き、人気のない薄暗い路地裏まで来る。


「遥姉ちゃん!」


 一緒にいた男の子が付いて来てたのは知ってた。やっぱ遥なのね。


蓮斗(れんと)!危ないから来ちゃダメ!」


「遥姉ちゃんを離せ!」


「そこで見てな、小僧」


 私はデュロルの姿に変わり、酷く動揺する遥の頭を鷲掴みにする。簡単に握り潰せてしまうほどに柔らかい頭。


「遥」


「なんで私の名前知ってるの?」


「あなたが生きてると、切れないの。お母さんが鬼神(アラハバキ)なんて不幸だったわね」


「お……かあ……さん……?」


 私は、遥の首を捻り回した。反対に向いた顔と目が合った”れんと”と呼ばれる男の子は、膝をついて艶のない目で私を見る。


 手を離し、崩れ落ちる遥。それにも目を向けない男の子は、ずーっと私を見る。


 男の子の口元はパクパクと動いてるけど、息が漏れているだけで声は出てない。


 この男の子を誘拐しようと考えたけど、遥が私に殺されたことを知らせるために、やめておくことにした。


「私は、詩織(しおり)。遥は私の子。これで公平を忘れられる!」


 遥を殺した。でも、なんでだろう。なんかモヤモヤする。


 私が歩き出しても、その男の子はそこに膝立ちしたままだった。





ー現在ー


「でも、公平はまだ、私の中にいる」


 咲村は右手で胸元を抑え、そう言った。


「……はぁ!?」


 思わず声に出た。


「お義父さんを忘れるために遥姉ちゃんを殺したんでしょ!?なのにお前の中にいるっておかしいだろ!!」


「私も最初は、殺せば忘れられるって思った。けど、忘れられるわけない」


 それじゃ、何のために遥姉ちゃんは殺されたんだ。ただ、死んでいったようなもんじゃないか。


 ふと僕は周りを見る。


 周りに倒れてる人、命を落とした人。


 この人たちは、その人の人生と何の関係もない咲村に、ただ殺されていった人たち。


 殺された人、撃たれた人、それを見た人、見守ることしかできない人、大切な人を目の前で亡くした人、帰りを待つ人、その死を知る人。今まで鬼神(こいつら)がやってきたこと。


 それは、ただ理不尽で、行き場のない悲しさと、鬼神に対する怒りだけが残る残酷極まりない行為。


 ただ人間が憎いから殺す。そんな理由でここにいる人や、殺されてしまった人は被害にあったのか。


 遥姉ちゃんにも夢があったんだ。将来漫画家になりたかったって。みんなにも家庭があったり夢があったり。それ全部を!一瞬で奪った!!


 その元凶の1人が目の前にいる!!


 千歳くんはそれを止めようと名乗り出た。僕も大賛成だった。けど、怖かったんだ。年下の子たちが僕よりも強くて、優秀で、元気で、行動力あって。しかも僕は一度鬼神の子にやられてる。鬼神対策本部にも入れない。鬼神の幹部の咲村を倒すためにJEAに入ったのに。


 そんな弱い自分が嫌いだった。


 でも、今そいつを目の前に、ここまで戦ってる。引くわけにはいかない!僕がやらなければ!!


 そして、お義父さんの気持ちを、真実を伝えなければ!!


 僕は動かなかった両腕を、痛みに耐えながら動かす。


 僕は野次馬の中にいるお義父さんの顔を見た。


 お義父さんは、悲しい顔をして頷いた。


「わかった……」


 僕は咲村を見やる。


「僕があんたを倒す前に、真実を知れ」





ー咲村 公平 18歳ー


 高3の夏、公園である少女を見かけた。


 ボロく汚れた服装で、何日も同じ公園の自販機の下を覗き込んでいた。


「喉乾いた?俺が奢ってあげるよ!」


 勢いよく振り向く少女の目つきは恐ろしく、可愛げがあった。


「そんな怖い顔しないで、可愛い顔がもったいないよ!あ、それとも俺、怪しく見えた!?それならごめん!怖がらせるつもりじゃなかったんだ!」


 俺は手を合わせ、深くお辞儀した。いきなり年上の男にこんなこと言われたら怖いし、気持ち悪いよな。


 言っちゃった〜と恥ずかしくなりながらも俺は笑っていた。


 少女はしばらく黙った後、小さな口が開いた。


「うん、喉乾いた」


 この子と話をして、遊んで、久々に幼い頃を思い出した。汗を吸い込んだ服は、甘酸っぱい匂いがした。


 僕は詩織と遊ぶこと、会うことが楽しみになっていた。高校最後の夏休みを彩ってくれた。


 高3の秋。遊園地で詩織に告白した。


 素直に、飾らずに気持ちを伝えた。そしたら、泣いて喜んでくれた。


 そこから交際が発展し、高3の冬だった。彼女は妊娠した。


 俺はなんてバカなんだ。14歳の詩織を妊娠させてしまうなんて。


 学校は大丈夫なんだろうか。詩織の家族は許してくれるだろうか。早すぎる妊娠に、いろいろなことを考えた。


 でも、詩織はすごく幸せそうな笑顔でこう言った。


「これで、公平の苗字がもらえるのねっ」


 その笑顔を守ろう。そう誓った。俺がしっかりと働いて、子を授けてしまった責任はしっかり取る!


「詩織、学校は大丈夫なのか?」


「学校行ってないよ!だから大丈夫」


 詩織はまだ義務教育の途中。学校に行ってないのには理由があるのかな。


「ご家族の方に挨拶しないと。今度家に行けないかな?」


「家族はいないよ!だから挨拶しなくても大丈夫!2人の子を産もう?」


 詩織は俺と会ってない時どうしているのか聞いても教えてくれない。何かあることは確実だ。けど、知ろうとは思わなかった。いや、思えなかった。


 悲しい過去を持ってるのは明らで、でもそんな子が、今目の前でこんなにも幸せそうな顔してるの見たら、暗い顔なんて見たくないって思っちゃうじゃん。俺が守らないと。


 俺は高校卒業後すぐに就職した。体力仕事だけどやりがいはあったし、夜のバイトも疲れるけど、詩織と産まれてくる子のためだと思えば頑張れた。


 19歳 秋。


 俺と詩織を結ぶ子、遥が産まれた。


 言葉にできないほど可愛くて、愛おしかった。


 そんな幸せな時間がもっと続いて欲しかった。


 遥 2歳。


 俺が告白した遊園地に3人で遊びに来ていた帰り道、遊園地を出ようとした時。


 通り魔が、詩織を刺した。


 俺は思わず声が出た。その瞬間がやけにスローで、脳に刻まれるようだった。


 目の前の詩織が、デュロルに変わる。


 この一部始終は、ずっと脳裏に焼き付いている。


 俺は気が付くと、エキポナに抱えられていた。


 辺りを見渡すと、遥も女性のエキポナに抱えられて無事だった。


 エキポナ……デュロル……詩織は??


「詩織!?詩織!!!しおり!!!」


「お兄さん落ち着いて!」


「詩織は!!!詩織をどうした!!詩織はどこだ!!!!」


「詩織?ご家族の方ですか?」


「ああ!!」


 脳裏に焼き付いて離れない、デュロルになった詩織が映る。


「デュロルだ、さっきのデュロルが詩織だ……」


「あのデュロル、お兄さんのお嫁さんなんだね。僕らとしては失態だけど、逃げてしまったよ」


「詩織は無事なんだな!!」


「おい兄さん!!どこ行く!!ここら辺は危険だ!!」


 エキポナの人に囲まれ、身動きが取れない。


「詩織ー!!!」


「いくらお嫁さんでも、デュロルなんだぞ!殺される!!」



「んなの知るかよ!!詩織がデュロルだろうが何だろうが!俺の愛した詩織なんだよ!!!」



 俺の叫びは届かず、抑えられてしまう。


 その日から空いてる時間は全て聞き込みに回った。少しでも詩織の情報が欲しい。少しでも詩織に近づけたら。


 しばらくして、俺は1人の女性に出会った。


 夫に浮気され離婚し、小さな子を連れて「咲村 詩織さんの情報何かご存知ないですか?」と聞きまわってたのが彼女だ。


 彼女は雪崎 つぼみ。遥の2個下の4歳の男の子、蓮斗くんを連れていた。つぼみは「チラシを見て、私も力になりたいって思いました」と丁寧に答えた。つぼみ自身も大変な思いをしてるのに、それでも俺に時間を割いてくれてることが嬉しかった。


 全てをつぼみに話した。全てを受け入れてくれた。


 好きって感情は芽生えた。けど、愛してるのは詩織。そこをつぼみは理解してくれていた。肉体関係のない純な関係。自然と一緒に暮らしていた。遥もそれが嬉しかったんだと思う。義弟ができたことが、嬉しかったんだよな。


 遥 11歳。


 いつものように3人が買い物に行った日。


 先に蓮斗だけが、表情を無くして帰ってきた。


「遥姉ちゃんが、しおりって人に殺された」


 俺は心に穴が空いたようだった。


 詩織が居なくなって9年。愛して育てた遥が、詩織に殺された……。


 涙すら出なかった。認めたくなかった。作り話であってほしかった。


「2人を結ぶ()


 この意味は俺には大きすぎた。詩織はもう、俺なんか求めちゃいない。


 俺がこの時、デュロルにならなかったのは、つぼみと蓮斗のおかげだ。


「お義父さん!僕エキポナになって、遥姉ちゃん殺したやつ倒す!」


 こんな小さな子に、俺は頼ってしまった。


 蓮斗 19歳。


「お義父さん、鬼神が活動を再開したみたい。咲村が出たら、僕は行くよ」


「ああ、頼ってしまって悪い。情けない父でごめんな」


「そんなことないって。そろそろ切るよ、じゃあね」





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