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DHUROLL  作者: 寿司川 荻丸
【起】
18/144

17話ー咲村 詩織ー

 日本各地へ東京チームエル・ソルの奪回へ向かった千歳一向。


 千歳達が各地へ散らばったのを狙って、鬼神幹部である咲村は動き出した。


 再び……。


 駅前は騒然とする。


 女デュロルは通行人を的確に狙ってマシンガンを連射している。弾が無くなると肩掛けバッグから、手際よくマガジンを取り出しリロードを行う。


 付近の交番や支部からエキポナが到着した頃には、既に100人近くの人が犠牲になっていた。


 到着したエキポナにもマシンガンを向けてトリガーを引く。いくら装甲があったとして、次々と受ける銃弾の衝撃には耐えられず、被弾してしまうエキポナがほとんどだった。


 女デュロルは手際よくリロードを行い、使用している銃の弾が無くなると、その銃を投げ捨て、バッグからピストルを取り出す。


 流れ作業のように逃げてる人に向けて撃つ。


 到着したチームアルボルの人らがシールドを展開するも、女デュロルは飛び上がっては逃げ惑う人々を狙って、頭上から雨のように銃を撃つ。


 展開されたシールドをも飛び越し、エキポナにも銃を向け射撃する。


 目の前で友人や恋人、家族が撃たれてしまった人々。その場にいた人たちは、エキポナでさえ止められない女デュロルに絶望を覚えた。


 だがそんな中、1人の青年が到着する。


 女デュロルの元へ猛ダッシュをする青年。その勢いに女デュロルも気付き銃を構えるも、少し動揺する素振りを見せた。


 動揺したことにより青年は女デュロルに突っ込むことができた。女デュロルと青年は数メートル後方に倒れ込む。


 立ち上がる女デュロルは、青年を見て言葉を発した。


(はるか)と一緒にいた小僧か......?」


 青年も立ち上がり、女デュロルを睨みつける。


咲村(さきむら)......あんただけは許さない。よくも(はるか)姉ちゃんを......!」


 青年は噛み締めながら睨みつける。


「姉ちゃん?血は繋がってないでしょ。私に『2人目』はいないの」


「血は繋がってなくても姉ちゃんだ!僕は、咲村、あんたを殺すために、仇を討つためにエキポナになったんだ!ここで終わりにする!」


 僕は無我夢中で咲村に斬りかかる。


「そんなデタラメな攻撃が当たるとでも思っているの?」


「うるせえ!あんたを殺す!!」


 これが僕のダメなとこなんだ。わかってる。目の前に敵がいると冷静さを失う。自分でもわかってるんだ。でも、この感情を抑えきれない。


ジジッ

「シカ!落ち着け!!直ちに離れろ!その至近距離で発砲されたらいくら装甲と人工筋肉でも耐えられん!!女の背負ってる散弾銃が見えないのか!!」


 本部からの命令も頭に入ってこない。うるさいとしか思わない。


「ねえ!あの人どこの所属!?無茶苦茶すぎるって!!あのデュロルも発砲してないのが不思議なくらいだよ!」


「だがあの子のお陰でデュロルの注意を引けてる。一般人の避難と隙をつくチャンスともいえる」


「でも、このままだとあの人が死んじゃう」





ジジッ

「シカ!!聞こえてるだろう!!」


「堀さん無理です!雪崎(ゆきざき)聞こうとしません!」


「雪崎……。腕は確かなんだから、落ち着いて冷静になれば倒せない相手でもなかろうに……」


「焦ってるようにも見えますね」





「えー只今、名古屋駅前で大量殺人をするデュロルに対し、JEA名古屋支部が交戦しています。近隣の方は速やかに避難してください」


 朝のテレビに映ったそのニュースが、俺の身体を自然と動かす。


 行かなくちゃ。ただその感情に動かされる。


 あれは、確かにそうだった。


「……蓮斗(れんと)!」


 あのデュロルも、絶対そうだ。


 俺の目頭は熱くなっていた。





「あんただけは……!!」


「わかっているのか、私はいつでもお前を殺せる」


「死なない!!死ねないんだ!!」


 感情を抑えることができず、半泣きで咲村に向かって刀を振り続ける。


「隊長!もう見てられねえっす!!」


「おい!!登一(といち)!!!」


 チームアルボルのシールドを越えて飛び込んできたのはチームフエゴの青年だ。


「おい!!キミ!!無茶苦茶すぎるって!」


 青年はそう言うと、咲村の横まで素早く移動し、大槌を振るう。避けられないと判断した咲村は両腕でバツをつくり、上半身で大槌を受け止めると、腕の装甲を飛び散らしながら、勢いで後方に引きずられている。


 その隙をつき、シールドを展開していたチームアルボルのリーダー含め兵士たち8名が一斉に取り押さえにかかる。


ジジッ

「チームアグア、チームルナの全員と、チームフエゴの数名が被弾している!増援を求む!」アルボルのリーダーらしき人がそう言った。


 僕が咲村を追おうとした瞬間、青年は僕の前に立つと、僕の顔を拳で殴る。


「いい加減目を覚まそうよ!!死んじゃうよ!!死んじゃったら元も子もないんだよ!!」


 僕は驚いたが、そこで初めて青年の顔を直視することができた。


「私情があるのかもしれない!けどこれは任務だよ!!キミだけの問題じゃないんだ!!目を覚まそうよ!!!」


 僕はこの青年に気付かされた。


 僕は今、JEAとしてここに立っているんだ。このままじゃ、いつもみんなの足を引っ張ってきた僕と変わらない。変わらなくちゃいけない。


「キミがここで死んでしまったら、悲しむ人もいるんだよ!!誰かもわからない人にこんなこと言われてもムカつくと思う、うるさいと思う。けど!目の前で人が死ぬのは嫌なんだ!当たり前のことかもしれないけど、嫌だから、本気で止めるよ!」


 僕が死んでも悲しむ人なんていないさ。ずっとみんなの足手まといで、何もできない幼稚で独りの僕が死んだところで……。


 その時、避難する市民の間をくぐり、警備に取り押さえられながらもこちらに向かってくる男の姿を見た。


「……と……!……んと!!……れ……」


 何かを叫んでいるが、周りの音にかき消されて何言ってるかは聞こえない。けど、誰だかわかる。


 僕は目を覚ました。


 今にも泣きそうな顔で、僕に向かって叫ぶ男。いた。悲しんでくれる人だ。


「……義父さん」


 僕は立ち上がり、青年を見た。


「ありがとう。君のお陰で目が覚めたよ」


「うん、目を見ればわかるよ!」


 ダン!ダン!!パパパパンパパパパン!


 咲村を取り押さえていたチームアルボルのシールドの間から銃声が響く。


 僕と青年は咲村を見やった。


 4名のアルボルの兵士が被弾し、その兵士たちをシールドごと蹴り飛ばす。


 開けた場所から咲村は前転で抜け出し、背中の散弾銃を構える。シールドの後ろに回りこもうとするが、残ってるアルボルの兵士4名は互いに背中をくっつけ、四方を塞いだ。


 咲村は一瞬立ち止まり、四方を塞いだアルボル達に向かって走り出す。咲村は飛び上がり、空中で散弾銃を構える。1名のアルボル兵士が、咲村から撃たれないようにシールドを上に向けた。


 それを見た咲村は、即座に腰につけたポーチから手榴弾を取り出し、散弾銃を構える右腕の装甲の出っ張りを使い、手榴弾の栓を抜くと、地面とシールドの足元の隙間に投げ入れた。咲村はそのまま上を向いたシールドに着地し、アルボルの兵士が手榴弾に気付いた瞬間に爆発する。


 アルボルの兵士4名は立ち上がることができない。


 咲村はノロっと立ち上がり、両腕を(はた)いた。


「み、みんなやられちゃった。しかも!腕の傷が無くなってる!!」


「咲村は再生の能力だよ、どこまでの傷が癒えるのかはまだわからないけど」


 咲村は一息つくように、散弾銃を背負い、ポーチとバッグの中を見て残弾数を数える。


「君のおかげで冷静になれた。でも僕は、あのデュロルを倒すためにJEAに入ったんだ。ここで引くわけにはいかない」


「2人でやろう。増援が来るらしいけど、待ってる間にみんなやられちゃう」


 ほとんどの兵士が被弾し、思うように動けずにいた。


「よし、僕のコードネームはシカ!2人でやろう!」


「コードネームはマット!」


「マット!君は左から!僕は右からいく!」


「了解!!」


 左右に分かれ、咲村に近づく。咲村は両手にマシンガンを持ち、近づく僕たちに向けて発砲する。連射速度の速いマシンガンで、十数発ほど被弾してしまった。最初は、傘を思い切り突き刺されたような痛みから、鋭いものが突き刺さる痛みに変わり、人工筋肉を貫くようになると、激痛へと変わっていった。


 視界がフラつき、倒れ込みそうになるも、力強く踏み込んで耐える。咲村は弾が切れると、後方に下がりながらリロードを行う。この隙に一気に間合いを詰める。咲村が一丁のリロードをし終えた段階で、マットは咲村に追いついて大槌を振るうも、一丁を投げ捨てて避けられてしまう。大槌を振った際に生じる大きな隙をつかれ、マットの腹部に銃口が当たりそうな距離で連射される。


 被弾したマットは、左手で出血する腹部を押さえながらよろよろと後方へ数歩さがった。咲村は、そのマットを蹴ろうと右足を動かす。


 その瞬間に僕は追いつき刀を横に振るう。咲村は左足を軸に回転し、動かした右足で柄を握る僕の手を後蹴りした。その衝撃で僕は刀を落としてしまうが、咲村の懐に素早く入り込み、肩から突っ込んだ。


 咲村は2歩後退りし、手に持つマシンガンと背負う散弾銃、バッグを投げ捨て、腰につけたポーチから手榴弾を2個取り出し、2つとも装甲で栓を抜き、僕を抱き締める。


「シカくん!!」


 僕の両脇から鼓膜の破れそうな爆発音がした後、キーンと耳鳴りがして、視界が揺らいでいくのがわかった。


「シカくん!!シカくん!!しっかり!!」


ジジッ

「シカ!!応答しろ!!おい!!」

「ダメだ!死んでないよな!?」


「脈はあります!」


「よし!雪崎の近くにいたあの青年の視界もらえるか!」


「コンタクトとります!」

ジジッ

「こちら東京本部!現在名古屋駅前出現の女デュロルに接近しているチームフエゴの青年の視界を流してもらいたい!」


ジジッ

「こちら名古屋支部!承知いたしました!」


 名古屋支部から青年の視界であろう映像が流れる。


「シカくん!大丈夫!?」


 シカくんと女デュロルはそれぞれ離れるように吹き飛び、両方気を失っていた。


 シカくんは両腕、両脇から出血していて、女デュロルは両腕が肘あたりから吹き飛んでいる。今のうちに女デュロルの放り投げた銃やバッグをより遠くへ蹴り飛ばす。


「……蓮斗(れんと)も馬鹿だけど、そこの坊ちゃんも馬鹿ね」


 気を失っていたはずの女デュロルが起き上がる。


「倒れてる私を、その大きなハンマーで叩きつけもしないなんて、経験が浅いわね」


 女デュロルの両腕からはモクモクと蒸気が噴き出し、吹き飛んだ腕の傷口から、かなりの速さで腕は生成されていく。その姿に見入ってしまう。見入っているうちに腕は生え終わり、蒸気も消え、指をパキパキと鳴らしている。


「……グッ、ゲホッゲホッ」


 シカくんも目を覚まし、両腕両脇を痛がる素振りを見せながら、なんとか立ち上がった。


「お前は……!!遥姉ちゃんを……!!殺した!!自分の子だったのに!!」


 シカくんは振り絞るように声を出す。


「あいつは……、私と公平(こうへい)を繋げる邪魔な存在……あいつが居たから公平(こうへい)のことを忘れられなかったの!!」


「だから殺したって!?ふざけるな!!そんな自分勝手な理由で!遥姉ちゃんの人生は終わったんだぞ!」


「自分勝手で何が悪いの!!私が産んだ命よ、その命を終わらせるのも私でいいじゃない!」





ー咲村 詩織 14歳ー


 この夏、私は1人の男に出会う。


 いつも通り自販機の下に小銭が落ちてないかチェックして回っていた。


 公園の自販機の下を覗き込んでた時、そいつは後ろから声をかけてきた。


「喉乾いた?俺が奢ってあげるよ!」


 私はまた犯されると思い、殺す気で振り向くと、そこには制服を着た爽やかな男の子がいた。


「そんな怖い顔しないで、可愛い顔がもったいないよ!あ、それとも俺、怪しく見えた!?それならごめん!怖がらせるつもりじゃなかったんだ!」


 男の子は手を合わせ、深く頭を下げていた。私が食ってきた男の中で初めてのタイプだった。


 顔を上げた時に見せた笑顔は輝きにあふれていた。


「うん、喉乾いた」


 ジュースを奢ってもらって、しばらく日陰でふざけた話をした。久々に笑った。水道の水を掛け合ったり、近くのコンビニで買った水風船で遊んだり。とにかく楽しかった。


 この男の子は食べる気にならなかった。むしろ。



 人間に恋をした。



 4歳の時にデュロルだった父親に捨てられ、森の中で独りデュロルになる。


 父親に両腕を切り落とされた状態で森に捨てられ、食べるものもなく、腕もない状態だったから、心の底から思った。


 ”腕が生えてほしい”


 木に寄りかかって意識がほぼない状態で、眠るように目を瞑った。


 朝、目をこすって目が覚める。「あれ?」腕が生えていた。お腹もあまり空いてなかったけど、お肉が食べたいとだけ強く思った。


 森を抜けると、見ず知らずの村に出た。森の入り口に一人で遊んでる私と同じくらいの歳の男の子が居た。


「こんにちは!」


 男の子は私を見て元気に挨拶する。


「こんにちは」その子を見た最初の感想は、”美味しそう”だった。


「ねえねえ、森の中に楽しいものがあるよ!行こ?」


「うん!行く!なになに?楽しいものって!」


「教えなーい!すっごく楽しいんだよー!」


 男の子と一緒に森の中に入ってしばらく歩いた。ここで食べよう。そう思った時体は変化した。


「え、誰ー?さっきまでの子は?どこ!?うわあああーーーん!」


 男の子は大声で泣き出した。


 男の子は一目散に走って逃げるけど、軽く走っただけですぐに追い越して前に出る。


 男の子は尻餅をつき、私を見て大泣きしてる。


 私はこの男の子を食べたくて仕方なかった。


「いただきます」


 私は、大泣きする男の子の顔を自分のお腹へ押し付けた。すると、お腹の筋肉が男の子の頬に絡み、肋骨のようなものが何本も突き出て、男の子の頭をお腹に掻き込むように砕いていったのを覚えてる。まるでシュレッダーのようにお腹に入ってく男の子。


 肩らへんまで食べて、お腹いっぱいになると肋骨らしき骨と、お腹の筋肉は動きを止め、元に戻った。


 すると、私は人の姿に戻った。ふと、転がってる元男の子を見る。見た瞬間、吐き気に襲われた。目の前に広がるグロテスクな光景と、生臭さ、胃の中で感じる生暖かな感触に気持ちが悪くなった。さっきまでアレ程までに食べたかった男の子を見ても、同じ感情を一切持たなかった。


 私は血だらけの服のまま森を抜け、村へ出た。


 家屋がある場所で、名前を叫ぶ大人たちが大勢いた。


 私を見つけた大人たちは、一斉に駆け寄る。


「サトシ見なかった!?って、あなた血だらけじゃない!どうしたの!?見ない顔ね!」


 大勢の人に一斉に話しかけられ、それ以外何も聞き取れない。


「まさか!」そう言った1人のおじさんは駆け足で森の中に入っていった。


 ちょっとして、「うわあああ!!」って声が森の中から聞こえた。


 戻ってきたおじさんの腕には、肩から上がない男の子の遺体があった。


 私は村の人たちに捕まった。「デュロルだ!デュロルだ!」って騒がれて、お腹を裂かれた。胃の中にあまり砕かれていない頭蓋骨が見つかると、色々な人に、色々な場所を刺されたり千切られたり、切り落とされたりした。


 気付いた時は、森の中だった。


 再び村へ戻ると、村人たちは驚きの顔を見せた。


「こ、殺したわよね!?」


「腕も捥いだ!!」


「腹も裂いた!!」


「私たちを殺す気なんだわ!!」


 うん、全員殺したわ。


 あんな苦しい思いをさせる人間なんて生きてる価値ない。


 9歳の時、同じデュロルで、人間を大嫌いな仲間と出会う。そこから行動を一緒にした。


 そんな、大嫌いな人間に……。





 ……恋をするなんて。




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